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■■■ 曼荼羅を知る [2019.2.27] ■■■
天部 [1] 毘沙門

別尊曼荼羅[→]の一種でもある天部曼荼羅図絵をとりあげる。主尊と眷属的な関係尊を構造的に配置しているという観点ではまさに曼荼羅だが、非仏教尊像だけはやりすぎの感じがしないでもない。

しかもそれが毘沙門天となると尚更。夜叉族曼荼羅そのものだし、地天女と龍神が支える構図には宇宙神的風合いが出てしまうからだが。

その毘沙門天曼荼羅とは、田村月樵(宗立)1862年の作品。(京都 臨済宗の東福寺塔頭毘沙門堂 勝林寺所蔵)独自様式の3重計48尊の版画。かなり細かく描写されている。・・・
【第一院/内院】
〇主尊
〇吉祥天
/功徳天/宝蔵天女…妃
  ビシュヌ妃ラクシュミーの筈だが、密教での扱いは異なる。

〇五太子/五童子…子らしいが、九十太子代表とも。
最勝太子 獨健太子 那太子 常見太子 禅膩師(善膩師)太子

〇地天女
〇二鬼 尼藍婆 毘藍婆
【第二院】
〇八大夜叉大将…各眷属に5,000鬼 配下の夜叉大将5,000鬼
寶賢夜叉 滿顯夜叉 散支夜叉/散脂大將/半支迦藥叉王(妻は鬼子母神) 衆徳夜叉 應念夜叉 大満夜叉 無比力夜叉/阿縛迦夜叉大将…大元帥明王 密嚴夜叉
〇空鉢護法 & 剣鎧護法
【第三院/外院】
〇二十八使者 隠形使者 香王使者 勝方使者 奇方使者 禁呪使者 高官使者 興生利使 五官使者 金剛使者 座神使者 持斎使者 自在使者 神山使者 神通使者 説法使者 総明多智使者 太山使者 大力使者 田望使者 多魅使者 読誦使者 博識使者 左司命使者 伏蔵使者 北斗使者 右司命使者 龍宮使者 論議使者

日本で毘沙門天信仰がメジャー化したとは思えないが、仏教信徒の武士にとっては、武力で反抗勢力を成功裏に抑え込んだ神を尊崇対象としたくなって当然であり、それ故の流行とも言えそう。
その流れは今も途絶えずに続いている。
 〇朝護孫子寺@587年開基 平群 信貴山
 〇護法山毘沙門堂@703年行基開基⇒上京 出雲路⇒山科
 〇鞍馬寺@770年鑑禎開山(草庵)

この毘沙門天Vaiśravaṇaだが、北方守護神としての別称があり多聞天ss/遍聞天。唐風皮製甲冑を着用する憤怒相の武将だが、説法道場で聞いていたとしての命名らしい。[@法華義疏]
大陸にはマングース(中国では、鼠に変っている。)を従える像もあるから、道場で除蛇役も兼ねていたようだ。蛇神と対立的だったとも言えそうではあるが。
持物の護衛用武器はたいていは宝塔と三叉戟で、二夜叉("天邪鬼")が下に。夜叉族だから支えているのではないかと思われるが、踏みつけているように見える像も。ヤクシャYakṣa/夜叉族の王とされ、統領とされているクベラKubēra/俱毗を指すとされているのも、どういうことか理解しにくい。

クベラは財宝持ちであり、それが富貴をもたらす神との見方に繋がって、信仰者を集めたと言われているが、亀や鰐がお宝とも思えず、おそらく繁栄した部族の王だろう。それ以外のお宝が何を意味するお宝かはさだかではない。
 --宝Nidhi--
亀Kacchapa 睡蓮Kumud ジャスミン[茉莉花]Kunda 麝香薔薇Kharva 鰐Makara/摩伽羅 青玉Nīla…サファイア 法螺貝Śaṇkha 蓮華Padma 大蓮華Mahāpadma

古い像だと、財宝守護神らしく太鼓腹の侏儒形。しかし、不思議なことに、短い三足・八歯・一眼の異形。どうして守護神に起用され、姿も一変できたのか理解に苦しむ。ただ、全くタイプが異なる3種族が存在しているからなんとも言えぬが。
("夜叉有三種:一 在地、二 在空虚、三 天夜叉也。"@「維摩経」)

