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2014.6.19

中国の料理文化圏

[中華麺の粋 (5)]

雑ではあるが、「南北」文化圏の見方を書いてきたつもり。

<焼成小麦パンの時代からの基層文化>
 「南稲北麦」・・・栽培穀物の違い。
 「南粒北粉」・・・調理品の違い。
<麺革命勃発後に加わった文化>
 「南粉北麺」・・・ヌードル原料の違い。
 「南干北生」・・・ヌードル加工品の違い。

但し、現実には、ゴチャゴチャだから、これがすっきりと見える訳ではない。穀物にしても、今や東北域でも稲作が進んでいる訳だし、北であろうが、ご飯が主食化していたりする訳だし、暑い地域であっても拉麺を食べる人達がいても誰も驚くような話でもないからだ。
まあ、それが中華圏の特徴でもあろう。

そんなことを語れるのは、「碗」+「椀」+「銘々箸」という食文化にどっぷり浸かっている目線から、中国の食の状況を眺めているからである。似て非なる点ばかりが矢鱈と目につく訳だ。

逆に言えば、ヌードル嗜好に関して、日本は異端に映るということ。
ことは、ラーメンと拉麺の違いだけの話ではないのだ。
米を特別視するのは、タイを始めとして珍しくない。それなら、タイ同様に、ヌードル(ビーフン)にも食指が動きそうなものだが、そうはならないのだ。
糯米食を基本とする雲南では、ビーフンは名物("過橋米線")であり、ずいぶんと嗜好が違うことがわかる。

日本人は饂飩や蕎麦は大好きな上、素麺人気も高いから、極細だからビーフンを避けてきた訳ではなさそう。ただ、蕎麦にツナギを入れ、わざわざ切り出し製法を採用しているところを見ると、コシの無いビーフンは嫌いということかも。
ともあれ、日本のヌードル食の特徴は、具無しで、調味料だけに近い汁で食べること。大陸でこの手の食を好む人がいるとはとうてい思えない。

調味料だけで穀類を食べる食習慣に拘りを持っていそう。
それは、もともとの糯米食文化を引きずっているということか。その原初は、おそらく、揚子江の稲作域に住んでいた越族の習慣。現在のタイ系の人達である。

ただ、現在のタイ王国中央部の食文化はそれから大きく外れてしまった。時代に合わせて変えてきた訳である。
タイは独自文化の国に映るが、ここら辺りは中国の色に染まっていると見てよいのではなかろうか。今では、粳米食だが、これは粳米が好みだったというよりは、中華帝国の需要は粳米だったので、それに対応せざるを得なかったと見るべきだろう。
ヌードルにしても、ここは中国の文化をそのまま移入しただけ。名前から見て、潮州出身の華僑が持ち込んだ食品と見なされているそうだ。
  広東省潮州の米ヌードル
  粿条★ 
  タイの米ヌードル
  guediou
   sen mi
   sen lek
   sen yai

  Khanom Jeen・・・醗酵米粉
☆が普通のダイス押し出しで作るビーフン「米粉」で、★は粢で皮を作り切り出す「河粉」である。両者は全く違うもので、発祥元も異なる可能性がある。残念ながら、情報が少なすぎてよくわからないが。
もともと北方から大移動してきた客家にとっては、おそらく加熱加工後乾燥させる手のビーフンは好みではなく、薄く延ばした粢を蒸して切り出した生ヌードル的な方がお好みだろう。もっとも、「河粉」も、乾燥品が流通しているから、どうなっているかわからぬが。
  客家
  板:
  切出:
  → 【台湾客家[高雄市美濃区,新竹県新埔鎮]
もちろん、台湾での主流はビーフンだと思う。
  米篩目
こちらは福建からの渡来文化ではないか。
  福建省周辺発祥
  極細:米粉☆/bi-hun
  福建省福州
  膜焼フレーク・・・"鼎辺糊"

ビ−ブンの本場たる広州辺りで眺めると、必ずしもこの手の2分類で認識されているとは限らず、径のサイズ感で分けられているようだ。しかしながら、明らかに食感が違うから、この違いを認識していない筈もなく、言葉の方が混乱しているのだと思われる。
  広州,香港の米ヌードル
  細:米粉/maifan☆
  太:瀬粉/laaifan
  平:河粉/hofan★・・・布状のままだと「布拉」
  型枠:腸粉/cheungfan
流石本場だけに、こだわりを感じさせるモノも存在している。
  広東省仏山市順徳区陳村鎮
  陳村粉 or 黄但粉

