表紙 目次 | 「我的漢語」 2015年12月16日 楽府に見る龍頭と蓮葉下魚樂府とは漢の武帝が設けた、文人詩作、民謡、渡来音楽を収集し、編纂する部署のこと。どうも、そうして収載されたものでは、陰鬱な詩が有名なようだ。そんなトーンの詩が多作されていたのか、はたまた後世迄残ったものがその類ということなのかはよくわからぬが。 例えば、こんな具合。・・・(郭茂倩:「樂府詩集より抜粋」) 【薤露】(古辭) 薤上露,何易晞。 露晞明朝更複落,人死一去何 葬送歌曲以外のなにものでもなかろう。詩人や音曲師はこのために働いていた可能性もあろう。 薤:ニラ・・・儚い露 晞:乾く・・・容易に乾燥 【烏生】(古辭) 烏生八九子,端坐秦氏桂樹間。 唶!我秦氏家有遊遨蕩子,工用睢陽強, 蘇合彈,左手持強彈,兩丸出入烏東西。 唶!我一丸即發中烏身,烏死魂魄飛揚上天。 阿母生烏子時,乃在南山岩石間。 唶!我人民安知烏子處,蹊徑窈窕安從通? 白鹿乃在上林西苑中,射工尚複得白鹿脯。 唶!我黄鵠摩天極高飛,後宮尚複得烹煮之; 鯉魚乃在洛水深淵中,釣鉤尚得鯉魚口。 唶!我人民生各各有壽命,死生何須複道前後。 人民は烏のように次々と殺戮されていく。 詩人とは官僚であり、まともに批判などすれば文字通り首が飛ぶ訳で。この手の作品は多かろう。これが民衆歌謡とは思えないし。 【隴頭歌辭】 隴頭流水,流離山下。 念吾一身,飄然曠野。 朝發欣城,暮宿隴頭。 寒不能語,舌捲入喉。 隴頭流水,鳴聲嗚咽。 遙望秦川,心肝斷絶。 これは、戦場に赴く人々にとっての龍である。 隴頭:中華帝国の西頭の侵攻地域 鳴聲嗚咽:むせぶのは人の心 秦川:懐かしき中原 心肝斷絶:これ以上なき悲しみ 【上邪】 上邪,我欲與君相知,長命無絶衰。 山無陵,江水為竭,冬雷震震夏雨雪, 天地合,乃敢與君絶。 そこには、別離のシーンがある訳で。兵役拒否でもすれば一族郎党皆殺しの憂き目だろうから、出征は愛情発露でもある訳で。 ただ、この詩には土着多神教的な泥臭さが感じられない。 もっとも、そんな詩ばかりではない。 南は豊かである。 【江南】(古辭) 江南可採蓮 蓮葉何田田 魚戯蓮葉間 魚戯蓮葉東 魚戯蓮葉西 魚戯蓮葉南 魚戯蓮葉北 一面蓮の情景描写だが、民謡なら暗喩なしの歌は有りえまい。果たして、水面下で戯れる魚とは何のだろう。 龍頭の鱗となって散っていくより、江南で可愛い娘を隠れて追いかけ回す魚の方が人間らしいということかな。 (C) 2015 RandDManagement.com |