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2003.11.10
 
 


街づくり 代官山から学ぶ…

 日本中で、オーバーストアと言われながら、お金をかけた商業施設づくりが続いている。
 立派な施設はできるが、売る商品/サービスは大同小異のものが多い。

 どうしてこのようなことになるかといえば、短期間に振興可能な対象産業として、商業分野を選ぶからと思われる。そして、振興策の目玉として商業施設づくりが行われる。

 この時に問題となるのが、街のコンセプトである。

 他の街と同じでは集客性は期待できないから、成功例を参考にしながら、集客力あるコンセプトを案出することになる。ところが、一部の人が思いついた目新しいコンセプトを採用するのは難しい。どうしても、成功例を徹底的に調べたり、様々な人達の意見を集約した上でコンセプトを作ることになる。その結果、地域の独自性は曖昧になる。斬新だが、地域に根ざしたものでなくなる可能性が高い。

 オーバーストア状況で、このような状態から、街を育てていくのは大仕事である。
 新施設ができれば当然ながら人々は集まってくる。しかし、これが成功に結びつく保証はない。もともとオーバーストアなのだから、競争相手から顧客が移ってくるにすぎない。当然ながら、競争相手は、さらに凌駕する街づくりを始める。地元の生活と切り離された「コンセプト」でよいなら、どの地域でもすぐに挑戦できる。
 見かけは新しいが、同質の熾烈な競争が続くことになる。

 不毛な競争を誘発しかねないのだ。・・・このような街づくりは避けるべきだろう。

 そのように考える人も増えているようだ。東京の代官山地区が、街づくりケーススタディの対象として、取り上げられているからだ。

 そもそも、代官山は大規模開発で注目を集めた街ではないし、由緒ある地域でもない。名所旧跡などほとんど無い、どこにでもありそうな山の手の町の1つにすぎない。しかも、鈍行しか停車しない小さな駅しかなく、人通りも少ない静かな地域だったのだ。
 ところが、今や集客力抜群なのである。オリジナル・クレジットカード、街のガイドブック、ホームページが揃い、東京の人気スポットの一つになっている。
  (http://www.daikanyama.ne.jp/)

 そのきっかけは、「代官山ヒルサイドテラス」である。1967年、朝倉家所有地に建った集合住宅である。
 このモダンな低層都市建築がベースとなって、クリエーティブな人々が集まり、文化活動が活発に行われるようになり、代官山型のライフスタイルができあがったのである。世界に誇れる、文化発信地域が創出されたと言えよう。
 [核となった人達は、スペースを管理/運営する朝倉不動産の兄弟経営者、朝倉徳道氏、健吾氏と、建築設計を担当した槙文彦氏の他、元倉真琴氏(建築家)、岩橋謹次氏(アスピ代表)、北川フラム氏(アートフロントギャラリー代表)である。]
 (1998年度メセナ大賞 http://www.mecenat.or.jp/taishou/taishou_text.1998.html#1998taishou)

 ここから学ぶべき教訓は、できあがった「施設」の素晴らしさではない。何故このような街づくりを進めることができたか、という組織的根拠の方である。
 一言で言えば、街を愛しているオーナーや参画者がリーダーシップを発揮できたから成功したのである。長く住み続けたいから、自分達が考える「美」へのこだわりが生まれる。楽しく過ごすために文化活動も盛んになる。住人の生活観に根ざした独特なテーストが文化として発信されたのである。
 [岩橋謹次氏 http://www.hillsideterrace.com/history-p-iwahashi.html]

 当然ながら、質の高い生活を送るために、豊かなパブリックスペースは不可欠だ。環境変化も、そこで現実に生活する人達ののスピードに合わせることになる。
 住民のライフスタイルに合わせてプロジェクトを進めたから、地に付いた文化が生まれたのである。

 日本の建築家の登竜門ともいえる「SDレビュー展」がこの地で開催されるのも極く自然に思える。
 先進的な建築と、極く普通な住宅が違和感なく並んでいる街なのである。しかも、クリエーティブなオフィスまでが同居している。このような斬新な街を、30年かけ、醸成してきたのである。
 世界の最先端を走ってきた、と言って間違いないだろう。
 クリエーティブな人達の生活拠点ができ、そのライフスタイルに惹かれ、さらにクリエーティブな人が集まる、という好循環が生まれたのである。これこそ、21世紀型の街づくりと言えよう。

 これからは、独自のライフスタイルを訴えない限り、街は生き残れないと思う。
 物真似とわかれば人々は去っていき、淘汰される。

 例えば、青山地区には表通りの世界のブランドショップだけでなく、瀟洒なインテリアショップ、小粋なレストラン、華麗なビューティサロン等が裏道にまで並んでいる。ここでは、新しい店が続々登場する。
 その一方で、閉店は日常活動に近い。ビューティサロンなど、開店1年内で3割は消えると言われている。見方を変えれば、新しい提案が溢れ返っている訳だ。
 時代感覚を愉しむ、青山型ライフスタイルに魅力を感じる人々が続々と集まってくるのである。
 こうした魅力作りこそが、街づくりの原点だと思う。
 (青山型ライフスタイルの象徴的な話がそこここで囁かれている。--- 通りすがりの通行人どうしが、互いの素晴らしい香りに惹かれて、思わず声をかけあってしまい、知り合う。これがきっかけとなり交際が始まり、二人は結婚したという。)


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