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2005.7.6
 
 


ディープ・ブルーを視て

 2005年5月27日に発売されたDVD『ディープ・ブルー(1)』が、6月6日のオリコンDVDチャート(2)ですぐに第1位に登場した。

 「アーティスト・主演・演奏者」の項目記載が無い唯一の作品である。ドキュメンタリー映画がここまで人気を呼ぶとは思わなかった。

 もっとも、そう言う筆者も早速購入した1人なのだが。

 これは、BBCが7年をかけて、ロケ地200カ所で撮影したそうだ。フィルム7000時間がウリである。
 確かに、想像ができない狩猟シーン満載で驚かされる。
 しかし、感情を揺さぶられる理由は、シーン構成と、それに合わせた音楽の巧みさだと思う。

 惜しむらくは、最後のシーンでデータを伴う解説をつけてしまった点である。宇宙探索には大枚のお金が注ぎ込まれるのに、海洋探索には極く僅かという不思議さに問題意識を感じている製作スタッフ達は、どうしてもこのコメントだけは入れたかったようだ。
  “So far, we have exploded only a tiny fraction of the Deep,
   home to the largest creature that has ever existed.”
   
(いまだ多くの謎に包まれている海)
  “There were once three hundred thousand blue whales in our oceanas.”
   
(かつて30万頭いたシロナガスクジラ)
  “Now, just one percent of these glorious animals remain...”
   
(今はわずか1%しか残っていない)
  “and yet we continue to plunder her secret world.”
   
(そして人は今日も海を傷つけている)

 音声無しにして、音楽のみで視聴した方が楽しい作品だと思う。

 『ディープ・ブルー』に続いて、6月29日にも、海洋モノDVDが発売された。(3)
 アクアラングを発明した海洋学者Jacques-Yves CousteauがLouis Malleと組んで大ヒットをとばした古い作品のデジタルリメイク版だ。昨年も発売されたように記憶しているから、定番商品化してきたのかもしれない。
  ・1956年の作品『沈黙の世界( THE SILENT WORLD)(LE MONDE DU SILENCE)
   [1956年度カンヌ国際映画祭グランプリ、1957年度アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞]
  ・1964年の作品『太陽のとどかぬ世界
(WORLD WITHOUT SUN) (LE MONDO SANS SOLEIL)
   [1964年度アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞、1964年度フランス・シネマ大賞]
  ・1975年の作品『世界の果てへの旅
(VOYAGE TO THE END OF WORLD)(VOYAGE AV BOUT DU MONDE)

 こんな話をすると、しばらくぶりのドキュメンタリー作品ヒットという印象を与えてしまうが、そうではない。

 2003年10月にも、“撮影期間4年間、製作費20億円、世界40カ国以上を訪れ、100種類を超える渡り鳥の旅物語を映画化”した作品が公開されている。(4)
  ・Jacques Perrin総監督2001年の作品『WATARIDORI(THE TRAVELLING BIRDS) (LE PEUPLE MIGRATEUR)
   [アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート、2001年セザール賞編集賞]

 Jacques Perrinは昆虫の生態を捉えた作品を監督したことで有名になった。
  ・『 MICROCOSMOS(MICROCOSMOS: LE PEUPLE DE L'HERBE)
  [1996年度カンヌ映画祭高等技術賞、1996年セザール賞プロデューサー,撮影,編集,作曲,音響賞受賞]

 2003年12月にも、ヒトラー賛歌のベルリン五輪映画製作でよく知られているLeni Riefenstahl監督が100才でまとめた新作『ワンダー・アンダー・ウォーター 原色の海(Impressions of the Deep)(Impressionen unter Wasser)』が発売された。2000回にもおよぶダイブによって収めた海中映像をまとめたものだ。

 海外では、こうした分野は結構な市場規模がある。
 National GeographicやDiscovery Channelが成立するのだ。(6)

 もっとも本家はなんといっても英国だろう。
 BBCでこの分野を牽引してきたDavid Attenborough卿(5)の存在を抜きにしては語れまい。生物ドキュメンタリーを50年以上作り続けている世界の第一人者である。
 英国は、世界で先頭を切って工業化して環境が酷くなった経験があるから、自然へ関心が向いたという歴史的事情もありそうだが、生態への関心は強いようだ。(7)

 ところが、日本だけは、この分野は今一歩広がりが乏しい。
 どうしてなのだろう。

 日本では、実利を伴わない、博物学的な科学は嫌われる傾向があるからかもしれないが、(8)『ディープ・ブルー』が流行るところを見ると、学者の教えを学ぶような「科学」はまっぴら御免ということでないだろうか。
 実際、NHKの「生き物地球紀行」やTBSの「どうぶつ奇想天外」シリーズは好評のようだ。

 そんななかで、科学好きを増やすために、教え方を工夫したり、単純な親近感を与えるイベントに補助金を集中させても、たいして効果はないと思う。問題は親近感ではなく、感情を揺さぶるモノが欠乏しているのである。

 折角のイベントなら、やはり心を揺さぶる作品が欲しい。

 素晴らしい作品は誰が見てもわかる。
 例えば、昆虫学者のDensey Clyne氏の脚本に基づく蜘蛛の生態ドキュメンタリー『Webs of Intrigue』(PAUL SCOTT監督 JIM FRAZIER撮影 Mantis Wildlife Films 1992年ABC-TV放映)のような作品が欲しいものである。

 隔年で開催される世界自然・野生生物映像祭も、2005年で、ついに7回を数えるまでになった。ウエブで過去のノミネート作品の部分映像もみれるようになった。(9)
 こんな取り組みが新しい文化をつくりあげていくことになると嬉しいのだが。
  → 第7回世界自然・野生生物映像祭 [2005年8月4日〜7日 富山]

 --- 参照 ---
(1) http://www.deep-blue.jp/dvd/index.html
(2) http://www2.oricon.co.jp/ranking/dvd_weekly.asp?chday=2005/06/06
(3) http://www.cme.jp/db/db_dvd/database.cgi?cmd=s&sc=200506 (2頁目)
(4) http://www.herald.co.jp/official/wataridori/index.shtml
(5) http://www.bbc.co.uk/nature/programmes/who/david_attenborough.shtml
(6) 日本でも有料放送視聴可能.
  http://www.ngcjapan.com/index.html (スカイパーフェクTV! 741チャンネル)
  http://japan.discovery.com/genre/genintro.php?id=4 (スカイパーフェクTV! 321チャンネル)
(7) http://www.arkive.org/species/GES/
  http://www.arkive.org/species/ARK/
(8) http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20050610k0000m010128000c.html
(9) ネイチャーチャンネル(富山県+NPO法人地球映像ネットワーク)
  http://www.naturechannel.jp/naturechannel/list/2001/index.html


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