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■■■"思いつき的"十二支論攷 2015.9.21■■■

十二支の「虎」トーテム発祥元を探る

🐅動物園で大事にされている虎君は見飽きない。

ヒトを凝視したり、子供をビックリさせてみたり、はたまたお遊びに夢中だったりと個性豊かな姿を見せてくれるからだ。思うに、人好きな動物なのでは。

現況の分布はこんなところらしい。
 <東北アジア>
  阿穆爾/アムール or 西伯利亜/シベリア,[絶滅]朝鮮/チョウセン
  (但し、日本列島にはいない。)
 <華南〜インドシナ半島〜島嶼>
  [ほぼ絶滅]厦門/アモイ
  印度支那/インドシナ、馬来/マレー
  蘇門答臘/スマトラ、[絶滅]爪哇/ジャワ、[絶滅]巴厘/バリ
  (但し、ボルネオ島にはいない。)
 <インド亜大陸>
  孟加拉/ベンガル
  (但し、セイロン島にはいない。)
 <空白地帯>
 <中央アジア〜アナトリア高原東部/グルジア>
  [絶滅]里海/カスピ

かなりの広域分布だが、どの種も比較的新しい派生種とされているようだ。そうなると、ヒトの動きにつられて移住した結果と見ることもできるかも。
東南アジア島嶼部には豹がいないところを見ると、インドシナ虎が一番の古手で、ヒトと一緒に、豹がいない島嶼部に進出したと見ることもできよう。孤立しているから、そこでの変種化は著しい筈。
そして、シルクロードの南側の木木が残る回廊を経て中央アジアにも進出。もちろん、その後、草原の道の森際を通ってシベリアにも到達した訳だ。
ベンガルへは茶の道である。
まあ、そう考えるのは、インドシナ虎とマレー虎を分離しているから。片や、ヒト好きで移動OKだが、もう一方は土着で隠れるように棲んでいる種とはいえまいか。

こんな話をするのは、虎をトーテムとしているのは、東南アジアの"虎狩り命"部族と見るからである。
「虎」文字はもちろん象形だが、頭が上であるということは、生物像ではなく、生贄の姿を現していることになるから、そのような部族が存在していたのは間違いない。中華帝国天子の視点で見れば、ユーラシア大陸の至るところの森に虎が出没していると映る訳だが、その本家本元たる地域で虎と対抗して生き抜いている部族が存在するとなれば、それなりの尊崇対象にしてもおかしくないからだ。
それこそ、虎の金印に紫の紐をつけてご下賜したくなるのでは。
心情的には、菩薩投身餓虎起塔因縁経の話を知っているから、十二支の虎とは、ベンガル虎が出没する地域の部族トーテムとしたくなるが、上述した分布から考えると、東南アジアの高地部族と考えるべきだろう。白虎=新疆虎(カスピ系)のアルビノでもないのである。(西夏ではそれが崇拝対象だったかも知れないが。)

尚、同じ猫族であっても、獅子や豹でなく、虎を選ぶのは当たり前。ペルシア以西の感覚は、虎とは、大山猫や獅子とは全く異なる、疾走する大型猛獣という見方。いかにそのインパクトが大きかったかは、今でも「Tiger」類似語(古ペルシア語"箭[弓矢の矢]"→ギリシア/ラテン語等)が多いことが示していると言えよう。豹との混同もありそうだが、それは致し方あるまい。

さて、何を手掛かりに、部族を探すかだが、「山海経 海外東経」は参考になる。ここでは、衣冠着用・剣携帯の君子国の人々の解説が登場。・・・獣を食う人々で、二匹の文ある虎を馴らし使役し、傍にはべらす。謙虚で人と争わぬ体質。
なかなか含蓄ある話。と言うのは、虎は人里身近に棲む体質濃厚だからだ。そこにはまず間違いなく水場があるし、ヒトの栽培植物を狙って猪、鹿、小動物が確実に現れる場所だから、狩猟適地なのは間違いない。無闇に虎の森に立ち入らない限り、虎と人の友としての関係は崩れることは無いのである。
実際、狩猟能力が落ちた老虎以外は、ヒトを襲うことは稀と言われている。その理由は、肉が不味いからなのか、餌を集めてくれる恩義からか、定かではないが。

それに該当する部族といえば、まず間違いなく、中国雲南省南西の高地国境一帯に住むラフ/LAHU/拉族。瓢箪から作った楽器「芦笙(ノム)」を愛し、樹木帯の一角に竹を編んだ高床式の家を建てて住むとされる。いかにも虎が出没しそうな雰囲気。出自は羌族で、言語は[イ]語系である。拉は、漢語感覚では「虎狩民族」ということのようだ。
もっとも、文字で見ると、「拉=コネをつける」ということ。しかし、ラフ語では虎を意味するとか。どこまで本当かは知るよしもない。肉を香ばしく炙ぶる食を好む部族ということで、甘粛辺り出自の民族らしさがでていることから来る名称ということかも。
そう推定するのは、タイ語では、"mussur/ムソー"と呼ばれており、その意味は「狩人」だと言う。・・・The tiger also features in a somewhat bizarre part of Lahu mythology, which recounts the first solar eclipse when a tiger ate the sun!

おそらく、この虎信仰は周囲にかなり広まっていよう。少なくとも、[イ]族系には、虎トーテム(虎祖神話)の家が残存していてもおかしくないと思う。
虎の道を考えると、ビルマからネパールにかけても、同様な信仰の残渣があってもおかしくない。・・・観光情報を見ると、虎装して踊る祭り(バグ・ジャトラ)が見つかるが、その由来はわからないので、なんとも。ただ、シバ神と習合しているようなので、ヒンドゥー教渡来以前からの儀式である可能性が高い。

・・・と言うことで、虎はラフ族トーテムでどうだろう。

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