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「我的漢語」
2014年4月9日

米と粟と稲

米偏の漢字は沢山あるが、なんといっても、「米」に対する感覚を示しているのが、【】。
語源は米を選り分けきれいにすることだが、それが「スピリット(霊魂)」という意味に変わった訳である。恐らく、この感覚を共有できる民族と日本人は共通の祖先を持つということだろう。

この話と直接繋がらないにもかかわらず、小生は、どうしても大野晋のクレオール・タミル語源流説の鋭い指摘を思い出さずにいられない。・・・植物のイネとタミル語での植物のアワの発音がよく似ているというのだ。あそこには、イネ科植物を栽培する民族の共通概念が示されている気がするのは自然な感情。

ただ、インド南端から日本列島へと、その間になんの残り香も無しに、ヒトや言語が渡来した可能性を云々するのは余りに無理があるというもの。
しかし、倭は「越」と見なされたように、タミル語を話す人々も「越」と見なせば、この話は辻褄が合う訳である。両者は「越」の最古層を保っていることになる。

史書での「東夷」はデルタ地帯の農耕漁労民を指す。それこそが「夏」人か。その勢力圏は長江から淮河だと思われるが、五穀は粟、米、麦、大豆に、冷涼系の作物の黍だったらしい。それなら、黄河下流域も影響圏として入っているかも。
「夏」の末裔は不明だが、福建〜広東辺りが基盤の「越」と考えるのが自然。この勢力はモンスーン地域の雄だし、どう見ても海人勢力的な文化だからだ。この地域だとすれば、五穀の黍が小豆に変わっていそう。これは、古事記の記載と同一である。
「越」の滅亡はB.C.333年。ベトナムへ押し出されたと見られる。しかし、それは一部であって、大半は四散したと見るべきでは。しかして、北九州沿岸に到達したのが「安曇」族か。もちろん、逆に向かった人々も存在。さすれば、最終的にはガンジス下流域に落ち着いたろう。しかし、その後、僅かな人々を除いて、インド南端に押し出され、タミル人となる。・・・結構わかり易いシナリオだと思うが。
もし、そうだとすると、「越」中心から一番遠く離れた両地域に、「越」の古代言語が残っていておかしくなかろう。
但し、日本語は雑種だから、単系統の印欧語で用いる分析手法では、「孤立言語」と見なすしかなく、これを証明するのは難しそう。


そんなことを想いながら、「米」の漢字を眺めて見るのも一興かと。
[以下に記載した発音は、多少似ていることを示すためのもので、間違いだらけなので、ご注意のほど。]

先ずは、日本語の「米」が中華帝国の言葉とは全く縁遠いことの確認。
】 栽培稲の実
 呉音: マイ 漢音: ベイ 北京: mî 広東: mai
 訓読: こめ köm-ë、よね
 古語: "久万" kum-a (神に捧げる場合)
「稲」という植物種と、その「実」は別の言葉を使う訳だが、日本語では使わぬ漢字がある。
】・・・稲実
 日本語: −
ここで、注目すべき点は、稗や黍とは違い、アワは「米」部首という点。
しかも、アワという日本語はタミル語とよく似ている。この辺りが大野晋論の根幹だと思う。
】 栽培粟の実
 呉音: ソク 漢音: ショウ 北京: ci 広東: suk
 訓読: あわ af-a
 タミル語: av-ai

「米」関連の文字もあげておこう。
】 籾殻ばかりで中身がない稲の実
 呉/漢音: ヒ
 訓読: しいな
】 刃物を使ってばらばらに分けた稲の実
 呉/漢音: ヒ
 訓読: こな

 呉/漢音: リュウ
 訓読: つぶ

 呉/漢音: ハク
 訓読: かす

 呉/漢音: コウ 北京: kàng 広東: hong
 訓読: ぬか

 呉/漢音: ソウ 北京: zào 広東: jou
 訓読: ぬか、かす
以下はどうなのだろうか。国字ではなさそうだが。

 訓読: もみ
粭 糘
 訓読: もみがら

 訓読: よねど

小生は、「越」の穀物食文化の特徴は、粟も米も持っているモチ性にあると見る。生産性は落ちるものの、モチはウルチより圧倒的に美味しいと感じる人達ということ。

 音: ジ、メン
 訓読: うるち

 呉音: キョウ 漢音: コウ 北京: gêng 広東: gangchou
 訓読: うるち

 呉音: ナ 漢音: ダ 北京: nuô 広東: no
 訓読: もちごめ
米の場合、赤(紫)米や黒米があった訳だ。赤米に当たる文字もありそう。ただ、日本では赤米が、小豆による赤飯で代替されてしまったから使う必要はなかったかも知れぬが。

 呉音: ラチ、レ 漢音: ラツ、レイ 北京: li 広東: lai
 訓読: くろごめ

さて、ここからが大野晋論の鋭い指摘。
米と稲の関係に粟が入ってくるという、アッと驚くような説。これらの単語の語源は、耕作の動詞に関係していると見ての話。
】 米が採れる植物
 呉/漢音: ドウ/ダウ 北京: dâo 広東: dou
 訓読: いね in-e、いな in-a
 古語: sin-àèi「志泥」
 タミル語: tin-ai
【○】 ○が採れる植物
 −
 [稲]訓読: いね in-e、いな in-a
 [粟]タミル語: èn-al
稲耕作文化は、それ以前の粟耕作文化の上にのっているという見方。確かに、有りえそうな感じもする。

その上で、米の食べ物を眺めると、日本語とタミル語に連関がありそうなのだから、一理ありそう。しかも、重要な食べ物はすべて「米」。


 呉/漢音: シ 北京: zi 広東: ji
 訓読: しとぎ xitogi
 タミル語: cìta-ai

 呉/漢音: イク、シュク 北京: zhôu 広東: chou
 訓読: かゆ kay-u 「加由」
 タミル語: kal-i

 呉音: ヒョウ 漢音: ヘイ
 訓読: もち
 古語: もちひ mot-ifi 「毛知比」
 タミル語: mòt-akam

 呉/漢音: コウ
 訓読: こなもち

 呉/漢音: ビ 北京: bài 広東: beileung
 訓読: ほしい-い

 呉/漢音: コ 北京: hù 広東: wu
 訓読: のり
】 雑穀混飯
 漢音: ジュウ
 訓読: かて

 呉音: ス、スウ 漢音: ソウ 北京: zòng 広東: tsung
 訓読: ちまき

 呉音: ロウ 漢音: リョウ 北京: jiàng 広東: leung
 訓読: かて
ただ、「ごはん」だけは米の部首ではない。
】 炊いた米、食事
 呉音: ボン 漢音: ハン
 北京: fàn 広東: faan
 訓読: めし、いり、え

尚モノが無かったものはそのまま使うしかない。

 呉/漢音: −
 訓読: こうじ

 呉/漢音: トウ
 訓読: −

ついでに、国字用法を記載しておこう。
】 m
】 dm
】 cm
】 mm
】 hm
】 Km
そして、よく使う文字だが、上記とは流れが違いそうな文字を最後に並べて〆。・・・粋、糞、糜


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