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■■■ 健康の考え方 2016.1.24 ■■■


知力老化の見方

生化学者の方のブログに、年頭にあたり、書き忘れたくないこととして「わたくし自身の知力の老化」があげられていた。
1941年生まれの現役。夕食前、持ち時間10分で仕上げた文章。

面白いと思ったのは、"人の名前が何故か 金輪際 出て来ない"ことがあるとの話。当該人物の姿にその人となりが重なった「概念」はわかっているにも拘わらず、その名称がどうしても思いだせないというのだ。僅か、5分前に楽々出ていたにもかかわらず。
これは、記憶が突然どこかへ飛んでいって消えてしまった訳ではない。"経験的にはあと30分後か 明日くらいにはまたでる"というのだから。

ふと、これは頭脳が勝手に、創造力を発揮しようと活動しているからではないかと思った。

概念が頭のなかで出来上がっているなら、それを文字化するのは、おそらく、簡単である。単なる丸暗記。その引き出しが多く、迅速に見つけ出す能力が高いと優秀に見える。そのやり方が合理的なら分析能力高しということになる。
しかし、これは創造力とは無縁の世界。
世の中、レインマンのように、情報の保管蓄積量が超膨大で、そこから引っ張り出す速度が滅茶苦茶速い人がいるが、それは偏った領域に全力投球しているから。特定領域で独自の細かな概念形成が可能だと、そんなこともできる訳だ。
創造力のレベルが高すぎるのである。従って、社会と上手くやっていけないことも色々とでてくる。

言わんとすることがおわかりだろうか?

人名話に戻ろう。
頭に思い浮かんだ「人」とは、イメージの世界のもの。それは概念である。
こうした概念の丸暗記は極めて難しいものがある。ある一瞬の閃きで、作られるものだからだ。簡単に他人から教えてもらえるようなものではないということ。・・・
"WATER"が「水」という概念を指す名称であることを、初めて知った喜びを考えてみれば、その難しさが理解できよう。・・・概念とその名称が一対一対応していること、ついにを教えることができたサリバン先生の歓びはいかほどのものであったか。その感動がヘレンケラーに伝わり、知識欲が爆発的に膨れ上がった訳だ。

簡単に言えば、概念形成こそが「創造力」であり、それは暗記で強化できるものではない。しかし、出来上がった概念の名称は丸暗記する以外に手は無い。暗記が面白くなくても、なんとしても頭に叩き込み、それをある程度自由に使いこなせないと知恵も湧いてこないのが普通だからだ。

マ、そんな知恵の生み出し方に次第に慣れていき、創造性豊かであると、成果が次々と生まれていくことになる。

ところが、50代60代と違って、70代中盤になると新しい知識に関係する領域だと、知恵の煮詰まり具合が変わってくるというのだ。
実際、一晩寝て、朝起きると、俄然冴えてくるそうだ。"寝てる間にもつれたニューロン回路がすこし解きほぐされた"と感じるほどなのである。

成程。
これは、どうみても、人名が思いだせないのと同じ現象だ。

頭のなかで、無意識下に、概念が再形成されていることを示唆していることになる。
その形成過程で名称を付ける訳にはいかないから、完成まで待たねばならぬことになる。その間、名称が頭の中からでてこなくて当然。

老齢化で"知力が衰えた”と感じるのは、引き出しにすぐに入らないし、迅速にそこから出ないというこを指すことが多い。繰り返すが、それは創造性とは直接関係ない。定式化した方法論に則って効率的に執り行う分析仕事とは訳が違うのだ。
もちろん、運動能力と同じように、分析能力は格段に落ちること間違い無しだが、こと、創造力というなら逆であってもなんらおかしくない。
今迄は無意識下だったのが、意識的に概念の再構成を始めることができるようになるからだ。しかも、創造性発揮は、迅速性とは無縁な世界であることがわかっており、無駄な時間も重要というのが経験則として知られているのだから。

従って、創造性で勝負の人生を送っている方なら、"衰え悪くないじゃないか。結構これからも楽しめそうじゃないか。"と言うのは100%当たっていると思う。
もっとも、丸暗記好きの人だらけの社会に住んでいる以上、周囲を無視してそんな道を突っ走るのはそう簡単ではないが。

(出典) 「知力の衰えの効用」2015年12月31日 生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ

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