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2015.6.22

印度教の見方

印度亜大陸の住民を中心にしているヒンドゥー教徒の人口は増加基調であり、8億を上回っている。もちろん、聖書の民に次ぐ人数であり、仏教徒より多い。
もともと、釈尊はヒンドゥー教前身のバラモン教の教えに従って、出家修行の道に入った訳であるから、ヒンドゥー教の神が仏教帰依したということで取り入れられるのは自然な流れ。ただ、それは経典のなかだけで終わり、印度教にはなれずにいる。身分制度護持の民にとっては、非ヒンドゥー教は居心地が悪すぎるということなのだと思われる。

そういう観点では、ヒンドゥー教は日本に親和性があってもおかしくないのかも。
カーストほどの厳格性や緻密性はないし、下剋上時代を体験していたとはいえ、身分職業制限制度が長く続いていた訳だから。

実際、日本仏教では、かなりの数のヒンドゥー教の神々が信仰対象になっている。それは「天部」として扱われており、良く知られた名前がずらりと並ぶのだが、素人には全体像はさっぱりわからないと言うか、四天王や十二神将とという護法神イメージにと特別な男神といったところ。さらに、珍しいのは女神が存在することか。

その程度の理解ですませておいてもよいのだが、護法神とは仏教側の位置付けである訳で、少しは自分なりに見ておいた方がよかろう。

道教を眺める場合でも、採用したが、先ず見るべきは最高神と神々の関係。そこに、どのようなヒエラルキーが生まれているかを知れば、全体観は自然に生まれてくるからだ。細かな点での間違いなどどうでもよい話。先ずは全体像の作り込み。

と言うことになると、ヒンドゥー教はゴタゴタに見えるが、実はわかり易いことに気付く。
道教には最高3神が設定され、その下に官僚制が敷かれていた訳だが、それとは全く異なる宗教であることが一目瞭然。

同じように、最高3神が設定されている。
 ・シヴァ
 ・ヴィシュヌ
 ・ブラフマー
解説は、順に、破壊神、維持神、創造神。つまり、「宇宙創造→維持安定→破壊と再生」を神格的表現にしたと、示唆している訳だ。
それはそうなのだろうが、どうせ後付で整理されたものであり、ここから出発すると全体像がわからなくなる。
それぞれの神が他の神々とどう係るのかを見ることが出発点。
さすれば氷解である。

と言うか、見方を変えた方がわかり易いということ。

シヴァ神には神道的に言えば荒魂と和魂があるというにすぎない。インド土着の最高神であり、その妃こそが印度の魂そのもの。
ヴィシュヌ神はその補佐であり、現実の生活に化身する身近な神でもある。
両者ともども、活動的であり、逸話にはことかかない。論理で生まれた神ではなく、民俗気分を昇華させた神格。

一方、ブラフマーとは教義の神格化で誕生したように見える。教祖臭もないから、まさに哲学というか形而上の神。と言っても、崇高な独神という訳ではなく、妃も存在するし、ヒト臭さが消されている訳ではない。しかし、それでも、民衆が拍手喝采するような神とは言い難い。

この3神を注視すれば特徴は一目瞭然。知らない名称のカタカナは読みにくいので密教の漢字名をつけておいた。

先ず、実質的最高人気神シヴァだが、様々な夫婦行動あり。「ハラ♂・ハリ♀」という呼び名がある位で、妃はつけたしではない。古事記のイザナギ命・イザナミ命を彷彿させる。

大自在天/シヴァ
 《信仰概念》
 偉大な神であり、「最高神
 ただ荒々しい。
 暴風雨神ルドラ発祥の「雷神
 さらに「男根的山岳神
 悪魔の都市を焼き尽くす「破壊神」かつ殺戮者
 炎の周りで戦闘的に踊るので「舞踏王
 但し、破壊の後は再生にも関与。
 従って、解釈の仕方では、「創造神
 それは恩恵を与えるから「吉祥神
 従って、治療疾病的「治癒神
 密教的には、違った命名がなされる。
 両眼を塞ぐと世界は暗黒化するので「大黒天
 結局のところ、「大自在天/摩醯首羅
 《宗派的思想》
 8化身(地 水 火 風 空 日 月 祭祀)
 なにでもなれる訳である。
 《礼拝室内の象徴神体》・・・シヴァリンガ
 男女性器交接の象徴形態の石刻(個人用は砂泥製)
 台上の流出口付き油受け皿+皿植えに先半球円柱
 (♀皿台は普通岩石 ♂柱は貴石か黒色系岩石)
 《礼拝像の姿》
 ヒマラヤ(カイラス山)での山岳苦行瞑想者像
 《全体の形象》
 5頭(4との記載が多い。)4腕3眼
 裸:腰巻(虎毛皮)のみ
 灰被りの青黒色の肌
 頭上に立つ神螺状頭髪(三日月の鬢飾り)
 頭頂に水罐噴水口
  (鰐[金比羅]に乗るとされる恒河女神/ガンガー)
 首に巻いた鎌首を持ち上げる大毒蛇(コブラ)
  (地下世界支配者の九頭龍大神/ヴァースキ)
 《顔》
 両眼の間に第三の眼(火焔放射器官)
 3本の白線額
 《持ち物》
 3股叉鉾/トリシューラ,斧 or 弓/ピナーカ
 手持ち両面太鼓/ダムルー
 紐(羂索)
 牡鹿
 《乗り物》
 大白牡瘤牛/ナンディン

