表紙 目次 | ■■■ 本を読んで [2017.4.24] ■■■ "怪物"とされる蛸は私の友人 小生としては、翻訳題名と表紙の絵が大いに気にくわぬ本だが、商業的には致し方ないのであろう。しかし、読み易い本なので、お勧めしたい。但し、蛸好きでないと冗長で飽きるかも。もちろんタコ焼ではなく、生物の方。 肝心なストーリーだが、4匹の飼われているタコの話ともいえるし、その水族館にまつわる人々の人間模様を描いた、とも言えよう。ともあれ、ナチュラリストのタコと人間の交流に関するノンフィクション本なのだ。 という紹介より、タコ教カルト集団、"静けさと恍惚に至る道"の実話と言った方が当たっていそうな感じもするが。 たまたま、唐代の書「酉陽雑俎」を延々と読み続けているところでもあり、[→]こんなことを書いている訳だが。 そういう点で、うなずけるところ多し。その感覚を説明し出すと長くなるからやめておこう。 ただ、水族館のアマゾンコーナーの水槽でのアロワナ事件を描いた箇所をご紹介すれば、小生の気分もなんとなくお分かりいただけるかも。 その骨舌魚/Arowanaだが、アジアでは「龍魚」とされ、"風水ではもっともパワーがある魚で、富と成功をもたらし、飼い主を危険や事故や病気や不運から守ると信じられている。"もちろん、人間の言葉も理解すると見なされている。 マ、発生したのは、予期せぬ出来事ではあるが、そうたいした事件ではない。アロワナ水槽のお隣、と言っても、90cmの障壁を隔てているのだが、そこを電気鰻君の仮住まいにあてたことが発端。その電気鰻君が大ジャンプを敢行し、隣に侵入してアロワナを放電死させてしまっただけのこと。ただ、当事者曰く、「アロワナを死なせ、一緒に幸運まで死なせてしまった。」ということになったのである。・・・ その前日、飼育員の両親が交通事故に遭遇し母親入院。大好きな叔父は大聖堂の階段で転落死。本人も自宅の階段で落ちて怪我。息子は高熱で入院。恒例のツアーの支援者が死亡と、続けざま。半年たっても、皮膚病罹患、愛犬の死、飼っていた鶏の群れが狐に襲われる、という不運だらけ。 "大して迷信深くない私たちでも、…アロワナの力を信じたくなる"というのだ。 そんなことが引き金になったのか否かはわからぬが、タコのような生物に、原書の題名である「ソウル」があるのか、言い換えれば知覚とそれに連なる内在する意識があるのか、との問題提起が最後になされる。水族館という人工の地ではなく、タヒチ モーレア島の自然が残されている海の地で。そこにはタコ教会があるのだ。 (ポリネシアではタコの神ナ・キカが島嶼を作ったとされているそうである。) その礼拝に参加し讃美歌を聞きながら、著者は、ハタと気付き、確信に行き着くのである。 「私に魂があるなら、 ─あると自分では思っているが─ タコにも魂があるはずだ。」 おっと、そのような宗教や思弁的な話の本ではないから、誤解されぬように。 ついでながら、博物学的装いや科学啓蒙書的臭いも感じられない。しかし、手抜きという訳ではなく、調査助手がそこらを見渡した上での執筆のようだ。"日本の「触手責め」というあまり歓迎しないもの"にも触れているから。 ただ、上記のような感覚が生まれたのは、モーレア島のタコ教会ではなく、ニューイングランド水族館の水槽でのことだと思う。 老衰で死期が迫った遊び仲間だったタコ君が、著者と大好きな飼育員さんとお別れの握手をするために、最後の力を振り絞りやってきたのである。 水族館講演→ 「Sy Montgomery: The Soul of an Octopus」 by New England Aquarium2015/10/14 YouTube これでご想像がつくように、New Englandの知的人々が作り上げた社会風土を描いた作品でもある。だからこそ、民間企業に勤めながら、初めてタコの玩具を作った水族館ボランティアの人物像が記載されているとも言えよう。 最後に一言。 動物が"懐く"話だが、日本には、活魚店の生簀で売り物と一緒に住んでいる魚もいる。飼い主と遊ぶし、網を持ち出すともちろん底に隠れる。この手の現象は、実は、驚くような話ではない。現代人の生活では、そのような体験ゼロというに過ぎない。「酉陽雑俎」的に言えば、植物でさえ、そのような現象を探せば、どこかでそれを味わった人が存在している筈となろう。 (Animal consciousnessは、ようやくにして、認知されるようになったが。[The Cambridge Declaration on Consciousness@July 7, 2012]) 我々の、生物に関する知識は、実はまだまだ初期段階で、今、ようやく扉が開きそうといったところ。 (本) サイ・モンゴメリー [小林由香 訳]:「愛しのオクトパス─海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界」亜紀書房 2017年3月1日 本を読んで−INDEX >>> HOME>>> (C) 2017 RandDManagement.com |