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「我的漢語」
2015年5月5日

端午節の漢詩

杜甫の五言絶句「端午日賜衣」は興醒なので、唐代の別な詩を選んでみた。なかなかのものではないか。

  「端午日」 殷堯藩[780-855]
 少年佳節倍多情、老去誰知感慨生。
 不效艾符趨習俗、但祈蒲酒話升平。
 鬢絲日日添頭白、榴錦年年照眼明。
 千載賢愚同瞬息、幾人湮沒幾垂名。

   艾符=艾製の駆邪符 蒲酒=菖蒲酒 榴=石榴花

すでに、端午は少年が将来を夢見て元気溌剌に過ごす佳き日だったようだが、高齢層にとっては、それがかえって心に沁みる訳である。
この詩で、当時の風習がよくわかる。古くから、気候の変わり目の「悪月悪日」とされていた節目だから、護符なくしては不安がよぎる世界だった訳。・・・夏季的一個送離五瘟神、驅除瘟疫的節日。
まあ、現代日本の若者もお守り好きだから、たいしてかわらない訳だが、その時期は端午の節句ではなくなった訳である。
この「五瘟神」だが、「五毒」に対応しているらしい。蛇、蠍、壁虎[家守]、蜈蚣[百足]、蟾蜍[蝦蟇]とされる。毒を持たないヤモリが入っていることに違和感を覚えるが、ヤモリの黒焼に絶大なる効能ありということなのだろう。小生の感覚だと、刺されるとショック死しかねない虎頭蜂が妥当ではないかと思うが。尚、Wikiでなく、Baiduでは、壁虎の代わりに蜘蛛が入っている。蜘蛛も益虫だが、毒あり、あるいは糸で虜にして喰いつくす凄さがるから家守よりは合っていそう。
ともあれ、辟邪除災の一大行事の日ということ。護符としては、普通は鍾馗符ではないかと思うが、五毒符もあったようだ。毒をもって、瘟を払うのであろう。
「避毒虫」の効能ありとされるものも決まっていたらしい。
 石脾、丹砂、雄黄[硫黄]、舊石、慈石
 菖蒲、艾草、石榴花、蒜、龍船花[Pagoda flower]

愛國詩人[屈原]節的な食粽子だけでなく、劃龍舟、挂艾草、懸蒲剣、菖蒲酒、雄黄酒(毒だと思うが。)、等が風習化していたという。
どこまで本気だったのかはわからぬが、「五毒餅」もあるそうだ。"刻有蝎子、蛤蟆、蜘蛛、蜈蚣、蛇"と恐ろし気。まあ、象徴的なものだと見るが、不老長寿薬に水銀服用をしていた人達だから、ありえそう。五食材は櫻桃、[白慈姑]、桑椹、桃、杏と至極まとも。全部一緒に混ぜるのは考えものだが。

そんな世界を踏まえて、まさしく端午の節句当日に、失意の若者が詠んだ七言絶句を味わうのも悪くなかろう。(清代の漢詩だが、日本語解説サイトが多いので有名なようだ。)

  「端陽相州道中題魏家營壁 其二」 張問陶[1764〜1814]
  杏子櫻桃次第圓、炎涼無定麥秋天。
  馬蹄歩歩來時路、照眼榴花又一年。


万緑叢中紅一点 動人春色不須多[伝 王安石 作]を感じながら、豊作の麦畠の脇を通り、杏子や櫻桃の丸々と膨らんできた実を目にしつつ、遠路を馬でトボトボと歩んで帰る姿が見えるよう。1年間も精進して勉学に励んだと言うのに、さっぱり成果が出ぬ自分と、春の景色をどうしても対比してしまう心情に、胸打たるる気持ちになる人は多かろう。

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