表紙 目次 | 「我的漢語」 2015年10月28日 朝酒は身上を潰すだろうか白楽天は朝酒@卯刻[=6:00 am]がことの他お好みだったようである。神仙の領域に近づく気分になりたいなら、大流行の危険なドラック服用よりずっとましということ。 "歌頌在清晨喝一盅酒、快活似神仙"だとか。朝のお寺の鐘の音を耳にしたらそろそろお休みとなる。 「卯飲」 白居易 短屏風掩臥床頭、烏帽青氈白氎裘。 卯飲一杯眠一覺、世間何事不悠悠。 仏教徒だが、醍醐味もなんのその。掌の杯をじっと見つけてから、三口傾ける気分はなにものにも代えがたしということのようだ。五臓六腑に沁みわたることで、生き返って来た感覚を味わえるということだろう。 朝は、一杯の冷水が最高だと思うが、爽やかを感じさせる水がなければ酒になるのは止むを得なかった気もする。それに、夜更かしの深酒より、精神的にも、肉体的にも、ずっとましだろうし。 「卯時酒」 白居易 佛法贊醍醐、仙方誇瀣。 未如卯時酒、神速功力倍。 一杯置掌上、三咽入腹内。 煦若春貫腸、暄如日炙背。 豈獨肢體暢、仍加志氣大。 似游華胥國、疑反混元代。 一性既完全、萬機皆破碎。 半醒思往來、往來籲可怪。 寵辱憂喜間、惶惶二十載。 前年辭紫闥、今歲拋p蓋。 是非莫分別、行止無疑礙。 浩氣貯胸中、青雲委身外。 捫心私自語、自語誰能會。 五十年來心、未如今日泰。 況茲杯中物、行坐長相對。 しかし、府長が朝酒で詩にうつつを抜かし、公務が滞っているとなれば、世間的にははた迷惑そのもの。この翌年退官を申し出る訳で。 「醉吟」 白居易 醉來忘渇復忘饑、冠帶形骸杳若遺。 耳底齋鐘初過後、心頭卯酒未消時。 臨風朗詠從人聽、看雪閑行任馬遲。 應被衆疑公事慢、承前府尹不吟詩。 白楽天にとっては、朝のこの習慣が生活のリズムを刻むものだったのであろう。これを欠くと一日が締まらないものと化すのかも知れぬ。 「橋亭卯飲」 白居易 卯時偶飲齋時臥、林下高橋橋上亭。 松影過窗眠始覺、竹風吹雨醉初醒。 就荷葉上包魚鮓、當石渠中浸酒瓶。 生計悠悠身兀兀、甘從妻喚作劉伶。 「薔薇正開春酒初熟 因招劉十九張大夫崔二十四同飲」 白居易 甕頭竹葉経春熟、階底薔薇入夏開。 竹葉=酒名 似火浅深紅圧架、如餳気味緑粘台。 試将詩句相招去、儻有風情或可来。 明日早花応更好、心期同酔卯時盃。 せっかく早起きしたなら、お散歩でもと思うが、それは又後ほどということか。 その辺りは、平均的な日本人な生活にどっぷり浸かっているとよくわからないのではなかろうか。二度寝はよくないという人が多いが、そういう人に限って夜更かし体質で、朝寝坊大好きだったり。二度寝後の起床どころではなく、朝はボッーとしてダラダラ。白楽天から見れば、そんな人達は、自由人として生きる権利を自ら放棄しているように映るに違いない。まあ、そう言われても当人はなんのコッチャだろうが。 言ってみれば、朝寝坊大好きで山行が趣味と語るような手合いというに過ぎない。自由人からすれば、起きたくないなら、勝手にいつまでも寝ていればというだけの話。いったい、この人はなにがしたいのかね〜、と感じる訳である。 社会的奴隷の境遇だから、ずっと寝ていたくなると見る訳だ。寝坊できるのは若者の特権と合理化しても、それが現実そのもの。 もっとも、その白楽天も朝寝坊の楽しさを詠んでいたりするが。 「晨起復睡」 陸游 衰翁卯飲易上面、澤國春寒偏著人。 下榻一杯還就枕、不嫌鼾睡聒比鄰。 下手をすれば、「朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、それで身上潰した」となる訳だが、朝酒を自己目的化すればそうなるかも知れぬ。白楽天の場合は、それなりの飲酒自己規制というか、戒律的なものがあったのではないかと思われる。 「對酒示行簡」 白居易 今旦一尊酒、歡暢何怡怡。 此樂從中來、他人安得知。 兄弟唯二人、遠別恒苦悲。 今春自巴峽、萬裏平安歸。 復有雙幼妹、笄年未結褵。 昨日嫁娶畢、良人皆可依。 憂念兩消釋、如刀斷羈縻。 身輕心無系、忽欲淩空飛。 人生苟有累、食肉常如饑。 我心既無苦、飲水亦可肥。 行簡勸爾酒、停杯聽我辭。 不嘆郷國遠、不嫌官祿微。 但願我與爾、終老不相離。 う〜む。 酒は良いが、肉は避けるのかな。 仏教徒としての姿勢だろうか。健康観として、一日一食でも十分との見方があったのかも知れない。そうなると、お昼を過ぎたら食事は出来る限り慎み、夜食で腹を満たすなどもっての他となる。それが病を遠ざけ、長寿実現の決め手と見ていてもおかしくない。お昼寝を決め込んでもよいのである。 「食後」 白居易 食罷一覺睡、起來兩甌茶。 甌=茶碗 舉頭看日影、已復西南斜。 樂人惜日促、憂人厭年賒。 無憂無樂者、長短任生涯。 ともあれ、自分の人生に目的があれば、暴飲暴食する気になる訳がないし、自然と、自分が思った時間に起床できるもの。形だけ真似ても意味はなかろう。 「龍華寺主家小尼」 白居易 頭青眉眼細,十四女沙彌。 夜靜雙林怕,春深一食饑。 歩慵行道困,起晩誦經遲。 應似仙人子,花宮未嫁時。 ちなみに、岩波文庫の「白楽天詩選」(川合康三訳・註 2011年)には、朝酒の愉悦をうたうとの解説つきで「卯時酒」が採択されている。"浩氣貯胸中、青雲委身外。"とは、気宇壮大さの表現ということのようだ。 (C) 2015 RandDManagement.com |