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2003.5.20
 
 


胡政権の健全な危機感…

 5月17日、中国の「2003年科学技術活動週間」が始まった。報道からみても、政府が科学知識の普及に特に力を入れている様子がわかる。(http://www.people.com.cn/GB/kejiao/20030517/994619.html)

 中国は、科技部、教育部、中国科学院、中国工程院、中国科学技術協会、国家自然科学基金委の6部門が同一歩調をとりながら、科学技術力向上のために動きはじめたようだ。胡錦涛政権の、科学技術重視路線が着実に進んでいると思われる。

 SARSの逆流があるにもかかわらず、中国投資は盛んだ。こうなると、今後の成長の一番のボトルネックは、高度な労働力の不足といえよう。なかでも、科学技術人材の不足が問題となってこよう。
 今もって、中国国内の大学進学率は数%に留まったままだから、経済成長につれて、不足は深刻化すると思われる。人口が巨大なので、絶対数はそれなりのレベルに達したが、日本では進学者は約3分の1、韓国は5割だから、未だに発展途上国から脱していないのである。
 こうした状況を早くから予測していた江沢民政権は、1995年の全国科学技術大会で科学教育立国戦略を打ち出している。労働者の質の向上をはかり、国力増強を図ろうとの方針である。

 この結果、大学教育は多様化した。しかし、実質的には3つに分けられた。
 上層は、清華大学のような、研究活動と先端人材創出を目的としたエリート大学である。ここには、ヒト、モノ、カネが積極的に投入されている。グローバルなハイテク競争で勝利するための、鍵を握る機関と位置付けられている訳だ。
 中層は、経済発展に必要な一般人材を生み出す大学である。基礎を身につけており、柔軟な応用ができる人材ニーズに応える教育機関といえる。良質な人材をできる限り数多く生み出す役割だ。
 下層は、地方型の大学である。「職業大学校」型教育機関といえる。地域産業界からの、具体的な技術/技能ニーズに応える人材育成が中心である。

 この流れは、胡政権で、さらに強まっている。テクノクラートの強固な基盤に支えられ、科学技術重視が定着したのである。
 中国共産党中央政治局常務委員会メンバーの履歴を見れば、この流れは一目瞭然だ。全員が技術系大学卒。実務家志向の人事である。しかも、対外発表用胡錦涛国家主席のプロフィールには、わざわざ「エンジニア」との記載を加えている。優秀な人が技術系大学へ殺到することを望んでいる訳だ。(http://j.people.ne.jp/info/data-p/leader/zhengzhiju.htm)
 法学部卒の官僚が跋扈する「技術立国」日本とはまさに正反対である。

●胡錦涛-清華大学水利工程部卒業、エンジニア
●呉邦国-清華大学無線電子学部卒業、上海市電子部品工業公司副経理、上海市電子真空部品公司副経理、等歴任
●温家宝-北京地質学院大学院卒業、甘粛省地質局副局長、地質鉱産物部副部長 、等歴任
●賈慶林-河北工学院卒業、中国機械設備輸出入総公司総経理 、山西省太原重機器工場工場長、等歴任
●曾慶紅-北京工業学院自動制御学科卒業、中国海洋石油総公司連絡部副経理、等歴任
●黄菊---清華大学電機工程学部卒業、上海市石化通用機械製造公司副経理、上海市第一機電工業局副局長 、等歴任
●呉官正-清華大学動力学部大学院卒業
●李長春-哈爾濱(ハルビン)工業大学電機学部卒業、瀋陽市機電工業局副局長、等歴任
●羅幹---旧東独フレイブルクの大学で鋳造学専攻、河南省輸出入委員会副主任、省科学技術委員会主任、等歴任


 このような政権中枢人事は、中国指導部の健全な危機感を現しているといえそうだ。
 21世紀は、科学技術の時代であり、グローバル競争で勝てなければ国は衰退する、と確信しているのだ。

 権力中枢が50〜60才代であることも大きなポイントである。江沢民から胡錦涛へのスムースな世代交替がなされた訳だが、これは単なる若返りではない。中国が21世紀に対応するためには、こうした人事以外にあり得ないのだ。
 中国には、長期に渡る「教育断然の時代」があったため、人的資源には大きな問題を孕んでいる。上記9名は、紅衛兵時代にはすでに基礎教育を終えており、この悪影響をかろうじて免れた最後の人達である。この世代の後は、荒廃した教育に曝されており、地力ある人は少ない。従って、この政権が果たす役割は極めて重い。技術が分かる人材難で、次世代へのバトンタッチは極めて難しい。どうしても、この世代がリーダーシップを発揮して、急いで科学技術立国化を果たさなければならないのである。つまり、これから10年に勝負を賭けるしか、道はないのである。

 この観点から見ても、SARSは中国政府の試金石といえる。「科学の力でSARSに打ち勝つ」ことができるか否かで、科学技術立国方針の成否が問われることになるからだ。


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