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2005.7.20
 
 


おじさんの台所仕事とは

 1948年生まれで独身、独り暮らしの“おじさん”が渋谷で快適に暮らそうと、台所仕事に奮闘した結果をまとめた本があるというので、この世代のニーズがわかるかも知れないと思い読んでみた。(1)

 第一印象としては、かなりの理屈っぽさを感じた。なにか納得できる理屈がないと、なにをするにもしっくりしないようだ。

 山登りや、独身生活経験者なら、自炊を続けるためになにが重要かわかっている筈である。
 たいした労力もかけずに後片付けができる体制と、勉強しなくても料理のバラエティを保てる仕組みが重要なのだ。こんなことは、議論の余地はないと思うが、そうした割り切りはすぐにできないようである。

 そして、予想以上に、生活の知恵に乏しい。主婦にまかせていると、台所仕事のノウハウはほとんど持っていないようである。

 山では水が重要だし、ゴミは運ばなければならないから、できる限り残さず食べて、食器にこびりついたものはトイレットペーパーで拭きとり、貴重な水を使わないようにせざるを得ない。家庭でも同じことだ。
 しかし、水は豊富だから、それに合ったやり方があるのだが、全く知らなかったようだ。

 台所仕事の素人でも、道具を揃えれば結構楽に洗えるのだが、“おじさん”はヘラとティッシュペーパー拭き取りで洗いにくさをカバーしているようだ。そのため、漂白剤漬けおきが常態化している。とてもお勧めしがたい方法だが、これこそが創意工夫と考えている。
 お奨めは、ゴミをこそぎ落とすヘラ、ナイロン繊維不織布、セルロース製スポンジ、メラミンフォーム製スポンジの4種を常用することである。少なくともナイロン不織布は不可欠である。多少高温の湯でも気にならないなら、これだけでも結構洗える。
 ヘラは別として、他の商品は、ウレタンフォーム製スポンジより高価なことが多いから、主婦なら嫌うだろうが、経験不足の主夫は必需品と見た方がよい。

 さらに、“流しに手を突っ込んでゴミを捨てる勇気”が必要なら、ディスポーザをつけるべきだろう。自治体によっては認可されないようだが。
 間違えてはいけないが、これをゴミ捨てに使ってはならない。ゴミ入れは流し外におき、ほとんどのゴミはこちらに入れる。それでも部分的に残ったものはどうしても流れてしまう。それに対応するだけの話である。主婦なら、無駄な出費だろうが、経験不足の主夫には強い味方だと思うが。

 そして、家庭宴会好きなら、食器洗い機は必要だろう。仕事で多忙ななかで、多量の洗い物を処理する時間が割けるとは思えない。

 バスとトイレの清掃についても、知識が足りないような感じがする。

 1人なのに風呂場がすぐに汚れるとしたら、換気が悪い可能性が高い。換気扇を強力なものに変えるべきだろう。
 トイレにしても、便器の性能が悪い可能性がある。流れやすい形状なら、それほど頻繁に清掃を要するものではないし、表面処理でもすれば、たいした労力が必要なものではない。なにせ、使うのは原則1名なのである。
 投資しなければ、その分労力が必要になるだけのことである。

 労苦を避けたいなら投資しかない。そのことは、著者も洗濯行為ではよくわかっている。
 “独身おじさんの洗濯機は全自動にしよう”・・・当然である。

 これだけ見ると、“おじさん”が水周りに関する知識を欠いていると映るが、この辺りの公開情報が少なすぎるのではないかと思う。

 そう考えるのは、料理に関しては、“おじさん”は俄然情報収集力を発揮し始めるからだ。

 独身自炊のバラエティ化の秘訣である、調味料の取り揃えはすぐにこなしているし、なにせ勉強熱心である。

 料理本から始め、インターネットでレシピを探し、玉村豊男氏のエッセイを好み、テレビの料理番組を眺め、師を仰ぐ専門家の料理を自己研鑽する。お陰で、こだわりの自作料理を作れるまでになる。
 本では簡単に書いているが、驚くべき集中力である。
 (三浦敬三氏が10年以上自炊を続けており、これが生涯現役の秘訣に見えることも大きそうだが、底流には男の美学があるようだ。)

 これからは、こうしたユーザーが増えるのかもしれない。

 この層に浸透するには、良質な商品を提供することもさることながら、素晴らしい理由を、薀蓄をもって伝えることが重要となろう。

 --- 参照 ---
(1) 音羽健「スローライフなおじさんの台所」主婦の友社 2004年8月   副題は“ひとりを快適に生きる”


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