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2015.6.7

神道視点での道教考(最高神グループ)

道教は基督教や伊斯蘭教とは違い、多神教と言われるものの、明らかに最高神を意識しており、神道よりはそちらに近い気がする。

基督教とは創造主たる唯一神への信仰がされているが、それは名目的なもの。聖母崇拝だけでなく、精霊が存在していることは共通認識と化している。しかも、宗派の重鎮や跳びぬけた存在の信仰者は「聖人」として尊崇の対象になる。地域によっては、宗派とは無縁の、伝説由来であったりする。当然ながら、いかにも民俗的なイベントも儀式として組み込まれている。
伊斯蘭教はより厳格と言われるが、中央アジアでは、土着の偉人墓碑的モニュメントに対する信仰拠点にはことかかない。
道教はこうした一神教の現実信仰を考えると、程度の差で多神教扱いされていると見なすこともできよう。

と言うか、一神教への対抗上、そのように変化して来たということかも知れぬが。

道教の最高神は【三清】と言われるグループであり、1柱ではない。階層から言えば、(聖境)三清天の神々ということになる。
一般には、元始天尊・靈宝天尊・道コ天尊とされ、地位はこの順とされている。従って、礼拝施設の道観では主神と脇侍神的に映る並び方になっているようだ。
しかしながら、どう見ても3番目の教祖への信仰が基調である。ただ、名目的には、1番目は創造主ということになる。いわば、伊斯蘭教における、教祖ムハンマドと絶対唯一神アラーの関係。
ただ、道教の場合は、教祖が信仰を広げたというよりは、中華帝国の支配者が老子を自らの氏族の祖先と規定したことが大きかろう。つまり、儒教信仰の核である祖先神崇拝と習合したということ。そして、土着の様々な信仰を習合していったのだと思われる。体系化されているとはいえ、グチャグチャだからだ。

素人からすれば、2番目の靈宝天尊の意味がわかりにくいが、宇宙が生まれる状況を、無極から、陰陽の二極分化で表している宗派と考えれば、その過程を示した神ということになろう。そこらは、3像の姿から読み取れる。
[右側像] 靈宝天尊
・・・大局図(陰陽丸形鏡)提示
[中央像] 元始天尊
・・・印相表現(無極を意味するのだろう。)
[左側像] 道コ天尊
・・・白鬚老人

上記は簡素化した名称で、正式にはかなり長い。
一气化三清 玉清 居清微天 聖登玉清境 始气所成 日天宝君 元始天尊 妙无上帝
・・・創造主。神格の最高位。
一气化三清 上清 居禹余天 真登上清境 元气所成 太上高聖 靈宝天尊 妙有上帝 玉晨大道君
・・・万道の主「太上道君」。陰陽の世界秩序の象徴。
一气化三清 太清 居火赤天 仙登太清境 玄气所成 日神宝君 道コ天尊 混元上帝
・・・教主「太上老君」。化身(老子)と経典の象徴(「道徳経」)。

重要なのは、【三清】はあくまでも最高位というだけで、現実に体現する神とは違うという点。
人々に直接的に係るのは【四御】ということになる。命を受けて動く補佐役ということになるから、四輔とした方がわかり易かろう。
太上金闕至尊玉皇昊天上帝
・・・宇宙統治神「玉皇大帝
勾陳上宮天皇大帝
・・・霊を統括「天皇大帝」
中天紫微北極太皇大帝
・・・星を統括「紫微大帝」
承天效法后土皇地祇
・・・地母神后土娘娘

【三清】と【四御】の二重構造になっているのでわかり難いが、全体構造はわかり易い。
簡単に言えば、老子こと「太上老君」が事実上の最上位で、その下に宇宙統治神「玉皇大帝」があり、具体的には星の神々が世界を動かしているという構造。
「太上道君」は老子の"道"の象徴であり、その宇宙観の象徴が元始天尊。
「天皇大帝」や「地母神」は一応取り込んだ傍流という位置付けに映る。

このように考えれば、一神教と道教は、かなり重なり合う発想がありそう。
しかし、古事記には創造神や宇宙統治神という見方はなさそう。天之御中主神という抽象的な最高神は存在するものの、信仰対象ではないし、最高位の「造化」3神グループは形成されていはいるものの、高木神(高御産巣日神)は明らかに異なる概念であるし、神産巣日神は、突如として殺された大己貴命を助ける行為を成すから、その役割は判然とはしない。御産巣日2神は夫婦神とのイメージが強いし、少なくとも神産巣日神は女神であるのは間違いなかろう。
道教の影響を見て取ることもできないではないが、神道は、根底から違う信仰と見なるのが自然であろう。

そして、その表現の仕方も全く異なる。道教は基本的にヒト型の偶像崇拝になる。【三清】だろうが【四御】だろうが、わかり易い姿をしている。
日本もその影響を受けたに違いないが、仏像が大挙して渡来し始め、国内でも作られるようになった時点では、神像も生まれたが、それ以前は全く無かったようである。
基本的に目には見えぬ、超人的な存在ということだろう。偶像は肌に合わなかったのは間違いない。

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