 【妻:初】薩蒂/サティー
 悲嘆の夫が遺体を持って放浪し破壊行為
 遺骸の断片が各地(聖地)で蘇生し戦いの神妃化
 【化身】難近母/ドゥルガー
 《全体の形象》
 10あるいは18本腕の体躯。
 《持ち物》
 矛,槍,弓・矢筒,剣・盾
 法螺貝,羂索,鈴・雷
 光線,蛇首飾り
 猛獣[虎/獅子]・宝石
 蓮華花輪
 数珠
 水瓶
 衣・装飾品,酒杯
 死の杖(ヤマ)
 【化身】時母 or 迦梨/カーリー
 《全体の形象》
 4 or 10本腕の黒色肌痩身体躯。尖舌出の口。
 生首ネックレス(鮮血祭祀)
 《持ち物》
 剣
 【妻:主】雪山神女/パールヴァティー
 【子】歓喜天/ガネーシャ
 太鼓腹の人体に象の頭。商業者の信仰神。
 【次男】韋駄天/スカンダ
 媒介者は[火天/アグニ、恒河女神/ガンガー]
 軍神。[帝釈天/インドラの代替]

ガンジス河とヒマラヤ山脈を押さえ、圧倒的な軍事力を配下にしていることがわかる。

この最高神と絡むというか、協賛と言った方がよいのが、次席の神である。こちらは、現実の部族存続話の英雄でもあり、足が地についた神といえよう。

毘紐天/ヴィシュヌ
 《信仰概念》
 世界を安定化する役割の「維持神
 社会発展が図れる訳で「繁栄神
 温和でもあるから「慈悲神
 不正義と戦うので「正義神
 《宗派的思想》
 臍から蓮の花が伸びて創造神発生。
  さらにそこから破壊神誕生。
 10権現"アヴァターラ"
  魚,亀,猪,半人半獅子,巨人化する小人,
  斧を持つラーマ[クシャトリア族],英雄ラーマ王子,
  暗黒,釈尊[反ヴェーダ聖典説教者],救世主
 《持ち物》
 円盤状投擲武器/チャクラム
 棍棒
 法螺貝/パンチャジャナ
 蓮華
 《乗り物》
 鷲型鳥王[反蛇]/ガルーダ
 【妻】吉祥天女/ラクシュミー

言うまでもないが、吉祥天はその様々な逸話から人気を集めることになる。当然ながら、夫神だけでなく、シヴァ神やその妃神にも係るかたである。人々の、琴線に触れる話が多いということだろう。

こうして眺めればわかるが、上記の2神では世界を網羅的におさめている感不足。そういう点では、古くから存在していたに違いない、自然8神(水,北極星,月,大地,風,火,暁,光)も組み込む必要がある訳だ。と言うか、その世界は、すでに最高神としてブラフマーが存在しているのである。こちらは、思惟的神格化臭紛々である。様々な自然の神々を習合的に集約していた筈なのである。
そうなると、シヴァ神とヴィシュヌ神と協調的に存在するためには、天地月日と八方位の計12神の筆頭(天の位置)という形での最高神となるしかなかろう。

---天地月日---
梵天/ブラフマー
 《信仰概念》
 宇宙根本原理の思惟的人格神
 水を創り、卵を置く。それを割って、世界創造。
 と言うことで「創造神
 《全体の形象》
 赤肌老人
 4頭、4本腕
 《乗り物》
 水鳥/ハンサ
 《持ち物》
 数
 聖典「ヴェーダ
 小壷
 笏
 【妻】弁才天女/サラスヴァティー
 蓮華上に直立。4本腕。
 《持ち物》
 本(学問の象徴)
 数珠
 縄
 琵琶(技芸)
 《乗り物》
 白鳥
地天
日天/スーリヤ
月天/ソーマ
---八方---
帝釈天/インドラ
 《信仰概念》
 雷神的な武勇神。暴風神々が従属。
 《全体の形象》
 赤銅色肌。
 《乗り物》
 2頭立ての馬車
 【妻】舍脂/シャチー(阿修羅族王の娘)
火天/アグニ東南
 《信仰概念》
 拝火教と同根の信仰。
閻魔天
羅刹天西南
水天/ヴァルナ西
 《信仰概念》
 もともとは天空神だが、実態は天海神
  (始原神ではなく、雨水神的。)
 おそらく、阿修羅族神
 ペルシア古代信仰の宇宙秩序・人類倫理支配神
 秩序と正義のアフラ・マズダー系信仰と習合
  (世界を不安定化する雷神と火神と相克をなす。)
 国家間契約神 or 司法神
  (死者裁判ではない。)
 結局のところ、水利安寧・海域平安の水神
 【妻】伐楼尼
風天/ヴァーユ西北
毘沙門天 or 多聞天/クベーラ
 《持ち物》
 檸檬 & マングース[アンチ蛇]
 《財宝》
 亀,巻貝,摩竭魚
 睡蓮,双瓣茉莉,麝香薔薇,藍,蓮華,大蓮華
伊舎那天東北

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