表紙 目次 | 2015.3.2 キノコの好き嫌いR.G.Wasson[1898-1986]は、キノコドラッグ本の著者として知られるそうだ。日本でも有名な、毒々しい派手な色彩の紅天狗茸こそ、「リグ・ベーダ」に登場する神の飲み物「ソーマ」と主張したので有名になったと言う。もっとも、死者多発という訳でもないから、このキノコを毒茸代表と見なするのは日本だけのようだ。ファンタジーものを見ればわかるが、赤字に白の水玉模様の可愛いキノコには妖精達が住むことになっているのが、欧米文化だし。 毒と薬は紙一重。 なにせ、西シベリアのシャーマニズムで使われていたそうな。そんなこともあって、ワッソン仮説は人気を呼んだのだが、真相は今もって全くわからない。(邦訳「聖なるキノコ ソーマ」せりか書房 1988/原著1968年) Wikiを見ると、この方は研究職ではなく、なんとJ.P. MorganのV.P.。新婚旅行で妻の母国ロシアで、アメリカの人々とキノコに対する態度が余りに違うことに気付き、夫婦揃ってそこに興味を持ったことが、この道に入る切欠となったと言う。従って、その視点は、民俗菌類学的なもの。おそらく初の用語でもあろう。だからこそ、著作が面白いのであろう。 と言っても、著作を読んだことがないので、推定にすぎぬ。民俗学的にキノコ好きとキノコ嫌いがはっきりわかれていると見ているとの解説があるので、読者の関心を誘う仕掛けがされているなと感じた訳である。 よくある、どこまで当たっているのかわからぬ類型化であるのは間違いなさそうだが、このように2分できるということのようだ。 PRO スラブ系(ロシア、等) ANTI アングロサクソン系(英米) まあ、確かに、この差は目立つ。折角だから、どうしてそうなるか考えてみた。 【インプリケーション-スラブ】 スラブ民族には偏執狂的キノコ愛を語る人が多いのは間違いない。日本でも、時々見かけるが、あくまでも少数派。当たっても懲りるどころか、これでスキル向上と考えるのだからご立派。一般人にはなかなか真似できない。 まあ、そこまで行かなくても、日本人のお花見や紅葉狩りと同じようなもののようだ。季節の一大イベントがMushroom huntingなのである。日本には旨み食材があるし、○○狩りの対象もバラエティに富んでいるから、キノコだけに熱を入れる必要は無いが、冷涼地帯ではキノコ食の楽しみは格別なのだろう。それに、キリスト正教会の影響も大きかろう。肉/魚と乳製品を避ける期間があり、遵守すれば茸主体がベストだろうから、キノコの季節になると欲しくなる体質ができあがっていそうだし。 NHKのかつての番組でも、かわった題名がついていた。露では、レーニンから天才的数学者までキノコ命なのだろう。・・・「数学者はキノコ狩りの夢を見る 〜ポアンカレ予想・100年の格闘〜」[2007年] 小生は第2外国語にロシア語を選択したが忘却のかなた。ただ、どういう訳かГоршок с грибами(キノコ類のバター炒めサワークリームシチューの壺焼き)という単語を思いだしたりする。 【インプリケーション-アングロサクソン】 英国は諧謔が好きな国でもあるし、屁理屈が通ったりする。食べれば死ぬ可能性があるようなモノをわざわざ摂取するようなことはすまい。フグなどもっての他ではなかろうか。 なにせ、毒キノコか判別するには絶対確実な1つの方法しか無いと言われているのだ。わざわざそれを試してみたいと考える人はいないのでは。 まあ、どうせ注力するなら、食以外の分野でというのが一種の誇りかも。 その他の地域で、どうなっているのか、勝手な推測を繰り広げてみようか。 先ずは、欧州の状況。 スラブ同様にMushroom hunting無しの生活が考えられないのは、近隣の冷涼気候帯の森の民だろう。 PRO ノルディク、バルチック 当然ながら、オーストリア-ハンガリーやドイツでも、肉にキノコという取り合わせは覇権国としての正餐に登場し、大いに囃されたことだろう。 