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2004.6.3 |
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巨匠への間違った要求…2004年5月23日、パリ国際空港(ADO: Charles de Gaulle International Airport)のターミナル2E通路が崩壊し死傷者が発生した。ガラスに覆われたファッショナブルな建築が、完成後1年で崩落したのだ。(1)これは、フランスで発生した例外的事故ではない。 日本でも、小規模だが、良く似た事故が、2003年に発生した。 開業まもない、新潟コンベンションセンター「朱鷺メッセ」の連絡デッキが自重で崩壊したのである。幸いにして、夜8時過ぎで、人がいなかったからよかったが、まかり間違えば大惨事だった。(2) 両者ともに、有名な設計者が関与した「作品」である。 当然ながら、安全を無視して造られたものではないが、とんでもない欠陥建築設計であることは間違いない。 このような欠陥を招いた原因は、斬新さを訴求した思想だと思う。利用者が「嬉しく」感じる機能を追求するための新構造の導入ではなく、話題を呼ぶような、見かけを重視した設計を追求したから発生したのである。 但し、これを設計者の思いあがり、と見るべきではないと思う。技術の発展のためには、斬新な設計の試行は不可欠であり、決して悪い方向ではない。 最大の問題は、発注側の考え方である。 巨匠に頼んで、目立つ建物を作ろうとの魂胆があるから、こうした問題が発生するのである。公共の建物を、誤った思想で作ろうとするから、施工が難しく、計算通りにいかない「作品」ができてしまう。 しかも、そのような反省さえない。おそらく、間違った方針を採用したとの自覚そのものがないのだ。従って、この状況はいつまでも続きそうである。 解決策は単純である。公共建築物発注者が、設計における重要度の順番を正せばよいだけの話だ。 最優先の要求項目は、構造の堅牢さである。面倒なメインテナンスができる限り少なく、頑丈で長持ちすることを先ず要求すべきなのである。こうすれば、わざわざ不安定な構造を導入することなど考えられない。 その上で、高い機能性を求めるべきだろう。利用者が使いづらい施設などもってのほかである。 その次ぎにくるのが、使う喜びである。奇妙なデザインだろうが、面白い嗜好は大歓迎である。しかし、これは、あくまでも前の2つが満たされた上の話である。 ターミナル2Eも、連絡デッキも、どう見ても、この原則を無視している。 事故をおこした「作品」が最重要視したのは、「使う喜び」ではなく、「見た目の楽しさ」である。作品の写真や、文字による説明が与えるインパクトが重視されている。公共建築では、これは根本的に間違っていると思う。 こうした誤った思想の発祥元はフランスではないだろうか。文化の発信地と称し、とんでもない思想を広げてきた。 そう思うのは、R.Piano & R.Rogers設計の「Centre national d'Art d Culture Georges-Pompidou」を思い出すからだ。(3) 斬新な姿で物議をかもしたから、誰でも知っている建築物である。 一面ガラス張りの鉄骨構造になっており、水や電気のパイプは外に露出している。一番の驚きは、チューブに入ったエスカレータを壁の外に取りつけた点だ。面白いが、堅牢な筈がない。 こんなものを選定するのは、素人が考えても、どうかしているのではないかと思う。長持ちするとは思えない、やっかいな構造だからである。 実際、大掛かりなメインテナンスが必要になっており、とんでもない無駄使いだと思う。 私的なパトロンが支援する美術館なら新しい試みは賞賛モノだが、公共性の高い建築物で一番肝心な点を考慮しないのは邪道と言わざるを得まい。 注目を浴びるという観点では、満点だが、こんな考え方に乗るべきではなかろう。 同じフランスでも、「共和国美術館(ルーブル)」は全く違う思想で作られた。まずは堅牢性である。 本来は宮殿だったから、改築しても、十分持つ訳だ。 そして、「より多くの人々が美術館に簡単に入れるようにすべてが工夫され」、「受付と来館の快適さは特に考慮され」たという。(4) これがあるべき姿勢ではなかろうか。 ルーブルに対して、セーヌの対岸にあるオルセー美術館の方は、もとは1900年万博の時に造った鉄道の駅である。丈夫そのものの建築物だ。(5) フランスも、もともとは健全な考え方をしていたのである。 ところが、現代の巨匠の作品は、建築物として、まともに使えない。 こんな作品を公共の建物に求めるのは、そろそろ止めるべきではないだろうか。 --- 参照 --- (1) 写真 http://newsimg.bbc.co.uk/media/images/40186000/jpg/_40186303_roofapcopy203.jpg (2) http://www.jsca.or.jp/vol2/23news_release/2003toki/20030926toki-tf.html (3) http://www.cnac-gp.fr/Pompidou/Accueil.nsf/tunnel?OpenForm (4) http://www.louvre.or.jp/louvre/japonais/palais/mus-rep.htm (5) http://www.musee-orsay.fr/ORSAY/orsaygb/AUTREDOC.NSF/49816c5756cd7bc1802563cd0053abd5/2c1ea222744e0575c125672f005bc71b?OpenDocument 文化論の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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