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■■■ 曼荼羅を知る [2019.3.1] ■■■
天部 [3] 興福寺阿修羅像

吉祥天像が中国貴婦人的様相な理由は、四天王系鎮護国家信仰が西域で生まれたため、「ベーダ」教の自然神ではなく、各地土着的な護神を起用する必要が生まれたからと見た。
その考え方でいけば、もう一つ触れておくべき曼荼羅がある。
"興福寺曼荼羅図"@鎌倉初期。  [→(C)京都国立博物館]

金色細密な興福寺の伽藍全体を描いた絵図だが、地図ではないから所謂自社参詣曼荼羅ではなさそう。ともあれ、以下のような建造物に安置された尊像すべてが描かれているのである。・・・
______春日社
北円堂_______五大院
____________ 食堂
______中金堂
西_________
南円堂_______五重塔
______南大門

図絵では、人気の阿修羅像は、この西金堂の奥に配置されている。もちろん、建物自体は何度も火災にあっており、西金堂は再建されないママに今に至るが、その像だけは別途大切に保管されてきたのである。

そのお堂内部の尊像が図絵からわかるのである。と言っても、写真では判別も容易では無く、文献上からだが。
西金堂…丈六釋迦佛像。并脇士二人。十六羅漢。八部力士。四大天王。梵釋等。・・・(734年)先妣橘夫人(生母 三千代)御忌日。光明皇后所造立供養也。[@「興福寺流記」]
と言うことで、奉納されたのは、どうも28尊像+2獅子+"金鼓(華原馨)+婆羅門"らしい。・・・
 本尊:釈迦如来
 脇侍菩薩:薬王・薬上
 天:梵天・帝釈天
 十大弟子
 八部神王/八部衆
 金剛力士x2
 四天王
 十一面観音
 (童形)羅
 (天灯鬼・龍灯鬼)

   「金光明最勝王経」夢見金鼓懺悔品
"釈迦浄土"で婆羅門が撃つ金鼓の大音聲が響き、"無量百千大衆圍繞。將諸供具出王舍城。"という状況での、懺悔せよとの説法シーンに合わせたもの。
"男子及女人、婆羅門等諸勝族の合掌一心讚歎佛"御忌日大法要が行われたと思われる。

マ、成程感しかない訳だが、実物の阿修羅像を拝観すると仰天。
武人の姿とは程遠く、細身の少年的な体躯で、憂いを含んだ顔相。所謂、修羅場好みの戦士、阿修羅というイメージとは無縁の像に仕上がっているからだ。

西金堂には吉祥天は安置されていないが、中金堂@721年には存在していたようだ。・・・
 本尊:釈迦如来
 脇侍菩薩:薬王・薬上+11面観音菩薩x2
 四天王像
 天:大黒天・吉祥天
 八部衆
 弥勒浄土像

こちらは彌勒浄土の図ということになる。

こんなところを見ると、当時の日本の上層部の一部は、密教伝来の実態を理解していたようである。
夜叉、阿修羅、彌勒の信仰の由来を知っていたとは思えないが、そこには民族文化の違いがあり、密教がそれを乗り越えてインターナショナルな基盤を整え、ヒト・モノ・経典の交流を果たしていることから、直観的にわかっていたのだと思う。
天尊の曼荼羅にその感覚が現れていそう。

