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2013.10.29 + 追記

中尾納豆文化論は納得しかねる…

雲南から日本列島まで、照葉樹林文化帯と見るべしとの中尾佐助説はいたるところで見かける。
そして、必ずといってよいほど、そこには納豆食文化の紐帯が見られるとの指摘。こんな大三角形が出来ているというのだ。
  ▲西端・・・ヒマラヤ山麓のシッキム辺り
  ↑
  ○[納豆文化中心地 (根拠不詳)] 雲南
  |
   [経由] インドネシア半島
  ↓
  ▲南東端・・・ジャワ島
  ↓
  ▲北東端・・・日本列島

まあ、そう言えなくもなかろうが、今一歩の理屈でしかなく、そんな話しを鵜呑みにすべきではなかろう。
ということで、批判的一文を書いておこう。

最大の欠陥は、日本における「納豆」の位置付けをはっきりさせずに、強引に論旨を展開している点。日本国内の状況を無視して、アジアという広い視野から眺めるというやり方は度がすぎる。

ご存知のように、日本の納豆とは、稲藁の納豆菌(枯草菌)ベースの無塩醗酵食物。糸引きタイプでかなり臭いのが普通。このため、雅を愛する人達には好かれてこなかった食物である。今でも、健康に良いと宣伝されていても、西日本では人気薄なのは誰でもがご存知の筈だが、それはこんなところが原因だろう。コリャおかしくないか。西日本が照葉樹林で、納豆が普及している東は落葉樹林なのだから。

そうそう、嫌われるのは臭気もさることながら、この「糸引き」状態もあげておくべきだろう。
今や、糸を引かない乾燥納豆である「テンペ」はインドネシアに行かなくても、伊豆半島ならスーパーに並んでいる位。誰でも試せる状況にある。大量生産とスーパーの目玉商品化でとんでもない廉価にされている納豆のようにはいかないから、普及は難しいと思うが、美味しい食品である。食べればすぐにわかるが、両者は納豆と呼ばれてはいるものの、似て非なるどころか、全く異なる食物である。
それは、いわば、生卵と玉子焼きの違いと言ってもよかろう。糸引き納豆とは、原則、生卵同様に、御飯に混ぜてネバネバを愉しんで「生」で食べるもの。
一方、テンペは、調理して、お数として提供される食材で、玉子焼きのように加熱する必要がある。そのまま「生」で食べようとする人などまずいない。
なにを言いたいかおわかりだろうか。・・・生卵を食べる社会を、生卵など唾棄すべきものと考える社会と一くくりにして「卵」食文化圏として、よいかということ。

そもそも、テンペ/tempeを納豆と呼ぶべきではない。概念が違うからである。食材はたまたま大豆が使用されているにすぎない。他の食材でもかまわない訳で、真っ白なクモノス黴菌の醗酵物の名称。菌が異なるにもかかわらず、同じような技術というのは余りに強引すぎよう。
当然のことだが、白黴でなく、赤黴の醗酵食品も存在する。大豆豆腐粕やピーナッツ油の絞り粕をアカパン黴で醗酵させたオンチョム/Ontjomである。知恵の結晶のような食品と言ってよかろう。

赤黴バージョンを見ればわかる通り、これを古代の醗酵食品と考える人などいまい。尚、有塩なので豆鼓/醤系で、納豆系とは見なせ無いが、タウチョ/Taucoという中華料理に使う手の込んだ調味料がある。麹が入っていそうだが、大豆醗酵はクモノス黴菌利用だと思われる。小生は、この最初の段階がテンペの祖形ではないかと睨んでいるのだが。
世界史を学んでいれば、普通の発想なら、これらはインドシナ半島からの渡来ではなく、明の時代の大洋進出に伴う醗酵技術伝来に関係すると考えるのでは。
それに、インドシナ半島には壮大な廃墟アンコールワットが存在しているし、由来不詳の少数民族のデパート状態であり、明らかに多種多様な民族文化でごったがえしていた場所だった筈。・・・雲南から直線的に文化が広がるとはとうてい思えないということ。しかも、その方向にもえらく違和感あり。

ただ、中尾説の魅力は、おそらくテンペではない。ブータン/シッキム付近で「キネマ」と屋ばれる糸引き納豆が存在していることを紹介したこと。ソリャ、日本と全く同じ食品がそんな場所にあれば誰だって驚く。
だが、それは生の草で包まれており枯草菌醗酵ではないのでは。この地方の特性を考えれば、常識的には乳酸菌系統だろうが、そこを調べようとはしなかったのである。
そうそう、こちらも、「生」食などあり得まい。おそらく、加熱して豆カレーにするのだろう。
これでおわかりだと思うが、日本の納豆とは根本的に違う「食」である。
そんなことは素人でもわかる。この辺りはおしなべて、インドから仏教が入った地域だからだ。

つまり、牛乳食とカレー文化に覆われているということ。日本人はミルクを生で飲むのが好きだが、普通は加工して食すもの。この辺りも文化の違いを感じる訳だが、それはさておき、基本は加熱殺菌後の乳酸醗酵食地域と言ってよかろう。ただ、作ったヨーグルトは中間原料にすぎない。それを油脂分のバターオイルと、蛋白部分のチーズに分けて用いるのがこの辺りの習慣。
要するに、ここに大豆蛋白が入ったのである。従って、豆は潰して使うと思われる。日本やインドネシアとは全く系統が異なる食品と見るべきだろう。たた、それらとは違って、キネマ/kinemaは孤立していないかも。仏教と共に、ミルクが潤沢でない地域に広がった可能性があるからだ。インドシナ半島に、類似の納豆食文化を持っている少数民族がいておかしくなかろう。

結論。
納豆を見る限り、醗酵食品と照葉樹林文化とはなんの関係もない。3つの納豆は菌も食べ方も全く違っており、異なる食品群に属すと見るのが自然である。
上記のインドネシアにしても、タベ/tapeという米やキャッサバ(タピオカ)澱粉の麹醗酵食品が菓子として存在している。これはどう見ても甘酒化一歩手前の代物。大昔は酒を造っていた可能性を感じさせる代物。醗酵食の系譜を考えようというなら、「麹」で考えるべきだろう。

(追記 2013.11.5)
日本では、テンペを生食するそうである。
尚、インドシナ半島に納豆は色々あるという主張の多くは、「有塩醗酵」食品を指している。上記で対象とする食とは全く異なるのでご注意あれ。こちらは豆鼓系で、南江から雲南を越えてラオスからタイへの民族大移動ルート上と、越からベトナムに繋がる中華系文化伝播の道の、そこかしこに存在している。
雲南では、漢系とタイ系は盆地内湿地、照葉樹林系と呼ばれる山岳少数民族は山内で住み分けており、両者の間には文化的に深い溝があると見て間違いなさそう。
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