表紙 目次 | 「我的漢語」 2014年7月8日 酉文字考「酉」とは、であり、酒壺の象形文字。容器と中味を別に考えがちだが、壺は単なるパッケージではないから両者は不可分。しかし、酒が出来上がれば別扱いすることになる。 <酒> 「酉+彡」で、壺から液体が滴る意味となり、酒を表わしたとか。そして、旁の「彡」が、「氵(水)」偏に置き変わって現在の文字になったという説があるらしい。素人には眉唾モノに映るが、まあよしとしよう。 [酉+彡] → [氵+酉] = 酒 稲作が普及すると、東アジアにおける酒のベースは糯米一色化したと思うが、漢字を定着化させた殷の時代に繁栄したのは中原文化圏である。そうなるとベースは黍酒ということになろうか。その辺りはどうなっているのかよくわからないが。 [酉+也] = 酏・・・黍酒 [酉+林] = 醂・・・味醂(糯米の酒) 酒の種類は多かったようである。 現代の感覚なら、蒸留酒の焼酎と醸造酒の清酒で分類することになるが、そういうことではなかったようである。調べたところで、頭が混乱するだけだろうから、適当に判断して書いて見ることにした。 [酉+寸] = 酎・・・かほりかにおいかわからぬが、嗅覚を刺激する強い酒 [酉+告] = 酷・・・アルコール度が高い酒 甘酒の類は、一夜酒として多量に消費されていたのではないか。米の量が多いドロドロの濁り酒である。古酒とか、昔酒と呼べば、長年寝かしたものと思いがちだが、この手の酒を指していたようだ。 [酉+古] = 酤・・・多分、甘酒 [酉+豊] = 醴・・・薄いが、豊かな味の甘酒 [酉+翏] = 醪・・・濃くて、ベトベトの甘酒 これと正反対なのが澄み酒で、場合によっては濾して水を加えたりしたかも知れぬ。加水無しなら、香りがよければ高評価だったろう。 [酉+亨] = 醇・・・芳醇な清酒(未加水) ただ、酢になりかけなのか、酸っぱい酒なるものが通用していたようだ。現代の常識では、大いなる疑問だが。もっとも、失敗作の名称かも。 [酉+㐬+皿] = 醯・・・粥に酒を混ぜたものだが酸っぱい <酒壺> さて、「酉」とは酒壺という話に戻ろう。 壺からは酒気が発せられる訳で、その風情を醸し出す象徴文字もある。蓋を両手で外した状態か。 [八+酉] = 酋 これを、神前に捧げ持つ訳だが、その行為こそが祭祀の根幹だろう。それを受け持つのは貴人。 [酋+寸] = 尊 酋は次第に木製の酒樽に変わる。 [木+尊] = 樽 <宗教行事> 酒無し宗教行事は考えにくいが、それでは酒はどのような役割なのかと言われると結構答えにくいものである。 ただ、祟りを祓うための霊的なものだったのは間違いなかろう。 一種の当て字表現も目につくし。 [酉+鬼] = 醜 そのお祓い行為を表現する場合は象形文字になる。 ["両手"+酉+分] = 釁・・・酒をかけてお祓い 但し、和式のように簡素な儀式にはなるまい。中華式は北方遊牧民文化が色濃いから、神祀りには犠牲は不可欠だと思われる。肉なき文字は失せるしかなかろう。 [犭+酋] = 猶・・・犠牲は仔犬が正統という話も [酋+犬] = 猷・・・神にはかること 祭祀には宴会もつきもの。和式のような、神との共食感覚があるのかは定かでないが、帝の宴席は国家の最重要行事だった。 <呑み方> [酉+己] = 配・・・酒器の割り当て [酉+勺] = 酌・・・柄杓 そうそう、酒池肉林ほどでないにしろ宴会には肉はつきもの。 [酉+豦] = 醵・・・酒盛り 当然ながら、そこにはマナーがあった。 先ずは献杯(1)があって、ご返杯(2)。そして再度戻って、両者乾杯(3)。これぞ、北方民族文化の粋であり、中華帝国の基層文化だと思う。 この流れの(3)が、「応酬」の考え方の元だという。 [酉+州] = 酬・・・州とは3回か そんなことができれば、素晴らしいことと見なされたようだ。勿論、下心ある場合は別だが。 [酉+壽] = 醻・・・こうあるベシ論 (2)には「過ぎる」という感覚があるのかも知れない。時間をかけ過ぎて醗酵が進んでしまうと酒は酢に変わり酸っぱくなるが、それらの文字は「ご返杯」から来ているとのこと。 [酉+昔] = 醋, [酉+乍] = 酢, [酉+] = 酸 (1)の献杯だが、それにあたる字もあるようだ。 [酉+幺+月] = 酳・・・酳酬 「呑む」と「飲む」の違いはよくわからないが、飲む対象は「酒漿」である。従って、酒を「飲」む場合の文字は、「食」偏ではないのかも。酉の上に今を載せた偏だというのだが。強引な感じはするが、そのような漢字は存在する。 [今+酉+欠] → ・・・ → 飲 アルコール量が多ければ、心神喪失もありうるが、古代はそれを避けるために薄い甘酒を最初に何杯も飲んだと思われる。それでどうにかなるとは思えないが。 <酩酊> そもそも、酒を飲んでも、まったく変化無しではなんのためか、わからなくなる。どの辺りが妥当かは難しい。酒で帝国を潰した御仁もいたろうし。 [酉+卒/卆] = 醉/酔・・・酒で心が砕かれる [酉+名] [酉+丁] = 酩酊・・・酔ってマグロに [酉+星] = 醒・・・醒めることも でも愉しいことは間違いない訳で、 [酉+甘] = 酣・・・楽しみのタケナワ ただ、限界をわきまえなければ、 [酉+冘] = 酖・・・酒に耽溺すれば沈没 翌朝に影響もでてくる。 [酉+呈] = 酲・・・残った酔い(宿酔) 最良は"薫か"な酔いか。 [酉+薫] = 醺・・・微酔 最後に、製造の視点での漢語を見ておこう。 <酒造り> [酉+発] = 醗/醱・・・プツプツとガスが発生 [酉+孝] = 酵・・・酒母 [酉+殳] = 酘・・・酒母に添加する蒸米や麹等。 [酉+元] = 酛・・・日本の清酒製法の生酛 [酉+襄] = 醸/釀・・・脹らむ [酉+甚] = 䤁・・・麹を寝かして熟成 <醗酵食品> 蛋白質を高濃度の塩で漬け、乳酸菌あるいは麹菌で発酵させれば、旨みが生まれるのは良く知られていたようだが、発祥地の説は色々。ただ、塩辛は東アジアの可能性が高そう。 [酉+右+皿] = 醢・・・塩辛 麹も加えると、調味料の定番となる。 [将+酉] = 醤/醬 食品としてではなく薬的に使われたと思われるが、医療現場では、酒も極めて重要な役割を果たしていた模様。薬酒は一番の薬だったのかも。 [医+殳+酉] = 醫 特別扱いの仏教用語もあげておこう。 皆さんご存知の「醍醐」のことだが、最高の酪の意味とされる。この文字は他に転用されることはないそうだ。チーズのことではないかと思うが、日本の醍醐は煮詰めたものであり、醗酵製品ではない。 [酉+是] [酉+胡] = 醍醐 [酉+各] = 酪・・・"洛川”の辺りで始まったミルク系の食ということか ミルクはすぐに腐るから、酉系とされているのだろうか。 中華菓子に油含有量がかなり多そうなクッキー(餅)があるが、渡来技術であり、それはバターを使用していたのではあるまいか。 [酉+禾] = 酥・・・麦より雑穀が好まれたのだろうか 酉偏の文字は尽きないが、この辺りで気力の方が尽きたので終了。 [酉+匕] = 䣥, [酉+力] = 䣦, [酉+弋] = 䣧, [酉+干] = 酐, [酉+于] = 酑, [酉+毛] = 酕, ・・・・・ (ご注意) 「字統」[語史字書]に目を通した上で、中国語も含めたインターネットリソーシスを参考にした。白川静解釈と変えたところもある。要するに、素人が適当に判断した遊び。こんなことができるのが、漢語(中国語ではない。)の良いところ。 (C) 2014 RandDManagement.com |