以下は、その辺りを理解するための付録。

《リグ・ベーダ・サンヒター》の言語は印欧語族の最古層の1つと考えられているが、それが、東西の2地域に分裂していく。
  【この地域のインド・アーリヤIndo-Aryan系】
○ヌーリスターン諸語Nuristan⇒@アフガニスタンとパキスタンの一部
○古ペルシア語Old Persian古波斯(イラン)
   エラム語
│┌西部グループ
││   中期ペルシア語Middle Persian
││   パルティア語Parthian/安息
└┤
┼┼東部グループ
┼┼┼   ホータン語/于Khotanese
┼┼┼   コーラスム/ホラズム語Khwrezmian花剌子模@アムダリヤ川下
┼┼┼   バクトリア語Bactrian/大夏
┼┼┼   スキト語Scythian/西徐亜
┼┼┼   ソグド語Sogdian/粟特
○古ベーダ語Classical Vedic@西北インド圏[話語]
│┌[インド側]
││新ベーダ語⇒古サンスクリット語Sanskrit/梵語1@《古ウパニシャッド》
└┤
┼┼[ペルシア側]
┼┼┼アベスター語Avestan/阿維斯陀
サンスクリット語は、もちらん、「ヴェーダVeda/吠陀」教。天・空・地の三界の神々(デーヴァDeva+デーヴィーDevī)信仰の言葉である。
他方、袂を分かった西部側の言語は「アベスターAvesta/阿維斯陀」教として別な道を進む。(所謂、ゾロアスター教Zoroastrianism/瑣羅亞斯コ教/拜火教/教。)アフラ・マズダーAhura Mazdā/阿胡拉・馬茲達を最高神とする善神群=アスラAsura/阿修羅信仰が興ったのである。
「アベスター」教は善悪の線引き思想が強く、事実上の政祭一体統治体制を基本とする宗教なので、婆羅門の「ベーダ」教とは全くソリが合わない。特に、最高神を認めない神々は、 すべて悪魔ダエーワdaēvaと見なすため、信仰が両立しなくなったのである。
真言密教の大日如来は、釈迦如来のように一佛という扱いではなく、理念ではあるものの最高尊の地位にある訳で、「アベスター」教に近い。佛の名称にしても、すでに確立していた阿修羅王ヴィローチャナVirocana/毘盧遮那と全く同じである。
もっとも、「ベーダ」教組織からも、経典では理念だけで神格ではなかったのが、最高神格として梵天が生まれたのだからインド亜大陸に思想的転換期が訪れたと言うことだが。

密教の護摩はどう見ても拝火儀式であるし、胎蔵曼荼羅にも火焔三角形が登場しhており、「アベスター」教の影響は極めて大きい。だが、「ベーダ」教にしても、ミトラ神を導入しており、もともとの根は近かったに違いない。・・・
"太陽神"ミスラMithra@ペルシア聖典アベスター:アフラマズダの脇侍@ゾロアスター教
 ↓
"太陽神"ミイロMiiro@クシャーナ朝(1世紀半ば〜3世紀前半)
 ↓
ヒッタイト@小アジア−ミタンニ@ティグリスユーフラテス上流山岳地帯間の盟約
   (ミスラ, ヴァルナ, インドラ, アシュヴィン双神登場)
 ↓
契約神(盟友締結)定式化…ミトラMitra@「ベーダ」
 ↓
慈氏マイトレーヤMaitreya/彌勒菩薩

理上の固定名(言語依存)・その地の樹立政権名(改名多数)・実権民族名(各地を移動)が区別なく用いられるし、その年代もはっきりしている訳でもなく、領土も変わるし、覇権も移動するので、理解は難しい。"玄奘三蔵の目で見た状況"というような、一断面は極めてわかりやすいが、時間軸でそれを描くのは止めた方が無難である。しかも、明らかに相反する情報もあるし、説自体が内部矛盾を抱えている場合も少なくない。上方の取捨選択は素人には無理である。すべてをゴチャマゼにして、間違いを気にせず、適当で曖昧な用語で全体像を簡素に描いて頭を整理しないと、読むものも読めなくなる。
とりあえず、用語の一部のメモ。・・・
【メソポタミア北部】
○アッシリア(セム族アッカド語)…アッシュール都市守護神(風神)
  メソポタミアからエジプトにまたがるオリエント最初の統一帝国
【メソポタミア南部】
○バビロニア [南部はシュメール,北部はアッカド]… 叙事詩「エヌマ・エリシュ」
【イラン高原】
[東部] ○エラム→○メディア(中心都市ハマダーン)
[カスピ海南岸] ○パルティア
[ペルシア湾岸域] ○ペルシア
【アフガン】・・・アレクサンドロス大王系ギリシア人入植地
○バクトリア(おそらくゾロアスター教発祥)
[その北方] ○ソグディアナ
[さらに北方] ○トハラ(大夏)…スキタイ系遊牧民
【パミール高原西側】
○サカ(塞/釈)族…ペルシア系遊牧民



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