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■■■ 本を読んで [2016.2.8] ■■■

25大化石の選定眼(うちカンブリア迄)

突然だが、ふと、洋書の化石本でも読んでみるかという気になって図書館に出向いてみた。対応する日本語用語がわからないことが多い分野なのでバリアはかなり高いが、一つの本に専念してスピード度外視ならなんとかなるかと思って。
驚いたことに、検索で予め決めていた本が無かった。と言うか、誰かが先に読んでいるのである。ホホウ、座席ガラガラなのに、そんなことがあるのだ。

他のことをするのもナンナので、図書館が最近購入した洋書の化石本を読むことにした。
コリャ凄い生き物がいたものだという大人の面白絵本ではないし、お好きな人でないとその価値がわからない化石写真満載の解説本でもない。化石から見た進化に関する科学"読み物"である。
読後感を云々できる知識レベルには到達していないのでなんともいえぬが、注目すべき化石を25に絞っているのでえらく読み易いのは確か。そうなると、小生のような読み手はどうしても、どうしてこの25が選ばれたのが気になってくる。生物の歴史を切り分けるととしたらココがポイントという理由が知りたい訳である。マ、それを個々に解説してあるということでもあるが。

そういうことで、備忘録的に、考えさせられたことを書き留めておくこととした。

●最初の化石●
最初の生物を想定できるような化石の話が欲しいところ。その場合は、本当かいナ的な超微小"化石"がよさげ。だが、フフーン成程的な解説は難しそう。
例えば、・・・。
-----単純単細胞
【0】グラファイト超微量化石@グリーンランドのイスア海洋性堆積岩層
【東北大学プレスリリース】最古の生命の痕跡をグリーンランドの岩石中に発見:生命起源に新たな時間的制約[2013年12月9日]
特に上記に関心がある訳ではないが、20億年を越えるような化石は、ソレ本当に細胞?、と思うものだらけ。1mm以下でも、拡大写真は海綿に見えたりもするが、だからといってそれが生物とは限るまい。などと考えると、割愛が無難か。

藍藻(シアノバクテリア)化石をイの一番にあてるのは、酸素の地球を形成したのだから当然とも言える。ただ、ストロマトライトは特定地域とはいえ生き抜いている。火山地域でもないのに、全球凍結をどうやって生き延びたのだろう。
-----群体単細胞
【1】藍藻「クリプトゾーン」(Cryptozoon)

●奇怪に映るエディアカラ生物の化石●
3,000万年程度の短い期間に、得体の知れぬ生物が大繁栄したようだから、多種多様な化石を持ち出したくなる訳で、そこから選ぶはのかなりの思想性を要する。
一等当選は、一見葉状生物。
-----機能分化多細胞
【2】大型海草似「チャルニア」(Charnia)
昆布の元祖かと思わせる、2mのリーフパイに柄がついた海底定着生物。光合成していないので、植物とは見なせない。と言うことは、バクテリアを大量に抱えた牧畜生物ということか。
外見からすれば、羽根ペンならぬ海ペンの「筆石/グラプトライト」の仲間に映る。見かけだけでは同類なのかわからないらしいが、それを別としても、この手の形態はいかにも異端の印象を与える。そこを強調したいなら、突拍子もない形状を取り上げた方が面白いと思う。全体としてはまん丸だが、三射状の腕が組み込まれている「トリブラキディウム」など最高。どう考えても、こんな生物の縁戚はいそうにない。・・・どうしてこんな姿になったのか、そして、この後、このようなトンデモ形状が登場しないのは何故?ここらを是非にも解説して欲しいもの。
もしも、理由が語れないなら、進化の本流を考えさせられる化石で解説してもらった方が理解し易かろう。

