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「我的漢語」
2015年1月31日

「唐詩選」を反面教師に

唐朝[618-907]二百九十年間、是中國詩歌發展的黄金時代。名家輩出。數量多達五萬首。
と言うことで、唐詩を読もうかという気になった。(正確には素人の場合は文字を眺める訳だが)そうなると、どうしてもよく知られる「唐詩選」から始めることになりがち。

ところが、そのような本は現代中国では全く流布していない。なんと説明さえ、さっぱりみつからない。偽書とされ、人々の視野から失せてしまったようである。

一方、日本では、そのような本が未だに定番中の定番である。
李攀龍[1514-1570]編:「唐詩選」
この本の一大特徴は選定の特異性にある。・・・
白居易、韓愈、杜牧合わせてなんと1首であり、全体の2%にも満たぬ。浅学の身には、知っている名前がチラホラ状態というのに。
 465首詩
  白居易:
  韓愈:
1首
  杜牧:
  李商隠:3首

  杜甫:51首
  李白:33首
  王維:31首
  岑参:28首

韋応物,韋元旦,韋荘,于武陵,衛万,王翰,王建,王之渙,王周,王昌齢,王績,王表,王勃,王烈,王湾,欧陽・,温庭,賀知章,賈至,賈曾,賈島,郭震,韓,毋潜,魏徴,丘為,許渾,荊叔,元,玄宗皇帝,厳武,呉象之,顧況,皇甫冉,耿,高適,蔡希寂,崔恵童,崔,崔国輔,崔曙,崔敏童,崔魯,司空曙,司馬礼,釈皎然,釈霊一,朱放,常建,蕭穎士,沈期,薛瑩,薛業,銭起,祖詠,蘇,蘇味道,宋之問,孫逖,太上隠者,戴叔倫,段成式,儲光羲,張謂,張説,趙,張諤,張九齢,張喬,張均,張敬忠,張継,張,張子容,張若虚,張巡,張籍,張仲素,張潮,張南史,陳子昂,陳祐,丁仙芝,鄭審,杜審言,裴迪,万楚,武元衡,文宗皇帝,包何,孟郊,孟浩然,羊子諤,楊炯,駱賓王,李益,李華,李,李,李建勲, 李拯,李適之,李端,李,李,柳宗元,劉禹錫,劉長卿,劉庭g,劉廷芝,呂温,令狐楚,盧照鄰,盧,盧弼,盧綸,郎士元,楼穎

素人からすれば、実に非常識な選び方と断じざるを得まい。
白楽天の名前を知らない人はいないと思うが、掲載作品ゼロである。杜牧も収載されていないが、小生でさえ「江南春」は知っているし、"捲土重来"の元ネタでも知られているのに、除外するなど、極めて排他的である。
韓愈など、唐宋八大家とされているにもかかわらず1首のみ。(唐は韓愈と柳宗元。宋は欧陽脩、蘇洵、蘇軾、蘇轍、曾鞏、王安石。)思想的に合わないので外したのは明らか。掲載詩も「奉和庫部盧四兄曹長元日朝廻」というもの。
にもかかわらず「唐詩」集と平然と名付けるなど言語道断では。しかし、そんなことを言うと社会から抹殺されかねないのであろう。
日本の場合、お師匠様が、先ずは「唐詩選」を勉強せよとおっしゃれば疑問を発することなしに黙って従うのが礼儀とされているから、如何ともし難い。尤も、流石にそれは拙いと考える専門家もいらっしゃると見えて、一応、ご注意のお言葉はあるようだ。だが、師弟の絆命の世界に住む方々だから、言うだけにすぎない訳だが。

当然の話だが、「唐詩選」に代わるものとして、清朝期に編纂された選集がある。
[1711-1778]編:「唐三百首」
 311首詩
  白居易:6首
  韓愈:4首
  柳宗元:5首

  杜牧:10首
  李商隱:24首

  杜甫:39首
  李白:33首
  王維:29首
  孟浩然:14首

  陳子昂:1首
大分バランスが良くなっている。

中国共産党支配下の現代中国ではどうなっているか見ておこう。
中国社会科学院文学研究所:「唐1978
 630余首詩
  白居易:30首
  韓愈:13首
  柳宗元:21首
  (劉)禹:23首
  李賀:21首
  張籍:11首
  韋応物:10首

