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■■■ 本を読んで [2015.5.24] ■■■

神仙神話の見方

神話中的幸福島上緑草如菌、群獣相安、人民不病不老、為永生不死之民。
・・・中国の神仙思想の解説本を眺めて見た。(文字を眺めただけで、読んだ訳ではない。)

つくづく思ったのだが、中国の宗教観は実にユニークである。

ヒトは必ず死ぬという現実を乗り越えるものとして信仰があるとしたら、肉体は滅びても、精神は不滅であるという考え方をするのが普通ではなかろうか。内容的には、霊として天国に向かうとか、涅槃から西方極楽浄土に行くいう思想まで、様々ではあるが。
中国だけは、肉体を永久に保つ方向に進んだ。と言うか、肉体は滅びないという強い信念がある訳だ。所謂、神仙思想である。秦の始皇帝や漢の武帝辺りの力もあって、道教として結実する訳だが、それ以前からすでに確立していた信仰だったと見て間違いなかろう。

もっとも、それを世界の異端信仰と決めつける訳にはいかない。遺骸をミイラ化するか、少なくとも土葬しておけば復活可能と考える宗派も大いに力を持っていた訳だから。

その不死の世界とは「神山」である。
  【東海】祖州 瀛洲 生州
      (方丈州) (扶桑) (蓬丘[蓬莱山])
  【西海】流洲 風麟州 聚窟州 (昆侖)
  【南海】炎洲 長洲
  【北海】玄州[多丘山] 元洲 (滄海島)
    [東方朔:「海内十洲記」] ()内:5条

山だというのに、不思議なことに、海のかなたに存在する嶋でもある。中華帝国は陸のド真ん中に存在するというのに、どうして大海の孤島にそこまで入れあげるのだろうか。

  渤海之東不知幾億萬里、・・・
   實惟無底之谷、其下無底、名曰歸墟。
   ・・・其中有五山焉:
    一曰岱輿、
    二曰員
    三曰方壺(方丈)、
    四曰瀛洲
    五曰蓬莱

      [列子 湯問篇]

なかでも面白いのは徐福伝説。

 徐氏上書説海中有
  蓬莱、方丈、瀛洲三座仙山、有神仙居住。
 於是秦始皇派徐巿率領童男童女數千人、
 以及已經預備的三年糧食、衣履、藥品和耕具
 入海求仙、耗資巨大。
[「史記」"秦始皇本紀"]

 首次明確提到徐福最終到達的是日本(也叫倭國)、
 今日的日本秦氏(日本古代渡來豪族)為其後代、
 仍自稱秦人。
 並説徐福到達後、將富士山稱為蓬莱。

  [「義楚六帖」卷二十一"城廓・日本"]

まあ、何を示唆している話かは、想像がつく。富士之山も本来は不死之山なのだろうし。・・・覇権争奪で年中戦乱が止まず、統治機構は私欲と権謀術数で動くだけ。インテリや高度職人層に、こんな世に対する嫌悪感が生まれるのは当たり前。渤海のかなたに存在する憧れの島国に亡命でもしたくなろう。
そんな現実を、鳥が栖む西の帝につきつけたのが、日(太陽)が掛かる木(扶桑)が植わっている東の国の天子を称した聖徳太子とも言えよう。

扶桑とは、10の太陽を載せている木で、毎朝そこから太陽一つを西まで烏が運ぶ訳である。生えている地名は蕪皋なのだろうか。

   「讀山海經 十三首 其六」 陶淵明
  逍遙蕪皋上、杳然望扶木。
  洪柯百萬尋、森散覆暘谷。
  靈人侍丹池、朝朝爲日浴。
  神景一登天、何幽不見燭。


陶淵明も不老不死の民になりたかったのである。絵本を眺め、想像の世界に遊ぶ日々を送っていたと見える。当時の主流だった道教耽溺インテリが採る基本姿勢でもあったのだろう。
   「其八」
  自古皆有沒、何人得靈長?
  不死復不老、萬歳如平常。
  赤泉給我飮、員邱足我糧。
  方與三辰游、壽考豈渠央!


ただ、東より西の昆侖山の玉臺の西王母に思慕の念を抱いているようだ。飲酒と長生きを願って。
日本では動物と人間の合体神は亜流だし、西王母の姿は八岐大蛇イメージに重なる。神仙的な世界からほど遠い。従って、どうしても違和感が先に立つ。陶淵明の情感の共有はできかねるところ。

不思議なのは、神山については、それなりに体系化されているにもかかわらず、その源流たる神話の方にはほとんど精力が注がれていない点。官製が無いというだけでなく、まとめられた書物は何一つない。
様々な書籍に、バラバラと部分的に引用されているだけ。氏族信仰一途の儒教国家なので、氏族毎に発祥物語が創られるのでまとめるのは困難なのだろうが、余りに冷淡。
そんなこともあるから、創生神話にしても、統一性は無く、下手にまとめると雑多な寄せ集めになりかねない。
しかし、どの話にしても、創生の「意図」というか、創造者の「意志」を余り感じさせないお話に仕上がっている印象を受けるが、どうなのだろう。

(本) 高莉芬:「蓬莱神話:神山,海洋与洲島的神聖叙事」(神話学文庫) 陝西師範大学出版社 2013年

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