尚、密教曼荼羅では無視される薬師如来だが、「薬師経」には有名な眷属、十二藥叉大將(藥叉=夜叉)が記載されている。天竺辺境には異なる風俗の種族が多数存在していたことから来る護法神の羅列なのだと思う。各大将は七千位藥叉抱えるとされている。
クベラKubēra/俱毗は含まれていないが、その筆頭にガンジス川の水運神クベラKuṁbhīra/宮毘羅/金毘羅@霊鷲山が登場する。似た音であるが、ガンガーの乗物だろうから、蛇神あるいは鰐神であり、全くの別神なのは間違いない。夜叉の大将群が記載されているというのに、毘沙門天は無視されている訳だ。
【十二藥叉大將@「薬師経」】 宮毘羅Kuṁbhīra 伐折羅Vajra 迷企羅Mekhila 安底羅Āṇḍīra 頞儞羅Anila 珊底羅Śāṇḍilya 因達羅Indra 波夷羅Pajra 摩虎羅Mahoraga 眞達羅Kiṃnara 招杜羅Catura 毘羯羅Vikarāla
尚、時に、上記と一緒に16善神(四天王+十二神将)として登場する大般若経守護神
深沙大将(沙悟浄@沙漠)も夜叉である。

修法本尊の別尊曼荼羅ではほとんど触れなかったが、千手観音の眷属、二十八部衆[@善無畏訳:「千手観音造次第法儀軌」637-735年]にも夜叉が入っている筈なのでみておこう。28像(東西南北上下に各4尊+東南・南西・西北・北東に各1尊)とするには、無理がある数だが、まとめて代表1尊にせよということか。・・・
一 密跡金剛士…仁王
二 烏芻君荼央
三 魔醯那羅達
四 金毘羅陀迦毘羅
五 婆婆樓那
六 滿善・車・真陀羅
   
滿善=滿賢夜叉
   車=阿縛迦夜叉大将=大元帥明王
   真陀羅=満仙王=緊那羅王

七 薩遮摩和羅
八 鳩蘭單托半祇羅
九 畢婆伽羅王 《夜叉と並ぶ八部衆所属》
十 應コ毘多薩和羅
十一 梵摩三
十二 五部淨居天/五部浄居炎摩羅…地獄
十三 釋王三十三/帝釈天
十四 大辯功コ天/大辨功コ娑怛那/弁天
十五 提頭ョ王/東方持國天王
十六 
神母女/鬼子母神…散支夜叉妻
十七 毘樓勒叉王/南方搨キ天王
十八 毘樓博叉王/西方廣目天王
十九 
毘沙門天王/北方多聞天王
二十 金色孔雀王…明王
二十一 二十八部大仙衆
二十二 摩尼跋陀羅
二十三 
散支大將/散脂夜叉/善主大將
二十四 難陀跋難陀/難陀龍王
二十五 修羅、乾闥婆、迦樓羅王、緊那羅、摩羅伽
   《夜叉と並ぶ八部衆所属》
    阿修羅…戦闘神
    乾闥婆*…インドラ/帝釈天の奏楽神
    迦樓羅…ガルーダ
    緊那羅…半身半獣音楽神
    摩羅伽…蛇首音楽神
二十六 水火雷電神
二十七 鳩槃荼王*
二十八 毘舍闍*

*: 四天王眷属の八部衆所属(薜茘多, 富單那, 那伽龍は欠落.)

尚、一般には以下のリストが流布しているようなので、上記番号を対応させ記載しておく。
_1 密迹金剛力士
◇那羅延堅固王/ナーラヤナ…
ビシュヌ呼称
15 東方天
17 毘楼勒叉天
18 毘楼博叉天
19
毘沙門天
◇梵天…
ブラフマン
13_帝釈天
○畢婆迦羅王  《夜叉と並ぶ八部衆所属》
12 五部浄居天/五部浄居炎摩羅
○沙羯羅王  《夜叉と並ぶ八部衆所属》
25阿修羅王
25乾闥婆王
25迦楼羅王
25緊那羅王
25摩羅伽王
○金大王/宝賢
夜叉
_6満仙王/満賢
夜叉
_4 金毘羅王
_6 満善車王
20 金色孔雀王
14 大弁功徳天…
サラスヴァティ
16
神母天
23 散脂大将/散脂
夜叉
24 難陀龍王
◇摩醯首羅王…
シヴァ
○婆藪仙人…聖仙(リシ)ヴァシシュタ
○摩和羅女…堅牢地神

さらに、雷神・風神を加えるようだ。

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