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2006.3.27
 
 


和邇は鰐で鮫ではない

 因幡の白兎の話に、和邇(わに)が登場する。
 古事記ではワニと記載されているのだが、鰐鮫として扱うことになっているようだ。

 「山陰地方では現在でもサメのことをワニと呼んでいる。」(1)という話もあって、鰐ではなく、鮫と考えるのだろうか。

 確かに、海に鰐がいるのはおかしな感じはする。しかし、並んでいる鮫の背中の上を走るというのは、それ以上におかしな話ではないか。およそ考えられない話である。
 ワニの文字「鰐」は魚偏である。これは、魚系の動物と見なされていることを示す。古事記にでてくるワニは、鰐と見るのが自然である。

 同じく、海幸山幸の話でも、天孫の子が、魚を取り仕切る海神の娘、豊玉媛(とよたまひめ)と結婚する。豊玉媛は水の神でもあるようだ。無くした釣り針を探してももらい、戻る際は、ワニに乗って戻る。ワニは佐比持神(さいもちのかみ)とされる。(2)
 しかも、豊玉媛は出産の時に、仮屋の中で八尋のワニとなってうなって這い回る。この姿を見られてしまい、海に帰ってしまう。
 水中ではなく室内でうねうねするのだから、どう考えても、これは鰐の生態である。

 讃岐の金毘羅宮にしても、仏法の守護神、ガンジス河の鰐、kumbhiraのことだという。(3)海運にまつわる水神であり、港が見渡せる場所に祀らるのが特徴だ。
 ワニは海外民族が崇めていた海神なのである。

 魏志倭人伝の頃の倭人は漁民だったのだから、力のある渡来系の水神を敬うのは自然な流れだと思う。

 古事記の和邇が鰐であるのは間違いあるまい。

 そもそも、日本にも大型の鰐はいたのである。しかも、その場所は現在の大阪大学。(4)
 さらに、大分県北部の安心院盆地から、小型鰐のヨウスコウアリゲーター(揚子鰐)(5)の化石も出土している。一緒に見つかった植物化石は温帯性落葉広葉樹、魚類化石はコイ、フナ、ニゴイだ。(6)
 亜熱帯でなくとも、鰐は生活できるのだ。
 倭人は鰐を知っていたのである。

 原典を勝手に解釈し、ワニを鮫と呼び変えたりするような姿勢は改めるべきだと思う。

 --- 参照 ---
(1) Wikipedia「因幡の白兎」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%A0%E5%B9%A1%E3%81%AE%E7%99%BD%E5%85%8E
(2) Wikipedia「山幸彦と海幸彦」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%B9%B8%E5%BD%A6%E3%81%A8%E6%B5%B7%E5%B9%B8%E5%BD%A6
(3) http://www.niigata-u.com/files/ngt2003/knpra1.html
(4) http://www.museum.osaka-u.ac.jp/image/pamph_2004/B_big.jpg
(5) Wikipedia「Chinese Alligator」 http://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_Alligator (6) http://www.lbm.go.jp/special/topic/azimu.html
(全般) 青木良輔「ワニと龍 恐竜になれなかった動物の話」 平凡社 2001年


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