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2008.1.1
 
 


狛鼠が好かれる時代…

    源実朝 正月一日よめる [金槐和歌集]

 今朝みれば 山も霞て 久方の 天の原より 春はきにけり

 初詣は気分が改まってよいものだが、2007年は、折角だから狛犬も拝見したらどうかと書いた。
 石工が力を振るった作品を愉しもうとの趣意である。
  → 「狛犬拝観 」 (2007年1月1日)

 もっとも、明治神宮のように内陣にあると、(1)拝観は簡単にできないが。

 2008年は子年だから、狛鼠拝見をお勧めしたいが、そうそうあるものではない。
 拝見できるのは、京都は哲学の道の途中にある、887年に建立された大豊神社だけ。(2)
 この神社の御祭神は少彦名。そこで、大国主命を救った鼠がお社を守ることになったようだ。面白いのは、この鼠、水器と巻物を抱えていること。いかにも賢そうで、可愛くて、ペットのような雰囲気を醸し出している。文京の都らしい姿である。

 そういえば、昨年は亥年だった。和気清麻呂公を祀る護王神社(烏丸通り下長者町)には狛猪(3)があるから、さぞかし賑わったことだろう。
 菅原道真公を祀る天満宮にも、寝ている牛の像があり、触れるとご利益があるということで、いつも大人気。手脂で磨かれるから輝いている。

 このように、周囲の動物も信仰対象に加えるのが、日本の伝統なのではないか。

 お稲荷さんのお狐さんにしても、それなりの由来はあるようだが、(4)底流は同じだと思う。
 “稲を荷う”という名称からしてわかるように、お祀りしているのは食物の神だ。しかも、神社の建物のデザインは、どう見ても古代の米倉そのもの。収穫した稲を狙う動物を退治するキツネが控えているのは、極く自然なこと。今でこそ、キツネは山の動物だが、里にもいたはずであり、お米を狙う鼠退治の役割を荷っていたに違いないからである。
 相当昔の話だが、夏の夜、奥秩父の農家の庭でのんびり空の星を見上げていたら、周りをうろついく動物がいた。犬にしてはおかしいと思っていたが、暗くてわからなかった。それが、突然、傍に来て“コーン”と鳴いたのでビックリしたことがある。農家にとって、キツネは極く身近にいる動物なのである。
 言うまでもないが、このお庭の一角には、お稲荷さんが祀られている。(5)
 街角やお店の中、個人住宅や、企業内敷地に勧請されているのと同じような、極く小さなお社である。

 ただ、こうした信仰とは全く違う系譜もある。
 秩父と言えば、雲取山登山の際にお参りする三峯神社が有名だが、ここは昔から狛犬ではなく、狛狼だ。牙があるからわかる。お札にも、オオカミが描かれている。
 こちらは、狛犬とは相当趣意が違いそうだ。おそらく、修験者を守ってくれる、山の神の化身だろう。
 日枝神社社殿の右側に祀ってある神猿も同じ系譜だと思う。
 参拝するには、地下鉄の溜池山王駅からだと、高層ビルの横の、エスカレータ付きの山王橋を通ることになるから、“山”の風情は皆無だが、山岳信仰の社である。山から来訪し“魔が去る”ということで、神猿とされているのだから。

 さて、現代の我々にしてみると、周りの動物とは、ペットの犬・猫や鳩だ。
 そういえば、最近の狛犬のなかには、ペットのような顔もあると聞いたことがある。強くて恐ろしい神にひれ伏す時代から、愛すべき優しい神の時代に入ってくると、神のお使いもペットになるのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) 明治神宮: 「なぜ明治神宮には狛犬が置いてないのですか?」
  http://www.meijijingu.or.jp/qa/jingu/10.html
(2) カヤ日記: 「大豊神社の狛鼠」 [2007.2.03] (カヤネズミの生態研究者のblog)
  http://blog.goo.ne.jp/kaya_nikki/e/d865d04a091fbf95faa03226b5b20d3d
(3) 京都・護王神社: 「京都・護国神社−みどころ」 “「狛犬」ならぬ「狛イノシシ」?”
  http://www.gooujinja.or.jp/midokoro.html
(4) 伏見稲荷大社: 「稲荷信仰」 “狐と眷属” http://inari.jp/b_shinko/b01h.html
(5) 建設省関東地方建設局京浜工事事務所/河川環境管理財団: 「多摩川誌」第7編民俗第1章民間信仰第2節 稲荷信仰の展開
  http://www.tamariver.net/04siraberu/tama_tosyo/tamagawashi/parts/text/071210.htm
(明治神宮大鳥居の写真) (C) 東京発フリー写真素材集 http://www.shihei.com/tokyo_001.html


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