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2013.10.14

日本の家庭食文化の凄さ…

新刊書ではないが、世界の文化をさらっと目を通すにはなかなか便利な本がある。お読みになったらと言うか、文章には知らん顔して、写真だけ眺めるだけでもなんとなくわかるから、一度お目通しされたら如何かと。丈夫な装丁だが、重いので持ち運ぶ気にはならないので、コーヒーでも飲みながらのんびりとがお勧め。
  「地球の食卓 世界24か国のごはん」 TOTO出版 2006年
    by ピーター・メンツェル+フェィス・ダルージオ


中流と思しき家族の1週間の食生活で、どんなものが購入されたのか、一枚の写真ですべてわかってしまうという優れもの。それぞれが、各国の特徴をどれだけ反映しているかはわからないものの、すでにできあがっている固定概念を前提にして眺めると、「成る程そうだナ」という感触に浸れる。なかなか面白い企画である。著者の目論見とは違うかも知れぬが。

東京の場合は以下の例。
そうそう、石油ストーブの部屋でちゃぶ台ご飯の家庭の取材結果である。今時、この感じの茶の間は稀な気もするが。従って、東京の、一般的な家庭を代表しているとは言い難い感じがする。と言っても、マンション生活者を代表とする訳にもいかないだろうから、選択は難しそう。
ただ、いかにも西洋の先進国とは違うぜ感を与えるという点では秀逸。もっとも、それは部屋の雰囲気だけでなく、食材全体にも言える。なんだか雑然としており、統一感なく多種多用なものが並んでいるのである。ひとつひとつはきちん包装されている訳だが。
ともあれ、要は、こちらの感性と、読み方。これで解釈が一変することになろう。

各国を比較して、日本の特徴を感じ取りたいなら、「調味料・香辛料」を眺めるのが一番だと思う。
東京はかくの如し。
(「SSMK」とは塩、砂糖、マヨネース、ケチャップは先進国の家庭なら必ず購入しているという意味で使っている。)
・・・@東京都小平市・・・
 【SSMK+】
    練り辛し、わさび
    はちみつ
    醤油、味噌、料理酒、みりん
    オイスターソース、とんかつソース
    中華だれ、キムチだれ、醤油ドレッシング
    焼肉のたれ

 【油】 サラダ油、胡麻油、オリーブ油
 【スプレッド等】 オレンジマーマレード、イチゴジャム、マーガリン
 【コーヒー/ティー用】 個装クリーム、個装シュガー
 【酸味系】 穀物酢、果実汁
 【他】 黒胡椒、白胡麻、擂り胡麻、豆鼓

これは、一週間に使用したものをリストにしたもの。もう少し長期にしないと、日本の場合は実態がよくわからないと思う。例えば、こんなものも結構色々と持っていたりするもの。
  ・卸生姜、柚子胡椒(南蛮)、練り梅、粒マスタード、等々
  ・各種味噌(一般、白[甘]、赤[黒]、モロミ)、塩麹、等々
  ・料理用アルコール類(焼酎、赤/白ワイン、ブランデー)
  ・ソース(ウースター、お好み焼き用)
  ・ディップ類、タバスコ、ラー油
  ・酸味料:米酢、穀物酢、果実酢、各種調味酢、バルサミコ

もちろん、ドレッシングやたれの類も、種類はえらく豊富である。
しかし、この本には欠点があり、旨み系や日本の家庭の定番たる、ルー系が「調味料・香辛料」に分類されていないのだ。インスタントスープやパスタソース、あるいは、混ぜ御飯の素やふりかけの類なら、妥当な分類と言えようが、これらは、"そのまま食べる"食品ではなかろう。(スープの扱い方の違いが現れたと言えよう。)従って、「惣菜・加工食品」と見なしてしまうと、折角の各国比較が台無しになってしまう。以下を追加しておこうか。
 【総菜・加工食品扱いの調味料・香辛料】 出汁の素、ハヤシの素

ただ、「乳製品」については、このご家庭の場合は「調味料・香辛料」に当たるものがない。都会では、粉チーズはそれなりに普及している感じもするのだが。(メルト型シュレッダーは外すとして。)
ともあれ、色々保存しているご家庭は多いのではなかろうか。
  ・和:鰹節、昆布、椎茸
  ・中:鶏ガラ、帆立、中華混合、等
  ・洋:コンソメ、ブイヨン、等
  ・ルー等:カレー、シチュー、焼き飯、等
  ・乳製品:粉チーズ

これだけ、長々と書けばおわかりだと思うが、日本の都会の家庭では、矢鱈に色々な「調味料・香辛料」が雑居状態ということ。つまり、世界中の料理のエッセンスを取り入れ、ママの場合もあるし、その変化形もあって、バラエティ化が著しいということ。伝統食へのこだわりはあるのだが、それ以上に、新しいものを取り入れるのが大好きなのである。

