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2007.10.17
 
 


鮨のマナーとは…

 寿司が日本の食文化を世界に広めていると胸を張る人がいるが、スシバーは日本文化とは違う感じがする。それは、アボガドが使われているといった話ではなく、そもそも日本での鮨カウンターでの注文方式に外来文化の香りを感じるからである。

 日本の外食文化は基本的にお店まかせだと思う。サービスを提供する側は、来店したお客様の状況を推測し、最良の“おまかせ”メニューで次々とお皿をお出しするのが普通のやり方なのではなかろうか。

 寿司屋も、もともとは、そのパターンを守っていたと思う。職人が、お客様の食べるスピードを見計らい、用意してあるネタを次々に出すとか、最初に大まかなメニュー方針をお客様に提案し、同意をとってから鮨をお出ししていたと思う。
 そう考えるのは、5人しか入れない狭いカウンターだけの鮨屋に入ったから。ネタは当然使いきりで結構合理的である。もともと、新鮮な食材を使い、その旬の美味しさをウリにするのだから道理にかなっている。それに、美味しさと、価格と直接つながる訳ではなかろう。全体のバランスをとりながら、出していく機微がウリでもある。常識的には、淡白なものから、濃厚なものへと、流れをつくっていくことになる。
 もっとも、馴染みのお客によっては、“鮪の中とろから始って、つめのつく煮ものの鮨になり、だんだんあっさりした青い鱗のさかなに進む。そして玉子と海苔巻に終る”(1)といった流れもあったようだが。

 そもそも、板さん“おまかせ”スタイルは日本の外食サービス業の基本だった筈である。茶事にしても、もてなす側がメニュー考えて接待するのが原則。その接待に隠された主人の嗜好を推定して楽しむことも愉しさのひとつだったと思う。
 ただ、鮨は、江戸のファーストフードにすぎない。所詮はその程度の食である。そんなものに、食べ方のマナーの薀蓄を傾けるのは、勘違いと言わざるを得まい。
 江戸っ子は、それこそ、どんなものにでも格好をつけ、そのお洒落感を楽しんだのである。それこそ、冗談半分に、皆で下品な食べ方をして、それを知らない人にその真似をさせ、田舎者と笑いとばしていたりしたのだと思う。
 落語の「茶の湯」(2)で笑いころげる感覚である。

 にもかかわらず、鮨をどう食べるべきか、マナーを気にする人が多いのは、「小僧の神様」ではないが、高価で特別な食と思い込んでいるのかも知れぬ。

 カウンターでの一貫毎に注文する“お好み”は日本の食文化より、西欧食文化に近い。西欧の外食とは、個人毎に、メニューから一品づつ選ぶスタイルが基本。おそらく、アペリティフにしても、食欲増進効果や、酒の楽しみと言うより、これからの食の選択に思い巡らす時間を確保するものではないかと思う。
 シェフまかせではなく、自分で食べる流れをデザインするのが当たり前の社会ということ。日本は、こうした態度は大人気ないとされていたのではないか。

 そんな日本文化の特質は実は、皆わかっている筈である。
 「THE JAPANESE TRADITION -SUSHI-」(3)には、鮨食文化の実態が描かれている。傑作と言えよう。
  → [サンプル動画] “VIDEO VICTIM 2” 「the japanese tradition -SUSHI-」 (C) Asmik Ace Entertainment

 De La Rochefoucauld(4)を生み出したフランス人に大受けすること間違いなかろう。日本が誇れる大人の文化とはこうした笑いのなかにある。言うまでもないが、これは自虐文化ではない。

 --- 参照 ---
(1) 岡本かの子: 「鮨」初出1939年 [青空文庫]  http://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/1016_19596.html
(2) 【上方落語メモ第6集】その283 「茶の湯」
  http://homepage3.nifty.com/rakugo/kamigata/rakug283.htm
(3) teevee graphics/NAMIKIBASHI(小島淳二+小林賢太郎): 「THE JAPANESE TRADITION -SUSHI-」(2002年)
(4) 英訳 “Maxims of Duc De La Rochefoucauld” [Project Gutenberg]
  http://www.gutenberg.org/dirs/etext05/8roch10h.htm
(鮨のイラスト) (C) Hitoshi Nomura “NOM's FOODS iLLUSTRATED” http://homepage1.nifty.com/NOM/index.htm


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