表紙
目次

■■■"思いつき的"十二支論攷 2015.9.23■■■

十二支の「猪」トーテム発祥元を探る

結論から。
・・・ブタトーテム部族はツングースである。

草原の民は西からチュルク、モンゴル、ツングースの3系統の民族からなる。ツングースはもともとはヤクート人がエヴェンキ人につけた呼称なのだそうで、それはチュルク新語「豚/Toŋus」に当たるそうだ。
ツングース系国家の系譜としては、こんな感じか。
粛慎→婁→勿吉→靺鞨→女真/満洲族→[元]→清/満洲族
満州系+貊→夫余→渤海→遼→金↑
[漢-楽浪郡等]→高句麗↑

ちなみに、モンゴル系の名称は以下の通り。
+葷粥+山戎→戎狄→東胡→匈奴→鮮卑+烏丸/烏桓

モンゴル諸族とツングース諸族の境界辺りを中核的支配地としていたのはキタイ。
契丹→遼→西遼→(併合され女真化)
こちらは、語族的にはモンゴル系に該当するらしい。しかし、長白山出自神話もあるそうだから、文化的にはツングース色が濃そう。肉御馳走の民だから、地域的に考えると豚への想いも強いものがありそうだし。

簡単に書いてしまうが、地域的には一様とは言い難い。ツングースの本貫地たるウスリー川辺りと、華北にほど近い渤海湾近隣の満州南部地帯ではかなり環境が異なるからだ。全体で見ても、草原と呼べる地域は存在するものの、森林際ステップでそう広くはなく、もっぱら樹林帯だったと思われる。しかも、下記のように河川が多く湿地も少なくない。といっても、湿潤気候とは言い難く、全般的には乾燥傾向の土地柄。
 <主要河川>
 "完水"黒竜江/Амур→オホーツク海
   [支流]烏蘇里江/Уссури
   [長白山天池→支流]"難水"松花江/Songhua
 [長白山→]豆満江/Tumen→日本海
 [長白山→]鴨緑江/Yalu→黄海
 遼河/Liyoha→渤海

従って、半耕作半狩猟/半漁撈の生活が多いといえよう。もちろん、草原地帯では遊牧が行われていたのは間違いないが、いかんんせん放牧適地は限られている。下記でわかるように、主流は養豚。考古学的には牛羊がいなかった訳ではなさそうだが。飼料はあるので、飼育技術は優れていた可能性が高い。
肅慎・・・居深山窮谷、其路險阻、車馬不通、夏則巣居、冬則穴處、・・・有馬不乘、但以為財産而已、無牛羊、多畜豬、食其肉、衣其皮、績毛以為布。  [「晋書」四夷伝]

実際、牡丹江流域鏡泊湖南東岸@寧安の鶯歌嶺遺跡から陶器の豚(出土骨からみてイノシシではない。)が出土しており、古代から養豚が生活の糧だったことがわかる。

🐖ついでに、生物学的ブタ分類での棲息地分布がどうなっているか俯瞰的に眺めておこう。ユーラシア文化圏が見えてくるような気になるから面白い。いかにもヒトがひろげたご様子。
<白豚系>3派
 欧州主流派,東欧派,地中海島嶼派
 北西アフリカ派
 東南バルカン・小アジア・中東派
<黒豚系>4派
 「草原の道」派 3類
   南シベリア〜中央アジア
   東シベリア〜モンゴル
   露極東〜朝鮮半島
 
中国圏〜南西アジア派
 太平洋
島嶼派(日本、琉球、台湾)
 インド〜
東南アジア派 2類
  インド類 3種
   南インド+スリランカ
   西インド
   東インド-インドネシア西部
  マレーシア+インドシナ南部 類

それにしても、十二支では猪の地位はビリとは。
もともと、「亥」とは食した残骸の豚骨らしいから、文字に合わせただけかも知れぬが。
部外者からすれば、もっと重視されてもよさそうなものと思ってしまう。なにせ、中華帝国人民の食欲は凄まじいものがあり、ブタ脂の美味しさを追求した、育種の熱心さには格別なものがあるからだ。どうも、品種の数が半端ではないようだ。調べていないからわからぬが、100種類に達しかねないのでは。良く知られるものだけでも、これだけあるのだから。
【東北北】黄准海黒豚、東北民猪、吉林黒豚
【中原・河北】淮猪、八眉猪、沂蒙黒猪、漢江黒豚
   山猪、淮猪
【浙江】金華豚
【四川】栄昌豚、内江猪
【揚子江辺】太湖豚系:二花瞼猪・梅山猪・
   楓猪・嘉興黒猪・黄猪・米猪・沙烏猪
【江以南】大花白豚、香猪 両广小花猪
【南部高地】藏猪、南小耳猪
【外地---島嶼】海南猪・五指山猪、蘭嶼豚、
   アグー[琉球島豚]黒
  
  参考:ぶたの品種 by (株)埼玉種畜牧場

豚は、食性的にも、泥浴び好きな体質から見ても、乾燥地域での飼育は不向き。当然ながら、そこでは好かれない動物である。乾燥地帯で生まれた聖書で、豚は"穢れた"動物扱いになるのは止むを得まい。なにせ、聖書信仰の民にとっては、蛇同様というか、それ以上の嫌悪感を覚えるらしいのだ。このことは、豚は、蛇同様に、かつては土着民の神だった可能性が高いことを意味しているかも。漢族と係り合いたくない土着ツングース族は、経典宗教たる仏教を嫌い、あくまでも巫術に拘ったようだし。
ただ、不思議なことに、蛇信仰とは違って、豚信仰の話はほとんど聞いたことがない。チャームだったり、豚頭祭(豚竜信仰らしい)どまり。よく知られるお話と言えば、西遊記に登場する猪八戒位しか思い浮かばない。
/商の時代に豕韋氏が登場するから、ブタトーテム部族の存在は知られていた筈なのだが。

そういう点で、豚が嫌がられる理由は、蛇とは違うと見るべきかも知れぬ。さすれば、なんらかのタブー感が根底にあるということかも。
何でも食べるとされる中華帝国でも、流石にと言うべきか、絶対的な食のタブーがある。そう、人肉である。
豚肉は人肉食的との風評があるから、その辺りが嫌がられる元の可能性があろう。人の殺戮はかまわないが、ヒト肉食を組み込んだ信仰は許せぬ感が生まれていた可能性がある訳で。もっとも、信長が歯向かった一族の首領のシャレコウベを盃にしたりする位だから、大陸にはヒト肉食の習慣があってもおかしくないかも。本当のところはよくわからぬ。

食べたこともないのに、豚肉はヒト肉と味が似ていると喧伝するのは、いかにも言いがかり臭い。ただ、そのように言われる由縁はわからないでもない。豚は、ヒト肉も含めて死肉をも平然と喰らうから。しかも、何時も、人の周囲をウロウロし、あたかもヒトの仲間のように振舞っているし。

それはともかく、ブタトーテム部族はツングースということでどうかナ。

 文化論の目次へ>>>    表紙へ>>>
(C) 2015 RandDManagement.com