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■■■ 曼荼羅を知る [2019.3.2] ■■■
天部 [4] 涅槃図

釈尊入滅を描いた釈迦涅槃図は曼荼羅の一種と見られてはいないし、天部の尊像は目立たないが、阿修羅像を特別視するならこちらも触れておいた方がよさそう。
自称宗教心薄しと宣う方々の琴線に触れる尊像と言う点では引けをとらないからだ。動物に至るまで、この世に産まれすべての生き物が嘆き悲しんでいることを象徴するような図はそうそうなかろう。ある意味、生=魂と見ている訳で、天部の神々にご利益を願う信仰心の原点であろう。
立派な教義を頭で理解するより、心の奥底の古代から受け継がれてきた信仰精神の底流があると見てもよいのではないか。

現実的にも、もっぱら2月15日の涅槃会用に用いられる図絵だから、その目的を考えると、曼荼羅とそれほどの違いはなかろう。

その内容だが、5世紀漢訳化したと言われる「大般涅槃経」に記載された情景を描いたものと言われているようだ。
知識を欠くと、なにがなにやらその意味がさっぱりわからぬ多数の尊像が並ぶ普通の曼荼羅とは違い、こちらはだれでもが見て納得できる図なので、多くの寺院が所蔵している筈である。

その中では、高野山金剛峯寺所蔵の涅槃図@1086年が日本最古と見られている。
涅槃シーンは、宗派にかかわらず教典内容を共有していると思われ、密教の図絵が特別違うということはおそらくなかろう。

ここでは、一番解り易い解説に頼ろう。
  [→臨黄ネットWEB版絵解き涅槃図 (C)Joint Council for Rinzai and Obaku Zen]

と言うか、東福寺所蔵の8x15mの巨大図絵@1408年を取り上げた一休宗純:「狂雲集」の以下の漢詩が紹介されていたので興味が湧いたからだが。
    「涅槃像」二首
  作佛披毛無主賓
  春愁二月涅槃辰
  有情異類五十二
  混雜紫磨金色身
    又
  頭上北洲脚下南
  前三三也後三三
  逼塞乾坤釈迦像
  看來慧日一迦藍


図絵には規定通りの52衆が描かれている訳だが、江戸期に入るとそれに加えて動物も沢山描かれてくる。(ちなみに、金剛峯寺版は代表として、右下隅の唐獅子のみが描かれている。「百獣の王」的存在なのだろう。)
多分、それが故に東福寺版が有名なのである。もっとも、動物の多種多様さというよりは、猫が含まれているので注目を浴びたのかも知れない。(釈尊前生物語"ジャータカ"にも、どういう訳か猫だけはいない。)

入滅の様子に関しての経典の記述は、教典が書かれた時代で違いはあるものの、教義を入れ込むよりは、読み手の情緒感を高める内容になっている。法事以外は仏教とは疎遠な生活を送る人々にも感動を与えるお話に仕上がっている訳で、教典らしさが薄いのが一大特徴である。

東南アジアの出家タイプの仏教では大きく金色の涅槃像への参拝が盛んだが、大乗仏教国の日本ではほとんど見かけない。その代わりがこの涅槃図ということかも知れぬ。

現実の歴史的出来事を描くことでもあり、絵図は多いものの、構成にそれほどの違いはない。・・・
中央寝台上に北枕で右脇を下にして西向きに横臥する主尊。
○釈迦如来…金色
その周囲は、ご存知の通り。
◇沙羅双樹(四華花)…四方二株
◇衣鉢袋を結えた錫杖
   …左側の樹に架かる。(僧侶の持者は3枚の袈裟と托鉢用容器のみ。)
   尚、 金剛峯寺では、衣鉢袋は枕元に置かれている。

背景としては、画人により違うかも。
 ・満月
 ・跋提河

虚空は散華楽奏となる方が場の雰囲気に合う。
○天人2尊
 ・天の楽器

ただ、飛雲上の利天から来訪のご一行姿を右上に描く必要がある。
生母摩耶夫人+四侍女
 ・薬袋…使えなかった訳である。
その先導役。
○阿那律尊者…天眼第一

さらに、目立たないが、最晩年の説法で教えを受ける方の代表である童子も描かれるのが普通らしい。僧侶の世話をする在家の子供である。
○迦葉童子

胎蔵曼荼羅の外金剛部院だけで尊像は200を越えているが、ここでは52に限定している訳だ。佛の世界を解り易くマッピングした可能性もあろう。
この五十二衆だが「涅槃経疏巻一」によるらしいが、絵の尊像ががよく見えないので、調べなかった。

絵で重視しているのは、説法で各地を廻った釈尊の足をさする姿ではなかろうか。
○老比丘…説教を聞きに来た高齢者。比丘尼か老女でもよいのである。
それでは都合が悪いこともあろう。
○耆婆…侍医

絵によって異なるようだが、寝台前で手を投げ出し気絶状態の弟子を描くことも多い。
○阿難尊者…多聞第一
足をさする姿と悲嘆にくれる弟子の2尊で本来は十分なのであるが、ストーリー的には食中毒の原因にも触れるため不可欠なのが、代わりのを布施食物を捧げる姿。
○純陀…供物

十大弟子は羅漢姿だろうが、他界者除くと思うが、これなかった弟子が入っているかはよくわからない。
○富楼那、須菩提、羅羅、迦栴延、大迦葉、阿那律、優婆離、阿難 (舎利佛、目連)
○六菩薩(観世音菩薩…)
○十四比丘+三比丘尼
在家信者も。
○優婆塞+優婆夷
○阿闍世王+后


天部は四天王、三十三天とか、八部衆は当然加わっている。見てわかり易い尊像としては、
○帝釈天
○執金剛神+密迹金剛神
○阿修羅
○八大竜王
(難陀龍王 跋難陀龍王 善与龍王・・・):頭に龍をつけている。
○迦樓羅 緊那羅 迦陵頻伽・・・
ストーリー上入る鬼もいるが、鬼姿は結構描かれているようだ。
○速疾鬼

江戸期には様々な動物が加わり、牛馬から小さな生物まで描かれる。池を配して鴨や鶴等の水鳥が描かれることも多い。そこらの構想はいかにも日本的である。
日本列島に存在しない、目立つ動物も入れたかったようだ。
○白象
○犀
○虎+豹
○獅子


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