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2010.7.26
 
 


“食べる”と“飲む”の違いを生む文化的背景…

 英語の授業で、西洋では、スープを飲むとは言わないと教わる。そして、それは文化の違いとの説明を受けることになる。場合によっては、寝るときはベットだから“UP”で、布団のように“DOWN”ではないし、戸は“PUSH”かPULL”で、日本のように“SLIDE”したりしないと聞かされる。
 普通は、これで、成る程と感心したりするもの。

 しかし、よくよく考えれば、西洋でもスープを飲むことはある。ファーストフード店では、スープがコーラと同じ紙カップに入っていたりするからだ。コップに口をつけてコーラを飲むのとなんら変わらない訳で、これは“Drink”と表現せざるを得まい。
 ただ、カップにプラスチックのスプーンがついてくれば話は別だ。カップはたちどころにコップではなくポットとみなされ、食べることになるのだ。
 ヨーグルトでも同じことが言えよう。もしもコップに入っていて、それに口をつけるなら“Drink”。スプーンを使えば“Eat”となる。まあ、どちらでもかまわないというのが実情ではないか。

 これでおわかりだと思うが、文化が違うと言われているが、日本とそれほど変わらないと見ることもできる。
 味噌汁の場合、基本は液体だから、お椀に口をつけるしかなかろう。従って、“飲む”になるだけのこと。まさか、味噌汁をスプーンで飲む人はいまい。赤ん坊と薬液という例外はあるものの。
 スープも、持ち手がついたカップで出されたら、味噌汁と同じで“飲むことになる。日本と西洋での表現の違いはほとんどないと見なすことも可能である。
 ただ、普通はカップではなく、スープ皿だ。こうなると、まさか、皿に口をつけて飲む訳にはいくまい。しかし、和の伝統からすれば、匙はできる限り使うべきではない。従って、本来はそうすべきなのだ。それができないのは、西洋のマナーを守ろうと考えるからだ。例外的に、スプーンで“飲む”ことを認める訳だ。
 それだけのこと。

 この説明では、腑に落ちないというのなら、お粥を考えてみれば納得して頂けるのではないか。まさか、お粥を“飲む”と表現する人はいまい。普通は“食べる”である。西洋も “eat gruel”。
 箸でつかめないから、どうしても匙を使うことになり、液体であっても“飲む”と表現できないということ。繰り返すが、和の流儀では匙で飲むことなどありえない。
 もちろん、粥の場合、匙を使わずに、箸だけのこともある。その場合は碗に口をつけることになる。こうなると、“食べる”とは言えない。
 しかし、お粥は、本来は“食べる”べきものなので、“飲む”とも言いたくない。そこで、“啜る”になる訳だ。
 ご存知のように、この所作は西洋では確か“Slurp”と呼ばれていたと思う。もちろん、不作法極まりないもの。
 この行儀だけは確かに大きく違う。

 折角だから、中国食文化も見ておこうか。

  “eat soup”、“味噌汁を飲む”、に対して、どうなるか。・・・これが、なんと“喝汤”。
 日本と同じく飲む訳だ。但し、蓮華[汤勺/调羹]を使うのが普通。スプーン[勺子]を使えば食べることになる西洋とは正反対だ。
 だが、そう見るのは行き過ぎでは。
 と言うのは、和食の汁モノと中華のは同じタイプで、旨み成分が溶け込んだ液体を頂こうという料理なのに対して、て西洋のスープは違うからだ。スプーンの形態が浅いところからして、本来はどろどろした固形物が入ったものを食べていたに違いない。たまたまそれが洗練されると、コンソメスープのような液体になったりしたと考えるのが自然だ。コンソメなら、スープ皿とスープスプーンではなく、カップで飲んだ方がしっくりくる。しかし、伝統を引き継ぎたいから、液体を“食べる”ことにしたということだろう。
 それに気付けば、和と中華の違いも納得できる。味噌汁を碗で供することはなかろう。必ず椀。だからこそ容器を直接口につけて“飲める”のである。そして具は、別途箸で掴んで“食べる”のである。
 中華のとはもともとが純粋な液体。ところが、和とは違い、碗を使うので、容器が熱い。匙を使わざるを得ないということ。当然ながら、西洋のスプーンとは違い、液体が十分量入る勺を使うのが基本となる。そして、勺から飲む訳だ。あくまでも液体だから“喝”としか言いようがなかろう。それだけの話ではないか。

 ここまでわかれば、“吃粥”ではなく、“喝粥”とする理由も想像がつく。もともと、中華の粥は液状のもの。を加えたりするのだ。
 ただ、七分粥にでもすれば、固形成分が多くなる。箸でも食べられるから、“吃”としたくなるかも知れぬが、それは西洋のコンソメスープが“Eat”となるのと同じことだろう。粥とは液体物であり、の延長なのであろう。
 そうそう、ヨーグルトだが、中国の酸奶はドリンクヨーグルトに近いものが主流。ストロー(“麦管”)を使いたくなるような食品。“吃”でなく“喝”を使うのは当たり前。


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