例えば、米国ならこんな具合。
・・・@米 カルフォルニア・・・
 【SSMK+】
    イエローマスタード

 【油】 購入無し←普段はサラダ油だと思われる。
 【スプレッド】 ピーナッツバター、アプリコットジャム
 【乳製品扱いの調味料・香辛料】 粉パルメザンチーズ
・・・@米 ノースカロライナ・・・
 【SSMK+】
    イエローマスタード
    ドレッシング
    ランチディップ、

 【油】 ベジタブル油
 【スプレッド】 ピーナッツバター
 【コーヒー用】 クリーム
 【乳製品扱いの調味料・香辛料】 粉パルメザンチーズ
・・・@米 テキサス・・・
 【SSMK+】
    クローバーはちみつ
    BBQソース
    サルサ

 【油】 ベジタブル油
 【スプレッド等】 ピーナッツバター、非バタースプレッド、バターシロップ
 【コーヒー用】 クリーム
 【他】 胡椒、シーズニングソルト
日本と比べると、ずいぶんと単純なことがわかろう。
おそらく、調理時間をできる限り減らしたいのだろう。味付けやメニューに思い悩む気がしないとも言えるかも。食事は大切と考えていても、サーブすることに時間を割くのはもったいないだけのことかも。従って、調理時間が長くても、ビーフシチューのようなほったらかし料理なら、時間を潰されないから好まれるだろう。それを考えると、「単純」とばかりはいえないし、上記の購入品リストはミスリーディングと言えなくもない。@米 カルフォルニアはシチュー好みらしいが、その場合、様々な調味料が使われるからでもある。
 ・黒胡椒
 ・各種乾燥品:バジル、マジョラム、オレガノ、ローズマリー、セージ、タイム

尚、日本では、ファストフードではイエローマスタードはそれなりに人気があるようだが、家庭用だと粒マスタードの方が売れていそう。これは好みというよりは、応用の広さかも。時々の流行に影響されるから固定されている訳では無いと見た。ピーナッツ系スプレッドは米国では定番だが、日本ではそこまで広がりを見せていない。カロリーが高そうだし、朝食のパンには、さっぱり感のジャムで行きたいと考える人が多いせいだろうか。

オーストラリアの都会になると、食がもう少し広がりを見せるようになる。そして、料理することを愉しんでいそうな雰囲気が出てくる。
・・・@豪 ブリスベン・・・
 【SSMK+】(人口甘味料も)
    ホースラディッシュ、生姜
    はちみつ
    マスタードソース、BBQソース、とんかつソース、ウスターソース、減塩醤油
    ココナッツミルク
    サルサ、ピクルス(レリッシュか)

 【油】 オリーブ油
 【スプレッド等】 チョコレードスプレッド、ベジマイト、ピーナッツバター
 【酸味系】 バルサミコ
 【他】 黒胡椒、赤唐辛子、マスタードシード、カレーPack、パセリ、コリアンダー、ミント、オレガノ、クミン、ロースマリー、ターメリック、タイム、ローリエ
しかし、食のバラエティ度から見れば、まだまだ感あり。

そうなると、やはり欧州を見たくなる。馴染みある主要国を眺めておこう。都会のアパルトマン生活というタイプではないが。
・・・@仏 パリ郊外・・・
 【SSMK+】
    マスタード
    はちみつ
    ピクルス(コルニション)

 【油】 オリーブ油、サンフラワー油
 【スプレッド等】 チョコレードスプレッド、ブラックカラントジャム
 【酸味系】 ビネガー
 【他】 セロリソルト、ブラックバジル (生パセリ、生バジル)
 【乳製品扱いの調味料・香辛料】 粉チーズ
・・・@独 ハンブルグ近郊・・・
 【SSMK+】 (マヨネースが購入されていない。)
    マスタード
    サウザンドアイランドドレッシング)

 【油】 エキストラバージンオリーブ油
 【スプレッド等】 低脂肪マーガリン
 【酸味系】 バルサミコ
 【他】 粒胡椒、パプリカ、オレガノ、バニラビーン
 【乳製品扱いの調味料・香辛料】 ヨーグルトスプレッド
・・・@英 イングランド南西部・・・
 【SSMK+】(ダークブラウンシュガー、粗塩、人工甘味料も)
    ドレッシング/サラダトッピング

 【油】 オリーブ油
 【スプレッド等】 非バタースプレッド、ラズベリージャム、ピーナッツバター
 【他】 胡椒、パプリカ (生パセリ、生バジル)
・・・@伊 シチリア島・・・
 【SSMK+】(ケチャップが購入されていない。)
    トマトペースト

 【油】 オリーブ油、植物油
 【スプレッド等】 チェリージャム
 【酸味系】 ホワイトビネガー
 【他】 胡椒、松の実、レーズン、重曹
 【乳製品扱いの調味料・香辛料】 パルメザンチーズ
 【総菜・加工食品扱いの調味料・香辛料】 固形ベジタブルブイヨン
なにが面白いかというと、シチリア島で魚屋に勤めているというのに、家庭では生魚料理がほとんどなされ無いのである。これに対して、東京小平市のご家庭では鮮魚は不可欠。世界的に見れば、生魚を丸ごと購入するような家庭は滅多になくなってきているということなのだろうが。


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