しかし、地中海になると、キノコに徹底して拘る人々が存在する一方で、それが通用していない地域があるようだ。 PRO カタル−ニャ-フランス-イタリア ANTI スペイン、北アフリカ 【インプリケーション-イタリア】 ローマの大宴会にキノコが出なかった訳がなかろう。ポルチーニ・フェチが生まれて当然。 【インプリケーション-フランス】 フランスではtrompette de la mortに変わるだけ。まあ、トリュフもキノコと言えばキノコ。どちらにしても、かなり奇妙な形状の食材である。だからこそ愛されるのだと思うが。ここらは、イギリス食文化とはえらく違う。 【インプリケーション-カタル−ニャ】 この流れはカタル−ニャ止まり。この地では、Saffron milk cap/ROVELLONSは高級品らしい。美味いキノコを徹底調査研究したことがわかる。フランスとは違うゼとの自己主張も強そう。 キノコ興味薄しは、イスラム文化に洗われたスペインや北アフリカ。それは中東にまで続く。 ただ、イスラム圏といえども、ペルシアは嗜好が大きく異なるようだ。 PRO ペルシア(イラン) ANTI イスラム教徒が多い国々 【インプリケーション-イスラム教徒が多い国々】 敬虔なイスラム教徒にとっては、酒やドラッグといった精神に影響を与える摂取物は禁忌。歌舞に浸るのもえらく嫌う。もともと性的なアピールを感じさせる服装からして避ける社会である。そんな社会のただなかで、幻覚症状がでたり、強壮効果があるとされるキノコを喜んで食べる姿勢を見せる訳にはいくまい。 特に、シルクロードを通じて東から入ってきた強壮茸の類など、唾棄すべき食材と見なしたに違いないし。 【インプリケーション-ペルシア】 しかし、不埒なタイプでなければ、キノコ結構という論理が成り立つ。イスラム化以前は覇権国でもあったペルシアがキノコを避ける必然性はあるまい。 ペルシアとくれば、その東はインド亜大陸だ。 単純に考えると、ベジタリアンが多いからキノコ食材大歓迎でおかしくないことになる。実際、キノコ狩りでは盛んな地域として記載されていたりするが、小生は、ここは内部分裂状態と見なす。 PRO 一般 ANTI 高位カースト 【インプリケーション-インド亜大陸】 キノコに対する好き嫌いは分かれているのではないかと思うのは、釈迦入滅の原因が、鍛治屋チュンダの出したキノコ料理とされているから。いかにもカースト問題を暗示している記述であり、高位カースト層はキノコを敬遠している可能性は高い。つまりベジタリアンほどキノコ回避だったりしかねない社会ということになる。情報が見つからないので、当たっているかは定かではないが。 もっとも、インドは中国全土以上に広大であるから、そもそも、一括して眺めること自体が非常識と言えるかもしれない。例えば、ヒンドゥーでもカシミールはかなり独自な文化を保っていると言われている訳で、高位カーストの高級キノコGucci/Kani'ghitch好きは有名らしい。但し、この地方だけの、特殊要因での嗜好という訳ではない。日本で言えばアミガサタケ系に当たり、美味しいとお墨付きのキノコである。言うまでもないが、広東〜雲南では垂涎の食材(竹蓀[荪])で、大量生産されている。仏や伊でも、morille、spugnolaと言えば茸の女王。 さて、次はシルクロードで東へと進んた地域となるが、そこは検討する必要もなかろう。中国はなんでも食材化の地域だからだ。しかも、キノコには仙人食材というか、霊薬イメージも濃厚だし。旨み追求という点でも、はるか昔から日本から乾椎茸を輸入していた位だ。東南アジアも日常食と言ってよいだろう。 そして、シルクロード末端を称していた国に繋がる。そこは、一風変わって、「香り松茸、味占地」という独特な食文化の地なのである。 文化論の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |