表紙
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■■■ 本を読んで [2014.10.9] ■■■

動物分類に拘る理由

表紙の猿と狸の絵に魅せられて手にとった哺乳類本について、書き留めておきたい。
小生は絵に堪能したが、他の方にもお勧めしてよい本と言えるかは、なんとも。

チラリと立ち読みで、あたりをつけたいと思うなら、先ずは奥付から。
と言っても、書誌的情報や、著者の略歴を見るためではない。そこに1枚の写真が掲載されているから。これこそが著者の主張の真髄でもある。
普通なら、ここは著者の顔か容姿。ところが、被写体は生き物ではなく、ブツなのだ。いくつものダンボール箱に山のように入っている頭骨や尾っぽらしき標本の山。
それだけなら、まあ、そういう学問ということで納得する訳だがそうは問屋が卸さない。
そのなかに1体の人形が入っているのだ。著者のこだわりがどのようなものか、これで推測可能。

要するに、視覚的に、読者は、この著者と自分は違う人種と一目でわかる訳である。

そこで、読むのを止めるという手もあるが、もう少々見ておくのも悪くない。
頁を捲って、「おわりに」を立ち読みするとよい。短い文章だが、この本の結論が書いてある。

 「たぶん、日本人は外来種である。
  しかも、
  日本古来の生態系を根こそぎ破壊してしまう
  最悪の外来種である。
  そうすると、
  生態系保護の名目で日本人は早急に・・・」

そうなのである。
哺乳類の本なら、日本人も登場させてしかるべき。しかし、そこまでする著者はいまい。
上記の引用でおわかりのように、ただならぬ問題提起を抱え込むことになってしまうからである。
同意。

ついでに、もう1ページ捲って眺めるのも悪くない。
そこには、猿の写真とその写真をモデルとした絵が掲載されている。
この本の凄味が一目瞭然。写真より絵の方が圧倒的に生々しく、かつ情報が豊富なのだ。
分類できるということは、このように伝える能力そのものだということがよくわかる。

これに限らず、この本は、絵が美しい。
哺乳類の顔、頭蓋骨、前後足、顎、歯、・・・と、すべてが絵。
だけどそれはあくまでも形態学。
"-formes"の世界なのだ。そのインプリケーションが分類の原点なのだろうが、素人にはいかにも狭そうな視野に映る。・・・どうにかして、その限界を突破したいというのが研究者のモチベーションの根底にあるのだろうが、そう簡単な話ではない訳だ。

実際、「形態」視点が分類として妥当なのかは、なんとも。
同一種族か否かは、繁殖可能性で決まる訳だが、それが見かけの形態特異性で一意的に決まるとの理屈は自明とは言い難いからである。そもそも、外見で種の違いを判別するのは、ヒトという種が持つ特性でしかないのかも知れない訳で。
著者の指摘は鋭い。
 ・ヒトは外見で異種を識別する。
 ・イヌは臭いで異種を識別する。
 ・カエルは鳴き声で異種を識別する。
 ・ミミズは味で異種を識別する。
モグラも臭いで識別と書いてあるが、ひょっとしたら接触感と違うか。だから、人工繁殖の糸口がつかめないのでは。大外れかも知れぬが。

それにしても、著者の絵は雄弁である。
但し、立ち見で味わうのは無理があろう。家でお酒でも飲みながら、くつろいだ気分で、しみじみと見つめるのがベストだと思う。
なかでも、圧巻は「同じ穴の貉」。そう、小生も、ここらが一番疑問に思っていた点だからだ。
 ・アライグマ
 ・アナグマ
 ・タヌキ
 ・ハクビシン
比較しながら眺めると、「そういうことか。」となること請け合い。

そうそう、生殖器の切開状態や陰茎骨の図絵も少なくないので、お知らせしておこう。
こちらは、なんと形容すべきか。確かに、分類の決め手になりそうな情報であることはわかってくる。
しかしながら、その手の絵を見たくない方もおられよう。そういう方はくれぐれもご注意のほど。
ピグマリオニズム(人形偏愛主義)に異常感を覚える方はさらなり。

・・・ということで、この本がどういったジャンル本かおわかりだと思う。
まごうかたなき、理系の分類論の教科書。
素晴らしい。

(本) 川口敏:「哺乳類のかたち〜種を識別する掟と鍵〜」 文一総合出版 2014年4月30日

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