表紙 目次 | 2015.6.15 神道視点での道教考(星信仰)元日寅の刻に、黄櫨染御袍着用の今上天皇による四方諸神拝礼が行われる。宇多天皇の頃に定着したとされる。守護星・祖廟を拝礼する儀式であり、道教・陰陽道信仰そのものといえよう。と言っても、天部の妙見尊星王[北辰妙見菩薩]信仰として仏教に取り込まれており、それを規定する「七仏八菩薩諸説陀羅尼神呪経」は正倉院写経請本帳に記載があるというから、神仏習合時代でそのような宗派的分別感覚はなかったかも。 現代でも、秩父神社は北辰[天の中心:北極]信仰が中核なのだから。もっとも、神道の神と合祀しているから、神社と呼ばれてはいるだけで、本来は秩父大宮妙見宮。 それに、道教の北極星信仰にしてから、様々な思想の習合としか思えない。北極信仰はどう考えても、草原の道から伝わってきた遊牧民の思想が基底にあろう。 中華帝国体質からすれば、天文学に根差す星全体のヒエラルキーを、ヒト型神として示すことが第一義で、実利で意味が生まれる形に体系化される筈。そう考えると、北極星ではなく、北斗七星信仰(北斗真君)が基盤だった可能性が高かろう。 結局のところ、北極は天の中心であるから、天皇大帝の居所とされ、統治の仕組みを天体に当て嵌めることになったのだと思われる。 【天空の三垣(城壁)区分】 太微垣/上垣(南)・・・庭園 紫微垣/中垣(中)・・・宮殿 天市垣/下垣(北)・・・市場 理屈から言えば、紫微大帝とは、どう考えても、上記の中垣を象徴化した神であり、北極星ではなさそうだが、結局のところ習合してしまったということだろう。 天文学的には、と言うか、天のメッセージを読み取る学問として星々の役割とヒエラルキーを明確化した訳だが、この3垣をさらに細かく区分したのである。天にも、星々を統治する、官僚的仕組みが整っていると考えているのだ。 これこそ、中華思想の原点では。 【二十八宿】 ●東方青龍 角-蛟(仮想)[す星] 亢-龍(仮想)[網星] 氐-貉[とも星] 房-兔[添星] 心-狐[中子星] 尾-虎[足垂れ星] 箕-豹[箕星] ●北方玄武 斗-獬(仮想)[ひきつ星] 牛-牛[稲見星] 女-蝠[うるき星] 虚-鼠[とみて星] 危-燕[うみやめ星] 室-猪[はつい星] 壁-貐(仮想)[なまめ星] 〇西方白虎 奎-狼[斗掻き星] 婁-狗[たたら星] 胃-雉[えきえ星] 昴-鶏[すばる星] 畢-烏[あめふり星] 觜-猴[とろき星] 参-猿[唐鋤星] ●南方朱雀 井-犴(仮想)[ちちり星] 鬼-羊[たまをの星] 柳-獐(のろじか)[ぬりこ星] 星-馬[ほとおり星] 張-鹿[ちりこ星] 翼-蛇[襷星] 軫-蚓(みみず)[みつかけ星] 星信仰の中華帝国的高度化と言えなくもないが、類似概念の横滑りでもある。コピーや改竄はお手のもの文化。 それがわかるのが日本での扱い。発祥が異なるインドの月道型27宿[ナクシャトラ]を用いており、道教バージョンは使っていない。流石、仏教優位国らしき姿勢。もっとも、用語としては、28のうち「牛」を除いただけで済むから目立たないが。江戸幕府が1685年に赤道型28宿改良版に改暦するまで、ずっと、インドバージョンが続いたのである。 すでに記載したように、星々のヒエラルキー構築には、並々ならぬ精力が注がれている。全ての名前を覚えるだけでも大変な労力が必要と感じてしまうが、それは凡人のセンスであり、よく整理されているから、官僚層にとってはどうということもない暗記量と見て間違いない。 この辺りの姿勢ことが道教の特徴でもある。為政者層と民衆の間にはとてつもない乖離があり、一般大衆はヒエラルキーなどどうでもよく、ご利益があり邪気祓いになるということなら、なんでも跳びつくだけ。そんな流行を目ざとく見つけ、統治の仕組みに融合させるのが道教そのもの。官僚統治の仕組みが、神々の世界まで及ぶ訳である。