そんな化石として、小生は、楕円形座布団様の「ディキンソニア」を推したい。おそらく、海底をモソモソ動いていた生物だろうが、その生態がポイントではなく、いかにも大口一つだけの腔構造らしき体型だから。(光合成できない、有食餌口動物の元祖に見える。)それが、多細胞の機能分化の走りの象徴と見るのである。口から出し入れは非効率であり、やがて口入り-肛門出し構造へと進むことになる。プックリ座布団型体躯というのがミソなのは、膨れなければ、口での出し入れができないという点にある。恐ろしき異端児の「トリブラキディウム」にしても、その腕は空洞であり、膨張させることでなんらかの機能を発揮した筈だし、「チャルニア」もプックリ体躯の筈である。
尚、「チャルニア」の葉状体は見かけ左右対称だが、そう考えてはいけないらしい。重要なのは、節構造である点。

しかし、体節構造よりは、先ずは防衛用盾あるいは兜、鎧の類を着けることが、メルクマールということのようだ。
-----殻
【3】重ねたコップ型「クロウディナ」(Cloudina)
防衛用の殻が生まれたということ。これが、後に、骨格形成に繋がる訳で、それはカンブリア大爆発の準備要件だろうから、進化の流れとして極めて重要な化石なのは間違いない。
言い方を変えれば、シアノバクテリア死体の体躯からなる化石礁の時代から、生きた細胞が産出する炭酸カルシウムでできた殻礁の時代に移行したと言えよう。そんな時代の先駆者は、微小シェルを持つ生物ということになる。該当するのは、CloudinaとSinotubulitesのようだ。(ここらの日本語ネット情報は少ない。)

●カンブリア大爆発の化石●
この本が優れていると感じたのは、この時代の最大捕食者「アノマロカリス」を打ち出していない点。誰だって、この恐ろし気な生物が蠢いている様子を想像すれば、代表的生物にしたくなるが、全体を俯瞰すれば、小さな生物だらけだったのは間違いないのだ。要するに、この時代は、食うか食われるかの熾烈な競争の幕開け。
それだからこそ、ベーシックなボディプランの試行錯誤が進んだとも言える。この時代に、生物の基本形がすべて出揃ったのである。そんな観点では、「アノマロカリス」を取り上げても、ボディプランを云々できないので意味が薄かろう。
ともあれ、そんな流れを知らしめた"バージェス頁岩"化石は歴史的記念物と言えよう。

しかし、その前に、カンブリア期登場生物の代表として外せない古代種がある。世界中で見つかるほど大繁栄した種だからだ。絶滅は古生代末期。
----大型シェルの節足
【4】最初期三葉虫(Olenellus)
なんといっても凄いのは、頭-胸-尾がはっきりしている点。つまり、節足動物の黎明期がわかる化石ではなく、節足の方向に進むと、このように進化していくというボディプランの完成形を見せつけていると言ってよいのでは。なにせ、直接的系譜でなくても、構造設計上似てしまう兜蟹のような生物が登場するのだ。
尚、アノマロカリスだが、三葉虫の超大繁栄に合わせ、それのみを襲って餌にする種が生まれたと考えれば辻褄があう。

代表的なバージェス頁岩化石はこちら。
-----脱皮
【5】ハルキゲニア(Hallucigenia)
綺麗に配列させた大きな棘を沢山持つイモムシ様で、訳のわからぬお姿だが、全体構造を考えると、「チャルニア」のような葉状体躯の雰囲気を残しながら、移動を開始するために、節構造という縛りから多足化しただけといえなくもない。前後と上下がはっきりしており、左右対称でもある。口はそのままで、腔が内臓化し、肛門が生まれた様子が見て取れる。奇妙な姿だが、現生の、熱帯棲息の鍵虫の類縁とされている。手の先に爪がある点で、同類ということか。節足動物ではないが、幼虫のイモムシに似ており、外側で体躯を支えている。従って、成長のために脱皮は不可欠となる。

脱皮系旧口動物を出したら、新口動物の登場の前に、同じ旧口動物である軟体動物の祖先が来るのは自然な流れ。頭の整理には最高の手である。
黙っていても、ボディプランの大枠が見えてくるからだ。
 多細胞体の機能分化進展
  ├→光合成し易く喰われないように進化
  ↓・・・食餌機能特化(「口」組織形成)
 出入り穴1ツ体腔=食餌代謝排泄一括機能
  ├→新しい穴が口に
  ↓・・・穴はそのまま口に
 口-腸-肛門系の確立
  ↓
  ボディプランA {体節構造}・・・ハルキゲニア
  ボディプランB {非体節構造}・・・軟体動物の祖
驚くことに、選定されたのは、軟体動物の祖としてよく取り上げられてきた名前の化石ではない。
-----外殻(軟体)
【6】「ピリナ」(Pilina)
ただ、現生に、類似の単板類の「ネオピリナ」が存在するので親しみが湧くとはいえる。単板類の殻は左右対称で、心臓や生殖器も対であり、前後上下構造のボディプランで設計されている。
常識的には軟体動物は以下に示す分類になっており、無板の細長い虫状のものが元祖としては適当だと思うが、無板は現生生物自体ほとんど知られていない種であり、その手の化石をみせてもらっても、軟体動物の祖イメージは全く湧かない。貝的な姿を選ぶ方がよいかも。と言うか、炭酸カルシウム構造物を欠く生物がはたして化石として残るものか疑問が湧く訳で、軟体動物の祖の化石選びは難物である。
余計なことを言えば、以下の分岐は素人的には馴染まない。「鱗片→単板→多板→直殻→曲殻」[無板と無殻は退化]という流れを考えてしまうので。
ちなみに麟片で覆われる生物化石ハルキエリアは以下の最初の分岐直前に発生したとされている。
┌───溝腹[無板]・・・・サンゴウミヒモ、カセミミズ

│┌──尾腔[無板]・・・ケハダウミヒモ
└┤
│┌─多板・・・ヒザラガイ
└┤
│┌単板・・・ネオピリナ
└┤
<曲型>腹足[巻]・頭足
<直型>掘足[角]・釜足[二枚]

それでは新口。カンブリア大爆発で登場した魚類の祖先が選ばれている。一挙に脊椎動物まで登場する訳だ。
-----脊椎動物
【8】「ハイコウイクチス」(Haikouichthys)
(ご注意:日本語Wikiではミロクンミンギア/豊嬌昆明魚の同一種として記載。)
澄江動物群の化石である。ここが決め手。バージェス頁岩化石のピカイアは始原の座を明け渡したのである。
日本でも、「最古の魚類“ハイコウイクチス”の化石レプリカ」を科博に貸し出した博物館がある。(蒲郡市生命の海科学館)おそらく、世界的に滅多に見られない化石なのだろう。その割には話題にはなっていないようだ。

6番から8番になったが、7番は上陸直後の植物化石。
陸上植物の大繁栄といえば中生代石炭紀だが、その前哨戦的進化がわかったのが、ライニーチャート植物群の発見のお蔭。古生代ではあるが、カンブリア大爆発よりずっと後のデボン紀のこと。
選ばれた化石はライニー系統の前駆維管束タイプだが、世界中で発見されているもの。シリル紀末に登場したらしい。カンブリア紀より新しいが取り上げておこう。
-----陸上植物
【7】「クックソニア」(Cooksonia)
Y字の枝があるので、いかにも樹木の祖という印象を与える。

長くなったのでとりあえずここまで。

以下、オマケ。「Natural History Museums」一覧をメモしてきたので。
リストにあがっているのはこんな都市。・・・米(NY,ワシントン,シカゴ,ピッツバーグ,デンバー,LA,ニューヘブン,ボーズマン,フィラデルフィア,サーモポリス,ケンブリッジ,アルバカーキ,リンカーン,ノーマン,ラピッドシティ,ゲインズビル),カナダ(オタワ,ドラムヘラー),英(ロンドン),仏(パリ),,ベルギー(ブルッセル),独(ベルリン),中(北京),南ア(ケープタウン)
小生は上野の科博も悪くないと思うが。


(本) Donald R. Prothero: "The Story of Life in 25 Fossils - Tales of Intrepid Fossil Hunters and the Wonders of Evolution" Columbia Univ. Pr. 2015
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