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■■■ 本を読んで [2018.4.5] ■■■

封禅の構造

仏の中国学の草分け的存在、シャヴァンヌ(Édouard Chavannes[1865-1918年])の古典的論考とされる訳文を読んでみた。
分量にして、400字詰原稿用紙100枚程度しかなく、極めて読み易い訳文なので素人でも一気に完読可能。

しかし、それは頭馴らしのようなもので、読み応えある部分というか、価値の高いところは「解説」。
(宗廟)と社(地霊)が両輪となっている中華儒教国家の宗教観をどうとらえるべきかのレビューになっているからだ。

中華帝国における宗教の捉え方はヒトによって随分と違うが、独裁者による帝国の采配をアプリオリに大歓迎する点が一大特徴ではなかろうか。

大陸である以上、古代から戦争不可避であり、敗者側になると、逃亡や絶滅の道に追い込まれる可能性があるから、それを阻止するためには独裁者支配の帝国化こそが最良というだけの話だが。
ただ、そのためには、相当な犠牲を払う必要がある訳で、帝国化に失敗した支配者は即刻消滅の憂き目。

この帝国は、独裁者の歴史的要件が何もない点が特徴。
そのため、独裁者の権力基盤が崩れると帝国は一気に瓦解しかねない。所謂、革命勃発⇒新帝国樹立になる訳だ。
従って、支配者の権威付けのため、歴史書で前の独裁者達から覇権を引き継ぐことになった理由を描くことになるが、そんなものはたいした力にはならない。帝国官僚組織の自己満足以上ではない。
従って、独裁者にとって不可欠な権威付は、血族の祖霊信仰を表に出すことしかない。中華帝国は宗族第一主義を掲げざるを得なかったのである。
それに道徳観や占術を接ぎ木したのが儒教であろう。

一方、被支配者を帝の下に束ねる機構は官僚組織だが、その精神的紐帯となるのが、「社」の構造。祖廟と「社」は、中華帝国の両輪ということになる。
この「社」だが、官僚組織に倣った階層構造で成り立っていることが特徴である。末端まで権力によって組織化されており、形態上は「官」ではなく「民」だが、自発的な土着信仰的集団ではなく、「官」公定の集団なのである。極めて、プラグマティックな末端組織と言ってよかろう。
当然ながら、最上部は帝が差配する「社」となる訳で、民が心地よい生活ができるように行う中央祭祀の場として定義されることとなる。言うまでもないが、それは治安のための行事を兼ねているのは間違いない。

要するに、上から下まで、ご都合主義でまとめられた信仰である。
小生は、そんな信仰をいくら分析したところで、原初の信仰が見えてくるとは思えない。なんとでも言えるからだ。

山深い島嶼に生まれた倭国の場合は、狭い地域毎に、その環境に合わせた生活を追求せざるを得ないから、こうはいかない。文化の土台が違うのである。
もっとも、そうは感じない人もいそうだが。

(本) E.シャヴァンヌ[菊地章太 訳]:「古代中国の社 土地神信仰成立史」東洋文庫 2018年2月9日[1910年論文"Le dieu du sol dans la Chine antique"]
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