↑ トップ頁へ

2005.6.29
 
 


料理で見えてくる日本ブランド時代の幕開け

 栗原はるみ著「Harumi's Japanese Cooking」(1)が“the Best Cookbook of the Year 2004”を受賞(2)し、マスコミでも取り上げられたが、海外では実際のところどうなのか気になっていたので、海外のレシピ書販売サイトに書き込まれている購入者レビューをちらっと覗いてみた。
 レシピで多少不親切な箇所もあるとの指摘も見かけたが、そんな人にかぎって、内容を絶賛しているから、大好評と言ってよさそうだ。

 よく知られているように、もともと、テレビキャスターの奥様稼業をされていた方だ。料理がとても素敵だというので、1992年に「ごちそうさまが、ききたくて。」(3)を出版してから、次々と料理書を書き下ろし、雑誌「栗原はるみ すてきレシピ」(4)を発刊し、日本に“はるみファン”をつくりあげた。
 本だけでも、すでに、1千万部を越えているというから凄い。

 今や、商品まで販売しているから、Martha Stewartが抜けた後を埋めるかもしれないと語る人がいる位だ。

 流石に、そこまでは大変だろうが、海外でブームになってもおかしくはないと思う。
 先進国の都会では、日本食がファッショナブル・アイテムなのだから、日本のセンスがもっと浸透してもよい。この本は、その第一歩という感じがする。

 料理にかぎらず、たいていの日本紹介は時代感覚がずれていると思う。
 和食紹介のレシピ本など典型である。写真は綺麗だが、日本人でも面倒で作らないような伝統的な料理だったり、職人芸を誇るようなものが多かった。器も特殊なものだったりする。レシピがついているといっても、珍しさを示すデータといえそうなものが多かった。
 「Harumi's Japanese Cooking」は全く違う。

 受賞理由を見ると、その特徴がよくわかる。 

  “She is the best example of the strongest trend in cook book today:
  a simple, down-to-earth approach to stylish living and eating,
  with a philosophy of elegance and simplicity.”

 ようするに、無理のないお洒落感覚、言い換えれば、センスの良さが光っている訳だ。

 発展途上国や古い欧州の文化観では、ひょっとすると現代的セレブ感覚ということにもなりかねないが、生活を愉しみたい、先進国のアッパーミドルクラスが共有しているセンスではなかろうか。
 今や、商品はグローバル化しているし、海外情報も溢れかえっている。
 従って、この層は同じ感覚を共有できる筈である。

 こう考えると、栗原はるみブランドが世界化しても驚きではない。

 残念ながら、このような日本“発”ブランドが余りにすくない。
 世界に通用する日本ブランドのほとんどは高機能の工業製品だ。一方、文化的な薫りがするものは、ほとんどが欧米で認められてから、後で日本に入ってきたものである。

 こんなことが何時までも続く訳がない。

 というのは、日本にはアッパーミドル感覚を持つ人がとてつもなく多いからだ。と言うより、生活環境に合わせてアッパーミドルのライフスタイルを作り続けている膨大な人口があると考えた方が正しいだろう。
 この層は、どう見ても、欧米文化崇拝者ではない。世界から、よさそうなところを摘まみ食いして、生活をエンジョイしている。
 つまり、新しい文化を作り続ける膨大な数の人達が日本にいるのである。

 ビジネスの常識からいえば、この市場セグメントでは、日本が牽引して当然なのである。
 この強みを、いままで生かそうとしなかった方がおかしい。

 日本で流行るものは、世界のアッパーミドルクラスに受け入れられる素地がある。
 豊かな生活を実感させる“スタイリッシュ”な提案は世界に通用する筈だ。しかも、そこには、細やかな気遣いと健全な先進性が感じられる。

 これからは、こんな日本発の商品・サービスが世界を駆け巡るのではないか。

 但し、それは、「Harumi's Japanese Cooking」のようなセンスを重視するかどうかにかかっている。

 日本の料理の世界でも、異なる流れもある。

 主婦向けに“簡単便利”をウリにしたレシピも流行した。もっとも、今は、下火のようだが。
 もちろん、本当に好いものは残るだろうが、この流れは、正反対である。
 たいした技術がなくても、短時間でできるから、自家製の料理を食卓に並べることはできる。しかし、残念ながら、それほどは美味しくない。ちっとも楽しくないではないか。
 eleganceを欠くのだ。

 それでは美味しいものなら流行るか。
 お菓子の美味しさで、大ヒットした主婦のレシピがある。
 美しく、愉しそうだ。しかし、多分、そうは広がらない。海外文化に触れる嬉しさはあるが、いかんせん手がかかりすぎる。
 simplicityとは対極である。

 重要なのは、a philosophy of elegance and simplicityなのである。

 これは料理の話だが、テレビでも、車でも同じことが言えるのではないか。

 --- 参照 ---
(1) 栗原はるみ「栗原はるみのジャパニーズ・クッキング」扶桑社 2004年
  (“Harumi's Japanese Cookings” Conran Octopus 日本語版)
(2) http://www.cookbookfair.com/press-2005-sweden/Japan-Press-Release.pdf
  受賞の写真: http://www.destinationgrythyttan.se/2005/gwca2005/pressbilder/0003/page1.htm
(3) 栗原はるみ「ごちそうさまが、ききたくて。―家族の好きないつものごはん140選」文化出版局 1992年
(4) http://media.ffn.ne.jp/fusosha/suteki/index2.html


 文化論の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
    (C) 1999-2005 RandDManagement.com