  杜牧:20首
  李商隱:30首

  杜甫:71首
  李白:64首
  王維:20首
  孟浩然:14首

  陳子昂:10首

上記の色分けは、実は、唐朝期の4区分に従っている。現代日本の漢文教育会の重鎮とされる学者による選定である。
石川忠久:「漢詩鑑賞事典」 講談社学術文庫 2009
 [石川忠久/前野直彬 編:「漢詩の解釈と観賞事典」旺文社 1979 の改訂増補版]
   【初唐 618-710】
  陳子昂:2首
  王績:1首

王勃,駱賓王,劉希夷,沈期,張敬忠,蘇,盧,張説,張九齢
   【盛唐 711-766】
  杜甫:29首
  李白:27首
  王維:14首
  孟浩然:3首
  岑参:3首

賀知章,崔,王翰,王之渙,王昌齢,高適,李華,裴迪,常建
   【中唐 767-826】
  白居易:17首
  劉禹錫:4首
  韓愈:2首
  柳宗元:2首
  韋応物:2首
  李賀:1首

張謂,戴叔倫,耿,司空曙,張継,李益,王建,張籍,孟郊,楊巨源,劉禹錫,元,薛濤,寒山,賈島,李紳
   【晩唐 827-907】
  杜牧:9首
  李商隠:4首

荊叔,許渾,于武陵,温庭,魚玄機,高,曹松,韋荘
小生には中味の評価ができる能力は無いから、なんとも言えないが、少なくとも「唐詩選」とは違い、この時代全体を俯瞰的にカバーしているのは間違いなかろう。

それにしても、何故に、中唐〜晩唐の作品を除外したくなるのだろうか。中国文化の大家の選定を見ても、白居易-韓愈-杜牧は無視すべき人々と決めつけているかのよう。もちろん、周到に、序に「紙幅の制約のため」と記載することで批判されぬよう用心している訳だが。
共同執筆者の仏文出身の詩人が、盛唐以外の詩人を取り上げているので、どうやら「唐詩選」になっている状況といえよう。
吉川幸次郎/三好達治:「新唐詩選」 岩波新書1952
 前篇(吉川幸次郎)
  白居易:
  韓愈:

  杜牧:
  杜甫:15首
  李白:29首
  王維:12首
  孟浩然:1首
  常建:2首
  王昌齢:1首

  崔国輔:2首
 後篇(三好達治)
  白居易:
  劉禹錫:3首
  韓退之(韓愈):1首
  戴叔倫:2首
  柳宗元:1首
  耿:1首
  司空曙:1首
  元:1首
  楊巨源:1首

  顧況,權コ輿,楊衡
  杜牧:1首
  劉廷芝
  杜甫:1首
  李白:1首
  孟浩然:1首
  岑參:4首
  賀知章:2首

  崔国輔
  陳子昂:2首
  高適:2首
  張九齢:1首

  張若虚,薛稷
流石に、白楽天を無視したままでは拙いということなのか、「續ぐもの」として、白居易と韓愈だけを別途追加した本も出版されている。共同執筆者はどういう理由か仏文学者だが、そちらの中心は明らかに白楽天である。
吉川幸次郎/桑原武夫:「新唐詩選続篇」 岩波新書 1954
 前篇(吉川幸次郎)
  白居易:16首
  韓愈:15首

  杜牧:
 後篇(桑原武夫)
  白居易
  杜甫

ご存知のように、「新唐詩選」は増刷に次ぐ増刷。類い稀なる100版モノと言われている。(2015年2月にさらに重版。)出版社のドル箱そのもの。・・・恣意的に白楽天を削った詩集のどこが嬉しいのか小生にはさっぱりわからぬ。
このような排他的な選集を最高峰と見なす自称重鎮のセンスが信じがたい。

そうそう、唐詩選(岩波クラシックス 1983)の注解者(前野直彬[1920-1998])の「解題」によれば、この本は「都市経済の発展につれて詩作を学ぼうとする人の数が増大しつつあった当時の風潮に適合する」ものだったとのこと。「むつかしい理屈を抜きにして、ただ盛唐の詩を真似しさえすれば、一人前の詩人になれると保証してくれるものだからである。」皆で揃って真似するのが、ことのほか嬉しい人達には、まさにドンピシャの選集という訳か。

成程。
受験用の音楽ペーパーテスト満点だった身にはよくわかる話である。「唐詩選」は、反面教師として読む必要ありとアドバイスしてくれた訳だ。
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