ついでに、華僑が進出している地域の状況も見ておこうか。
どこも、おしなべて、故郷の"ママ"料理の形で現地料理化していそう。このことは、大歓迎ではあるが、料理として洗練させるとか、改良を重ねる情熱を傾けたくなるほどには愛されていないということでは。
米粒は炊く時間が長いし、出来上がってから時間が経つと不味くなるのに、ビーフンは即時調理可能なので、これは便利というところか。
  ベトナム
  丸紐状:bun
  平:pho
  インドネシア
  bihun or mihun
  マレーシア サラワク州,シンガポール
  Kuetiau or Kuey teow
  マレーシア
  mee hoon, mihun or bihun
  フィリピン
  pansit or bihun
  カンボジア
  Kuey teow[粿条]

そうそう、タイの話で忘れてはならない点があった。
米以外のヌードルも流入しているのだ。もちろん市民権がありそうな定番料理に使われている。
  タイの他のヌードル
  Bamee or Mee Leong・・・卵麺(鹹水添加麺)
  Woon sen・・・緑豆春雨

分類がわかりずらいので、英語で整理しておくと、こんな感じか。
 <rice paper> 薄皮
 <rice vermicelli> 極細(押し出し製法)
 <rice noodles> 細目(蒸し製法「炊」), 太目(茹で製法「水」)

rice paperは東南アジアの料理に登場する生春巻の皮で知られる。ベトナムではbanh canh。
まあ、東南アジアで見ると、ヌードル類のゴチャゴチャぶりははなはだしいものがある。それは、文化交流の十字路だから致し方なかろう。もっとも、日本も各種各様の料理のオンパレードであるが、"ママ"にせず、位置づけを決めているのだが、そういった整理はしないようである。移住民が存在するからそれは無理なのだろう。
それが一番よくわかるのが、ミャンマー料理。
  [サラダ類:thoke]
    rice noodles ベース・・・Nan gyi thoke
    glass vermicelli ベース・・・Kya zan thoke
    wheat noodle ベース・・・Khauk swe thoke
    samosa ベース・・・Samuza thoke
  [ビルマ系]
    rice vermicelli ベース・・・Mohinga☆
    rice noodles ベース・・・Kat kyi hnyat
    glass noodles ベース・・・Kyar zan hinga
  [中華系]
    rice vermicelli ベース・・・Kyay oh
    rice noodles ベース・・・Hpet htoke, Kaw yay khauk swe
    wheat noodle ベース・・・Si gyet khauk swe
  [シンガポール/マレー系]
    rice noodles ベース(軟)・・・Mi swun[←"Mee suah"]

尚、上記の<glass noodles or crystal noodles>とは、粉条/fentiao。日本語の「春雨」である。(北京: 「粉絲」, 台湾: 「冬粉」, 広東: 「細粉」)
ご存知のように、もともとの原料は緑豆で、山東省龍口産が有名である。豆より安価な澱粉がとれる地域では、ビーフンと称してはいるが、原料として代替品が使われることが多い。特に、芋が使われている製品が目立つ。
  紅薯粉(@湖南、四川、雲貴)
  土豆粉/馬鈴薯粉条

なかには、米粉が好まれているにもかかわらず、緑豆と米を混ぜる「河粉」タイプもあったりするから、春雨の透明で光るという点が嬉しい人達もいるのかも知れぬ。
  湖北省 武漢
  米線・・・名布津:"鮮魚糊湯粉"(鮒スープ)
  豆皮・・・緑豆+糯米のシトギを焼いたもの

尚、桂林や雲南のビーフンも有名だが、伝来したものか、昔から粢で作っていたものなのかは定かではない。しかしながら、これらが有名になった切欠とは、中華帝国の仕組みが整ってからだから、都市文化が入り込んでいるのは間違いない。
  広西壮族自治区 桂林
  丸紐状:米粉
  扁平:切粉
  雲南省
  細餅:餌絲/er si

尚、インドのヌードル料理ははたして中華文化なのかは判然としない。もしもそうだとしたら、中華ヌードル文化の威力は絶大といえるだろう。
インドの米食地帯の食文化は、東南アジアの米食とはスタイルが違うからである。箸を使うとは思えないし、ピラフ型が基本だからだ。・・・日本でもそうだが、東南アジアでは、混ぜご飯とか、炒飯といった料理は、ご飯の基本から逸脱した調理方法と見なされているに違いない。(最近は日本ではそうは感じない人の方が多いようだが。)
  インド タミル・ナードゥ州,カルナータカ州、パキスタン
  押出:Sevai
  インド ケララ州、スリランカ
  スクリュー押出:Idiayppam

だらだらと書いてしまったが、「気付き」感が生まれたら幸い。
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