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■■■ 本を読んで [2016.2.6] ■■■

海外小説の食卓シーン観賞

NYのグラフィックデザイナーによる、料理を通した小説案内といった風情の、邦訳写真本を眺めた。筆者のセンスで撮られた食卓が実に美しい。

対象は50作品。驚いたのは、絶版や品切れはあるものの、翻訳本が揃っていること。

冒頭はどうせヘミングウェイだろうと思って頁をめくったらこれがなんと、ハーマン・メルヴィル[Herman Melville]:「白鯨[Moby-Dick]原著@1851年
そう、その第15章がチャウダーなのである。・・・
It was made of small juicy clams, scarcely bigger than hazel nuts, mixed with pounded ship biscuits, and salted pork cut up into little flakes! the whole enriched with butter, and plentifully seasoned with pepper and salt.

マ、チャウダーと言っても色々。普通は、米国東海岸の料理とされ、New Englanad Chowderが定番。砂抜きをきちんと行ってあれば、美味しい料理である。クラムではなく、魚だとCape Cod Chowderだと耳にしたことがある。
スープは微妙に土地柄がでるもの。本では、以下のような展開ありと記載されている。この辺りはよくわからん。
 Manhattan Chowder---トマトベース
 Rhode Island Chowder---バターとブロス
 Hatteras Chowder@NC---白黒胡椒風味
ヘミングウェイなら確実に"Conch Chowder with yucca flavor"では。

もちろん、ヘミングウェイ作品も選ばれている。「二つの心臓の大きな川[Two hearteed River]」小生は読んだことがない。料理としては、ポークビーンズスパゲッティと付け合せのパン。いかにも米国型キャンプ料理といったところ。日本語版には折り込みレシピのオマケつき。ちょっとコレは違うかな感アリ。
ポーク&ビーンズの缶詰はとてつもなく安価で売っていることがあるので、小生も何回か購入したことがある。嫌いではないというレベルなので、都度1缶のみ。好き好きとしか言いようがない料理である。
一方、ソフト茹でスパゲッティ缶は1回で懲りた。日本で売っていないとのことだが、ソリャ日本で一般に流通するような代物ではなかろう。要するに伸びたウドン。茹で汁も入っているが、それはポーク&ビーンズの液体を薄めたようなもの。つまり、もともと2つの缶詰を混ぜるように作ってあるのだ。
米国の缶詰だから、ご想像がつくと思うが、2缶を混ぜるとその量たるや山のよう。見た瞬間、完食を目指す気力が失せることうけあい。当該小説のシーンでは、これにトマトケチャップをかけ、さらにパン4切れがつく。
大型体躯の肉体労働派の食事がどのようなものかよくわかる描き方といえよう。

これよりは、クレイグ ボレス(野間けい子 訳):「ヘミングウェイ 美食の冒険」(アスキー 1999年の料理を愉しみたいもの。その場合は、ドライマティニではなく、ダイキリかモヒートが合う。

大人にも人気な児童用書物も入っており、いずれも心地よい配色のテーブルセッティングなので、見ているだけでも楽しい。
ただ、石井桃子訳には違和感を覚えた。「こけもも」とか「くろいちご」という語彙が使われているにすぎぬが。小生は、ストロベリー、ブルーベリー、ブラックカラントといった名称の方が馴染むからだ。野苺など生まれてから一度も見たことも聞いたことも無い子供だらけの時代である。海外名称はママの方がわかり易いのでは。

児童用ということでは、なんといっても"Chicken Soup With Rice[チキンスープ・ライスいり ―12のつきのほん]"に尽きる。日本人にはなんということもない歌だが、ニューヨーカーだと、涙が出るほどなつかしさがこみあげてくる筈。そんな印象を与える写真であり、秀逸の一語に尽きる。
"Chicken Soup with Rice by Maurice Sendak Narrated by Tammy Grimes" 1997 anovelgirl 2011/01/03up @YouTube

ついでだから、"Carole King + Maurice Sendak = Magic!"とのコメントが付いている映像にもリンクを貼っておこう。
"Chicken soup cartoon with rice" by Janelle Mosey 2015/01/09up @YouTube

時代性を感じさせてくれる食卓にも出会うことができた。

J・D・サリンジャー:「ライ麦畑でつかまえて[The Catcher in the Rye]@1951年の主人公はビタミン豊富ということで麦芽乳飲料を愛飲する。この本が出版された頃、初めてのゼロカロリーソフトドリンクが発売されたという。いくらやっても、未だにカロリー摂り過ぎだらけの社会なのである。

そして、「エデンの東」。・・・
Adam sat like a contented cat on his land. From the entrance to the little draw under agiant oak, which dipped its roots into underground water, he could look out over the acres lying away to the river and across to an alluvial flat and then up the rounded foothills on the western side. It was a fair place even in the summer when the sun laced into it. A line of river willows and sycamores banded it in the middle, and the western hills were yellow-brown with feed.
 (John Steinbeck:"East of eden" Chap,15[1])
  :
Because the day had been hot, Lee set a table outside under an oak tree, and as the sun neared the western mountains he padded back and forth from the kitchen, carrying the cold meats, pickles, potato salad, coconut cake, and peach pie which were supper. In the center of the table he placed a gigantic stoneware pitcher full of milk. (Chap,15[4])
映画では、上記の中国系使用人Leeは登場しないのが残念である。一番のインテリなのに。だからこそ、食卓が映えるのである。
そんな感傷を抱くのは、すでにこの小説もノスタルジーの領域に位置付けられているということか。写真がそれを教えてくれたようなもの。

(邦訳本)
ダイナ・フリード[阿部公彦 訳]「ひと皿の小説案内─主人公たちが食べた50の食事」 マール社 2015年
(原著)
Dinah Fried :"Fictitious Dishes─An Album of Literature's Most Memorable Meals" Harper Design 2014 ・・・うち15の食卓写真
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