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2006.4.12
 
 


「毎日モーツァルト」の感想

 2006年1月30日から、NHKの衛星放送で、生誕250年を記念して、“月曜〜金曜の毎日、モーツァルトの名曲を1日1曲ずつ”、“人生の軌跡とからめながら、美しいゆかりの映像にのせてお届け”する番組が続いている。(1)
 命日の12月5日にレクイエムが流れて、全編完結ということになるのだろう。

 朝ドラマの人気は落ちてきたようだが、視聴率の急落はなさそうだから、BS放送プロモーションということで、音楽の連続ものを狙ったように見える。

 年代順にエピソードを語りながら、珠玉のなかから、一日一曲づつ紹介するとのコンセプトだから、いかにも凡庸な企画という印象だが、一度視聴すると、癖になる人も多いのではなかろうか。
 時間が僅か10分程度ということもあるし。

 実は、筆者もそうした一人だ。

 それに、番組構成が時代に合っている感じもする。

  ・オープニングでは、30秒ほど「K525」が流れる。
   良く知られている、アイネ・クライネ・ナハトムジーク第3楽章である。
  ・次に、様々な分野で活躍しているモーツァルトファンの寸評。
  ・そして、山本耕史氏(2)のナレーションで、
   音楽をバックに、モーツァルトが旅した地方の風景や建物が紹介され、
   「モーツァルトの手紙」が朗読される。
  ・それが終わると、最後に、本番の、“今日の一曲”。
「毎日モーツアルト」寸評(I love Mozart.)出演者
鮫島有美子 (声楽家)
中嶋彰子 (声楽家)
吉野直子 (ハープ奏者)
千住真理子 (ヴァイオリニスト)
高嶋ちさ子 (ヴァイオリニスト)
津堅直弘 (N響首席トランペット奏者)
coba (アコーディオニスト・作曲家)
飯森範親 (指揮者)
大野和士 (指揮者)
ダリオ・ポニッスイ (オペラ演出家)
大島ミチル (作曲家)
池辺晋一郎 (作曲家)
海老沢敏 (モーツァルト研究家)

高橋英郎 (『モーツァルト劇場』主宰)
なかにし礼 (作家)
赤川次郎 (作家)
池内紀 (ドイツ文学者)
小塩節 (ドイツ文学者)
小柴昌俊 (東京大学特別栄誉教授)
小林康夫 (東京大学大学院教授)
黒坂伸夫 (歴史学者)
斎藤晴彦 (俳優)
池田理代子 (劇画家・声楽家)
砂川しげひさ (漫画家)
假屋崎省吾 (華道家)
古今亭志ん輔 (落語家)
佐藤康光 (棋士)

 もともと、日本には、モーツァルトの熱狂的なファンが多いそうだ。
 それに、モーツァルトの曲を聴くと、医療、ヒーリング、教育、はたまた農畜産業まで、様々な効果があると喧伝されて続けており、クラシック音楽を避けている人にも結構な人気である。
 こんな状況に合わせた番組編成になっているような気がする。

 ただ、行き過ぎると、モーツァルトベタ褒めと受け取られ、反感をかう恐れもある。クラシックファンのなかには、モーツァルトの音楽は、気分転換にはなるが、軽薄と感じている人も大勢いるからだ。
 実際、いくら聴いても疲れないし、BGMにもなるから、そんなものかも知れぬという気もする。
 見方はイロイロである。

 そんな観点に立てば、モーツァルト天才論にしても、違う見方もできそうだ。

 映画アマデウスの、サリエリが修正皆無の筆書き楽譜を見て驚愕するシーンが余りに印象的なので、天才論は素直に受け入れがちになる。しかし、よく考えると、推敲しないということは、モチーフを徹底的に深堀りしないということでもある。楽譜に思いを込める芸術家ではなく、才能豊かな職業作曲家と見なすこともできる。流行って忙しい時は、作曲工房を持っていた可能性も否定できまい。

 それに、曲そのものよりは、演奏者による表現こそが、音楽にとって重要と考えていたかもしれない。演奏家や声楽家の素晴らしい才能を引き出すことばかり考えていた感じもするからだ。
 もしかすると、現代のジャズのような発想で作曲していたのかもしれない。

 しかし、そんな感覚が全く通用しない作品がある。
 17才の時に作った、ト短調(3)の交響曲第25番[K.183]である。

 交響曲第25番と言っても、すぐに思い浮かばないかもしれないが、映画「アマデウス」の冒頭、雪が降るシーンで流れる曲といえばおわかりだろう。
 Allegro con brio、4分の4拍子、フォルテの♪●●●♪で始まる曲である。交響曲といっても、現代のオーケストラ編成というほど大仰なものではない。しかし、低音が唸っているところに、バイオリンが急テンポで押しまくるから、迫力が凄まじい。この冒頭の、シンコペーションの緊張感がたまらない。

 この曲の紹介の際に登場した、なかにし礼氏の指摘は秀逸だった。
 職業作曲ではなく、自分の情念の発露としての作曲との指摘である。確かに、若き血潮をたぎらせて、一気に作りあげた作品というイメージは強い。

 この曲をどう捉えるかで、モーツァルトの見方は大きく変わる。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nhk.or.jp/bs/info/info.html#3
  http://www.nhk.or.jp/mozart/
(2) http://www.magnum1031.com/
(3) ト短調といえば, 交響曲第40番[K.550], 弦楽五重奏曲第4番[K.516], ピアノ四重奏曲第1番[K.478]もある.
  長調で, メランコリックな美しい旋律が多いなかで, 特徴的な曲である.
  交響曲第40番は交響曲第25番に似て, 暗く, 情念を感じる曲である.
  弦楽五重奏曲第4番は, 小林秀雄が「モオツアルト」で“悲しみが疾走”と描いた曲.
  第3楽章で, 奥好義作曲「天長節」を思い出し, 敗戦の悲しみ噴出すとの説もある.
  ピアノ四重奏曲第1番はピアノと弦楽三重奏という馴染みの薄い編成.

 --- 参考 ---
“Mozart con grazia”[作品目録/年代記] >>>
“モーツァルトアラカルト”[各楽章40秒試聴] >>>
“THE MOZART TODAY MAGAZINE”>>>
“モーツァルト 2006”>>>


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