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2003.5.8
 
 


Simple Life化の内実…

 Simple Lifeを求める人が世界中で増えている。

 典型的な生活イメージとしては、米国の「Real Simple」が目標と言ってよさそうだ。(http://www.realsimple.com/realsimple/)
 ここには、健康で楽しそうな生活が揃っている。住宅、衣服、食事、健康、休暇、といったすべての場面で、「簡素化」を追求すれば、精神的にもリッチになれそうな気になる。

 しかし、これだけの生活を実現するには、それなりの費用が必要となる。どうみても、比較的高所得の人だけが追及できる生活パターンだ。
 といっても、安定して高所得が約束される時代ではない。従って、精神的にリッチなSimple Lifeを実現したければ、一生懸命に仕事をして、お金を稼ぐしかない訳だ。米国人は拝金主義化したように見えるが、それ以外の道はないのである。
 これが、米国型Simple Lifeの実態である。

 そもそも、生活を簡素化するには、必ず、それに見合った「コスト」がかかる。「コスト」の多寡は求める生活レベルで変わるが、本質は同じだ。

 例えば、150年も前の、ヘンリー・D・ソローの「森の生活−ウォールデン−」をSimple Lifeのモデルと考えたらどうなるだろう。思想は理解できるが、もし、本気にこの生活を追求したら、一日中食糧確保に終始せざるを得ない。とても、スピリッチュアル・ライフどころではあるまい。これが現実である。(「Direct your eye sight inward, and you'll find a thousand regions in your mind yet undiscovered. Travel them, and be expert in home-cosmography.」http://xroads.virginia.edu/~HYPER/WALDEN/walden.html

 最近話題の海外の節約本を思い浮かべる人もいるだろう。(サンドラ・ヘフェリン著「浪費が止まる、ドイツ節約生活の楽しみ」光文社カッパ・ブックス、佐藤絵子著「フランス人の贅沢な節約生活」祥伝社、デボラ・デフォード著「居心地のいい-簡単生活」ジャパンタイムズ、等々)
 これらも、真似をすれば、綺麗ごとでは終わらない。ドイツ型なら、膨大な環境維持作業が必要になるし、フランス式では、美しさを保つための活動や、食の準備作業に、大幅に時間を割かざるを得ない。時間を割けば、心の豊かさは味わえるが、その分だけ他のことができなくなる。

 これは、時間の余裕がある海外の真似をしたから発生する問題ではない。魚柄仁之助流の食生活に変え、山崎えり子風の節約生活を取り入れ、辰巳渚のアドバイス通りモノを捨て、中野孝次の清貧の思想/生き方に従っても、同じことがいえる。
 意気込みだけでは、堅実でていねいな暮らしは実現できない。「簡素化」のためには、大幅に自分の時間を費やす必要があるのだ。

 ところが、もし、この時間を仕事に充当すれば、収入増が実現できる。つまり、それだけの「コスト」を支払って、「簡素化」を図っていることになる。貴重な時間を割いて「簡素化」を進めれば、確実に満足感は高まるが、その「コスト」は小さくはない。
 従って、「コスト」が過大なら、「簡素化」追求の意味は薄れる。

 こうした「コスト」感覚なしに「簡素化」を追求できるのは、安定した仕事を持ち、将来に渡って収入が約束されている人達である。将来に不安を感じないから、「おしゃれな生活というより、肩の力の抜けた気持ちいい生活」ができるのだ。(http://kunel.magazine.co.jp/)

 このようなことができる人は減りつつある。多くの人は、将来の雇用保証がなく、収入変動リスクを抱えるようになっている。
 労働市場における競争は熾烈化しており、脱落すれば、仕事を失いかねない状態である。もしも、あくせくせず、のんびり過ごせば、将来どうなるかは自明だ。肩の力を抜くことなどできないのである。
 将来の仕事を確保するには、常に自分を磨くしかない。現在の仕事に注力し、力をつけると同時に、新しいスキル獲得のために勉強せざるを得ない。このため、モノやサービスをできる限り外部から購入し、仕事や勉強時間を増やさざるを得ない。

 「簡素化」とは、実は、こうしたモノやサービスの購入過程の見直しと、仕事関係以外に、なんとか割ける時間を徹底的に楽しむためのイベントでしかない。それ以上の「簡素化」挑戦は、リスクが高く、事実上無理なのだ。

 矛盾しているように聞こえるが、本当にSimple Life化を進めたいなら、家庭生活機能のアウトソーシング化は不可欠なのである。


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