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2008.6.23
 
 


外食文化の比較…

 国の文化的特徴は、一般の人がふらっと入れる飲食店を見るとよくわかる。個人的な偏見をベースにお話してみよう。

 なんといっても特徴が目立つのは、中華街。
 中国経済が爆発的に発展したのは、この文化に合わせたからではないかと考える人も多いのでは。
 この町、乱雑に見えるが、歩き回ると結構統制がとれていることがわかる。町全体に、あきらかに何らかの規律がある。共産党独裁国家でもないのに。
 この街には、表通りから裏通りまで、驚くほどの店がひしめきあっている。文字通り、激烈な競争を繰り広げている訳だ。ここでは、安くて、早いのは当たり前。要求に合った旨い料理を出せなければ、店はすぐに傾く。従って、食材も豊富である。利用できそうなら、何だろうが挑戦。
 料理人と経営者が、実利一本槍で毎日工夫しながら、薄利で頑張らなければ生きていけない世界だと思われる。

 競争だから、もちろん勝者もでれば、敗者もでる。実際、店を覗けば、貧富の差は極めて大きい。しかし、皆、共存できるのだ。
 この街で独占利潤を狙う人などいないからである。
 ここが特徴。
 おそらく、勝者は地域に還元するのだろう。縁故を頼ってくる人達を援助したり、門、学校、廟、を作ったりするのだと思う。

 これと対照的なのが、ファミリーレストラン、ファーストフード店といった米国流のお店だ。
 こちらも、安くて、早くて、旨いが基本。
 それを実現するために、メニューは定番化し、パン、肉、油、等の主要食材を、決まった品質で安定的に大量調達することに全力を注ぐ。それはお店の仕事ではない。
 お店には、熟練したコックや経営者はいない。そこで働くのは、マニュアルで決められた作業をこなす人達と、そのマネジメントを専門とする限られた人だけ。どんなメニューで、どのように調理し、どんな雰囲気で、どうサーブすれば、お客様が満足してくれるか考える人達は現場にはいないのである。
 サービス発展期には競争は激しいが、顧客から見ればお店の差はたいしたこものではないから、普及してくれば、すぐに淘汰が始まり、リーダー企業に集約されてしまう。

 中華とアメリカンの見かけは、相当違うが、両者ともによく似ている。
 ともかく安い。そして、サービスは迅速そのもの。そして、旨く感じるようなものを出す。薀蓄を傾けたり、格好などつけない。
 それに、経営者も働いている人も、お金儲けのためにやっていると胸を張って語るという点が特筆ものではないか。

 これと対象的なのが、フレンチと和食だ。異質としか言いようがない。
 安価、迅速、旨い、という鉄則はないがしろにされがち。どこも気位が高いのである。
 何故そうなるかといえば、ほとんどの店は、外部の者にはわからぬこだわりをもっているから。この店は、お金儲けだけで経営している訳ではないぜ、と言いたげなのだ。

 和のファーストフード「蕎麦」など典型。
 値段は高く、サービスは鈍く、愛想無し、店は狭くて居心地の悪い椅子の店があったりする。驚くことに、これで不味かったりする。こんなお店でも、お客さんがしばらくの間は来るし、滅多なことでもない限り誰も文句は言わない。
 だいたい、たいした違いでもないのに、砂場、藪、更級といった派閥を重視したりするようだ。(1)人によって好みがあるなら、3種類出せばよさそうなものだが、そんなことはしない。しかも、組合での協議がお好きなお店も少なくなさそうだ。
 もっとも、中華街方式の安速旨だけを狙う店や、アメリカン型チェーンも無い訳ではないが、それは主流とはならないのである。
 安価な食を提供するのが嫌いである可能性も高い。寿司店など、発祥は屋台だった筈だが、それが高価な食の店になってしまうのに時間はかからなかった。日本の食を司る職人は、薄利多売はお嫌いなのである。  庶民相手のお店といえば、居酒屋だが、ここにしたところで、包丁捌きの技量を誇る板前さんが看板である割烹料理屋と本質的には同じものではないか。迅速に出せる仕組み作りに力を入れているとは思えまい。質と価格でのオープンな競争に進むことも稀。行き着く先は、お客さんの囲い込み。馴染みになることが、お客さんも嬉しいのだからいたし方ない。
 唯一、安さを追求していたのが、地域の定食屋さんだが、消えつつあったのが、チェーン化で復活しているとの話もあるが、それは蕎麦屋のチェーンと同じような地位でしかなかろう。

 その点ではフレンチも似た体質といえそうだ。イデオロギー色濃厚な外食サービスである。
 フレンチ外食の典型は“Bistro”。廉価だが、安さを追求しているとは言いがたい。中華やアメリカンと比べれば、大衆相手のお気軽なお店と主張していること自体が気位の高さそのものに映る。
 東京のビストロなど、質はピンキリ。しかも、コストパフォーマンスがとてつもなく悪いお店が流行っていたりする。と言うか、流行って、質が急激に落ち、価格が上がったということのようだが。まあ、旨さを追求しているのではなく、雰囲気第一ということである。
 Wikipediaによれば、この言葉はロシア語からきているそうで、パリに入ったコサック兵が迅速サービスを要求したことに由来だとか。しかし、現実のビストロはスローな対応である。そして、スローフードが提供されるのだ。と言っても、そのメニューの幅は狭い。

 --- 参照 ---
(1) 見田盛夫: 「東京五つ星の蕎麦 技を味わう118の名店」 東京書籍 2006年
  


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