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2007.8.2
 
 


斬新なトイレに期待…

 “God is in the details.”(1)
 実に素敵な言葉である。
 もっとも、これは便器ビジネスのウエブに掲げられているキャッチコピー。
 素敵なトイレの施工例満載だが、一流の設計者が力を入れた作品揃いだから、驚かされるデザインも少なくない。

 名古屋の個人住宅、“TANGO”は、トイレがガラス張り。
 これが例外的と言う訳でもない。
 元麻布の廃墟をリノベーションした複合ビル“c-MA3”や、店舗併設住宅“complex J”でも。(2)

 ガラス張りのバスルームを喜ぶ人は日本では少ないだろうが、海外なら、結構多そうだ。高収入層の市場セグメントでの話しだが。
 その理由は単純。ガラスだと、壁厚が薄くなりスペースが広くなるし、気分的にも広々した感じがするから。その上、掃除がし易くなるから、清潔に保てる。
 掃除を頼む高収入層なら、人気がありそうだ。
 丸見えがどうしても嫌なら、表面平滑の合わせすりガラスを使えばよい。もっとも、相当高価だろうが。

 こんな話をすると、ガラス張りなど欧米文化で日本に合わぬなどと、一刀両断に切り捨てる人もいるかも知れぬが、そんなことはないと思う。
 そもそも、ガラス張りバスルームが嬉しいのは、周囲がピカピカに磨かれている点が大きい。気持ちよさもあるが、“しっかりした”生活を営んでいるという自負心の発露でもある。調度品と同じで、ライフスタイルの象徴。
 ガラスが汚れていたり、床にゴミが落ちていたり、部屋が乱雑だったり、そんなライフスタイルはご免こうむるという人にはガラスはうってつけである。磨けば、ピカピカとなり、掃除した効果が歴然だ。

 そこまでの清潔は不要と感じるかも知れないが、日本社会は、もともと、清潔・整頓好きが多数派だ。もし、こうした流れができれば一気に変わる可能性はあろう。
 例えば、「シャワートイレ」の上市は1967年。今は「ウオッシュレット」が代名詞だが、トイレ習慣が変わるまでにはずいぶん時間がかかったのである。
 だからと言って、ガラス張りトイレも、清潔好きの人達の琴線に触れるとは限らないが、「シャワートイレ」も最初は特殊用途しか売れなかったことを考えれば、有り得そうな気もする。

 欧米のビジネスマンの清潔・整頓感覚は、これとは大きく違う感じがする。掃除もしない人と見られたら、マネジメント能力が無い輩と見なされかねないという点が大きそうである。

 “God is in the details.”の話から外れてしまったが、ガラスといえば、「日本の家屋とその生活」(3)を著したBruno Taut(4)も、骨組みに不透明なガラスを嵌め込んだドーム型建築の「ガラスの家」で一躍有名になった。
 1914年のこと。

 いかにも、工業時代の幕開けを飾る動きだった。
 設計者のインスピレーションを重視する流れと見ることもできるが、日本を始め、様々なライフスタイルの良い点を積極的に取り入れる流れでもあったように思う。

 今は余り人気がないようだが、ガラスブロックも多用された。これは、日本の障子の美しさの工業化と見ることもできそうだ。
 透明なガラス箱に生活空間を詰め込む建築も登場した。丸見えなので、驚く人もいるが、地所を所有しているのだから、借景と見ることもできよう。
 建築熱の時代の話である。

 現代のガラス張りトイレにも、このような、時代を切り拓く意気を期待したいものだ。
 特に、現代生活に合った、斬新な思想を感じさせられるものが欲しい。
 今は、リビングルームに大型フラットディスプレーが設置され、映像が溢れる時代だ。 トイレも大きく変わって当然だと思う。
 リビングに便器を同居させる考えもそれほどの驚きではない。そんな挑戦を続けるなかから、新しい思潮が生まれていくのだと思う。

 トイレ内での記念撮影で知られる、螺鈿作り(5)は別格としても、最近は魅力的なトイレ(6)も増えているから、期待しているのだが。

 もっとも、帝国ホテルを酷評したBruno Tautが生きていたら、高層ホテルのガラス壁トイレ(7)を良く言うとは思えないが。

 --- 参照 ---
(1) Ludwig Mies van der Rohe(1886〜1969年)--“Skin and bones”(ガラスと鉄筋)の建築家
  “Less is more.”と “God is in the details.”のアフォリズムで知られる. http://www.miesbcn.com/en/foundation.html
(2) [サティスギャラりー] http://www.satis.jp/index2.html
   ・H0007 TANGO 前田紀貞アトリエ 一級建築士事務所 2003.01竣工 Restroom: 0.31坪
   ・H0056 c-MA3 松原力+田島則行+テレデザイン 2004.12竣工 Restroom: 0.83坪
   ・H0059 ComplexJ 杉浦宏幸 / 杉浦事務所 2004.07竣工 Restroom: 0.89坪
(3) ブルーノ・タウト(篠田英雄 訳): 「日本の家屋とその生活」 岩波書店 1962年
(4) 熱海の日向利兵衛別邸内装でBruno Tautの仕事を見ることができる.
  http://www.city.atami.shizuoka.jp/icity/browser?ActionCode=content&ContentID=1123578433506&SiteID=0
(5) 目黒 雅叙園“竜宮城トイレ”
  http://www.megurogajoen.co.jp/press/archives/2007/02/14-114913.html
(6) ウエブに登場しているトイレ(現存かは不明)
   ・天満屋広島緑井店(広島市安佐南区)の男性用「ヘルシートイレ」
    緑の空間が眺められるガラスの前に立つと水が流れて小用トイレになる.
    http://www.chugoku-np.co.jp/City/00/mon/001120.html.
   ・カフェレストラン「ムーミンパパ」(明石市) 女性用トイレの3面がガラス張り水槽..
    日経レストラン2004年9月号「第1回トイレグランプリ」「話題賞」.
    [トイレの写真] http://www2u.biglobe.ne.jp/~M-Abe/osakenn/houkoku/mumin-r01.htm.
   ・ららぽーと豊洲[UNITED CINEMASのチケット改札入り口の手前] 男性用は全面総ガラス張り. オーシャンフロント. .
    http://homepage1.nifty.com/samito/Toyosu.htm
(7) 高層ビルのトイレ
   ・Philippe Starckの設計(1994年)した香港ペニンシュラホテル・新タワー28階のレストラン・バー「FELIX」の男性用トイレ
    NewYorkTimesの読者評によれば、“Its the best view of Hk..View from the wash room great..Its really great
    during the night time when facing the urinals...It has a great view for kowloon..”
    http://travel.nytimes.com/travel/guides/asia/china/hong-kong/restaurant-detail.html?vid=1154654633182
   ・マンダリン・オリエンタル東京のオリエンタルラウンジがある38階のトイレ
    http://www.enjoytokyo.jp/id/tohoho-jun/92275.html
(トイレのイラスト) (C) Free-Icon http://free-icon.org/index.html


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