官僚統治能力を欠くと、権力者は失脚の憂き目を見ることになること必定の世界。道教とは、官僚と一般民衆のバランス感覚の上に成り立っていることがよくわかる。 このシステムだと、おそらく、西洋的な聖職者は成り立たない。存在するのは、細かに規定された祭祀サービス専門家と、マニュアルや解説書作りのプロばかり。それから外れるとカルトと見なされる。 しかし、カルトが民衆に浸透すれば、為政者層はすかさずそれを取り込む算段を始める。文献的には宗派の教祖と呼ばれることにはなろうが、道教の一神仙扱いになるだけ。宗派はあってなきが如きものだと思われる。 ヒエラルキーの凄さを確認するために道教の星々の神々を再掲しておこう。・・・ 【四極大帝[北極紫微,南極長生,太極天皇,東極青華]】 【五斗星君】【南斗六星君】【北斗七星君】 【三台星君】【福禄寿三星】 【三十二天帝】【神霄九宸大帝】【四聖真君】 【四大天君】 【六丁(陰神玉女)】+【六甲(陰神玉男)】 【四聖功曹】【五方謁諦】【四靈】 【二十八星宿】【十二宮辰星君】 【三十六天罡】【七十二地煞星】 【六十甲子神(太歲星君)】 【九天生神上帝】【九天監生司諸神】 【九壘三十六土皇君】 【天医司諸靈10官】 素人的に考えると、大陸で一番重要なメッセージとしては、北斗七星の位置だと思われる。従って、最高位は北斗七星君であってもおかしくなかろう。島嶼国の古事記からはおよそ考えられぬ姿勢だが。 もともとは女神だった可能性もあろう。北斗众星の母親は「斗姆元君[先天斗姥紫光金尊摩利支天大聖圓明道姥天尊]」とされており、かなり重視されているのは明らかにもかかわらず、女神なのでヒエラルキーから除外されているからだ。 北極星信仰は渡来と見る。乾燥草原の道を通じて西から、朝鮮半島まで広がった信仰である。所謂騎馬民族の世界観で、農耕民には合わないが、武力統治システムを導入する必要があるなら、導入しない訳にはいくまい。その辺りで、上層の神々の再編が行われたに違いあるまい。つまり、北極星の上位の神が必要になる訳だ。それは、天の全体を意味する神ということになる。 最高神のグループは、どう見てもそれとは異なる。 創造主で、神格の最高位「元始天尊」。 万道の主で、陰陽哲学の体現神「靈宝天尊」こと「太上道君」。 経典の象徴で、帝王の氏族神も兼ねる「道コ天尊」こと「太上老君」。 これらは、後付の思惟で生まれた神々というか、宗教哲学上不可欠になったので加わったように思える。輪廻思想の仏教や氏族崇拝の儒教といった、哲学が異なるものを習合し統括する必要が生まれたからと見る。 しかしながら、あくまでも、中核は星々への信仰。天のメッセージを読むことが為政の根幹になるからだ。 最高位の思惟3神が存在し、それを補佐する、実質的な最高神グループが造られたということだろう。これらは全部ひっくくて、「天」感覚と見ることができよう。もともとはそれが天の「神」概念だったと考えるのが自然。帝国の官僚システム運営上、細かく定義されたので、分化したとも言える。その補佐役として、星々担当が設定されれば、それ以外の信仰対象を管理する 補佐役も必要となる訳だ。 編成に当たっては、流石に、2極では難しいので、4方位に成らざるを得まい。当然ながら5色分類が用いられる訳で、中心は黄色だから、帝の儀式はこの色となる。28宿とは、四方 x 七星となるように作られたのだと見てよかろう。 神道だと、八百萬の神の整数である8で適当な解釈ですますが、文書統治に合わせた宗教であるから、神々も官僚制組織図に当て嵌められてしまうのだ。 そして、これに地上の天の体現者とされる帝の守護星哲学を加えることで、星々信仰体系が完成。 帝国である限り、この思想から離れることはできない。 文化論の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |