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2003.5.7
 
 


Ig Nobel Prizeの誤解…

 2002年にタカラの「バウリンガル」が、平和賞を授賞したため、「Ig Nobel Prize」が一躍有名になった。バンダイの「たまごっち」も1997年の経済学賞を受賞しているから、ジャーナリストも面白がって報道する。
 このため、授賞研究リストを眺める人が増えているようだ。(http://www.improbable.com/ig/ig-pastwinners.html)

 なかには、一見の価値ありと真顔で語る研究機関の幹部もいる。

 確かに、文化の違いを知るには意味がある。

 「Ig Nobel Prize」は、意味の無い研究を真面目に追及した仕事に対して贈るユーモア賞とされている。「あり得ない研究」と見なせそうなものを選ぶことになっている訳だ。
 しかし、この基準に当てはまりそうにないものも選ばれている。しかも、日本のものが多い。

 典型は、1997年の生物学賞、「チューインガムのフレ−バーと脳波パターン」だ。関西医大、スイスやチェコの研究者がNeuropsychobiologyに発表した論文を対象としている。
 1992年の薬学賞も同類といえよう。資生堂の研究所がBritish Journal of Dermatologyに発表した「足の臭気」研究である。
 両者ともに、遊び心や単純な興味から進めた研究とは思えない。

 確かに、脳波だけで、簡便な嗜好判定はできないのが実情だが、フレーバー効果測定への挑戦が意味が無いとは思えない。味にこだわりがある社会では、この分野の研究は盛んであり、驚くような研究どころか、極く自然な研究テーマである。[例えば、松尾祐子:「嗜好飲料の香りによる脳波の変化」日本味と匂学会誌、6(2)、1999年8月、岩木、他:「脳波・脳磁界計測における脳内信号源推定法」同、9(1)、2002年4月]
 日本では、リラックス状態の時に出現するα波が観測されることが、商品訴求の重要ポイントになっている。従って、こうしたテーマは、違和感どころか、一般消費者から歓迎されるもの、といえよう。

 資生堂の場合はもっと明瞭だ。足の臭気ではないが、「おじさん臭」では、すでに研究成果を現実のビジネスに結びつけている。新会社を立ち上げたのである。(http://www.shiseido.co.jp/s9604let/html/let0019t.htm)
 清潔好きな社会では、極く当たり前のニーズに応えただけといえる。

 両者とも、日本市場では笑い話しの対象にはならない。極めて実践的なテーマだからだ。

 「たまごっち」も、よく考えれば、ソニーのロボット「AIBO」のようなデジタルペット製品の先駆けと言えそうだ。日本市場では、風変わりな製品とは呼べない。
 「バウリンガル」もペット用デジタル玩具と見なせる。
 どちらも、好事家が作り出した偶然の製品とは思えない。

 このことは、日本のビジネス文化は、米国より先を走っているといえそうだ。大きな時代の流れを見ながら、日常の些細に見える現象を科学で解き明かして、新しい産業を創出しようと努力している姿が見えてくるからだ。・・・「Ig Nobel Prize」を授賞した日本人例を見ていると、期待が湧いてくる。

 といっても、7年間もの間、税金を使って、鯰の地震予知研究を続けることを是認する気にはならないが。


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