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■■■ 本を読んで [2019.11.26] ■■■

珈琲哲学の魅力

寺田寅彦:「コーヒー哲学序説」の話ではなく、インドネシア現代文学の「珈琲の哲学」。

前者は、小学生の寅彦が、パンとバターを食べる小公子と、蝗の佃煮を食べる江戸っ子の同級生を、好奇と驚異の目で眺めたという話から始まり、老年にしてコーヒー牛乳に嵌る話。
一方、後者は、インドネシアの現代コーヒー[Kopi]事情話。当地には、マンデリンやトラジャがあり、はたまた超貴重な麝香猫糞珈琲まで揃っており、美味しさは折り紙付き。愛飲者だらけの地であるのは言うまでもない。
ただ、淹れ方が細粉をカップに入れて熱湯を注ぐという方法[Tubruk]なので、日本人には多少の違和感がある。馴れればどうということはないのだが。
しかし、この小説の舞台はその手のコーヒーではなく、バリスタが入れ込むコーヒーショップの世界。インターナショナルな流行の、凝った淹れ方が題材。もちろん技術ではなく、仕事の哲学の方。

その、翻訳書を読んでみた訳だ。

ただ、書籍の宣伝文句からは、そんな小品とは思えないかも。・・・
"表題作「珈琲の哲学」をはじめ、さまざまな形の愛を追い求める人たちの痛みと迷いと癒しを鮮やかに描き出す珠玉の18篇を収録。"というのだから。

この小説は映画化されインドネシアでは大ヒットしたそうだ。本邦でも、第29回東京国際映画祭で上映されたそうだが、小生は関心がなかったので全く覚えがないが。

正直に言えば、インドネシアの文芸と聞くだけで敬遠というだけのこと。
どうせ、政治的な意味を持たされた作品か、当地の宗教に根差す道徳・家庭生活問題を取り上げた私小説だろうと考えていたから。なにせ、インドネシアは軍事独裁が長かったし、宗教的には世俗からかなり離れたイスラムだから、どちらにしても小生には縁遠く、理解しがたいところがあり、手を出す気分にならないのである。

ところが、この作者はそれとは全く違う地平でご活躍の様子。
1976年生まれで、執筆は大学時代らしい。歌手だが、小説も書いていたということのようだ。
その発刊は1996年。
お話には、インターナショナルに学ぶバリスタが登場するが、Blue Bottle Coffeeオークランド開業は2002年であり、それよりずっと昔。

もともとはクリスチャンだったが、仏教とユダヤ教神秘主義を学んだという。現在は、ヨガ生活のベジタリアンらしい。ともあれ、宗教的抑圧が強そうな社会のなかでの、反原理主義の非イスラムの女性である。
そんな経歴の方が、インドネシアでヒットを飛ばしたのである。
(もちろん、Wikiには、著者について、Bahasa Indonesia、Jawa, Sunda語で記載がある。)

マ、そんなことで、初期短編集を眺めてみた次第。

(本) [福武慎太郎/監訳, 西野恵子, 加藤ひろあき 訳]:「珈琲の哲学 ディー・レスタリ短編集1995-2005」上智大学出版2019年5月
 Dee Lestari:"Filosofi Kopi: Kumpulan Cerita dan Prosa Satu Dekade [A Decade Worth of Stories and Prose]" 2006年

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