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「我的漢語」
2018年6月22日

虫部

"蟲⇒虫="という文字が示す概念は「動物」。その分類観をまとめたことがある。もちろん、ヒトも含まれ、"裸虫"となる。つまり、虫ということで、生物種を定義することになる。例えば、昆虫、甲虫といった表現になる訳だ。この、昆とか甲はいわば形容詞であり、分類名称として存在したのではない。
そのような概念が存在していたなら、虫部の漢字として存在している筈だからだ。
つまり、昆虫とか甲虫とは、分類学で創出された概念の用語として新しく生まれたもの。日本発の哲学や政治用語と同じで、そのような発想は皆無だったことを示している。

ここが実に不思議なところ。
もともとは、すべての種に文字が当てられていたものの、そのうち放棄されたということも考えられるが、残っている虫部の文字は、バラバラ状態である。
なんといっても驚かされるのは、哺乳類についても虫部の文字があるという点。
【脊椎動物哺乳類】
蝙蝠こうもり/かわほり
 蝟はりねずみ(針鼠)
 もぐら(土竜)
 くもざる(蜘蛛猿)
どれも十分に体躯を観察できるし、習性もそれなりにわかっていた筈なのに、このような文字をあてたということは、なんらかの特別な特徴を見ていたということだろう。残念ながら、当時の見方はまったく想像がつかぬが。

そんな風に考えると、虫部1画文字のイメージもなんとなく湧いてくる。間違いかも知れぬが。
 𧈝…虫声
 𧈞…虫歯

忘れ去れてしまったのか、もともとなのかは定かではないが、虫部の文字はほとんどがママの生物の名前である。地方によって異なる漢字だったりすることもあったろうから、混乱はあるから一対一対応でないので混乱しているようにも映るが、基本概念はしっかりしているようだ。
従って、生物以外の意味があてられた文字には特別な思い入れがありそう。
虫に親近感を覚えていたからこその言葉。・・・
【虫的活動】
 触ふれる…さわって感じる。(触角)
 蝕むしばむ…少しずつ侵していく。(口器)
 融とける…液体化する。(変態)
虫と嬉しさを共有する言葉。
【冬眠開け】
 蟄チツ
 蠢シュン
蛇尊崇は集団で絡みあったり、二匹の交合が長時間続くシーンである可能性が強いが、単独でいてもその様には畏敬の念が払われていたのかも。
【蛇的動物の動態】
 蜿…移動:のたる
 蟠…蜷局:わだかまる
そして、特別視したのは生産物である。
【蜂の生産物】
 蜜みつ
 蝋=ろう
それ以上に素晴らしいものは糸。

と言うことで、蟲の原点たる生物から。
《蠱:呪術虫》
【毒虫 or 殺人虫】
へび
 蠎=蟒うわばみ
 蝮 or まむし(真蛇)
 にしきへび(錦蛇)
or 蛇蝎さそり
ぶと/がまがえる 蟾蜍ひきがえる 蟆ひき
【水棲虫無毒】
かえる
 蠑いもり(井守)
 水爬虫たがめ(田鼈)
 竜蝨げんごろう(源五郎)
 (銭)
【爬虫無毒】
蜥蜴とかげ
 やもり(守宮)

魑魅魍魎の世界でもある。
《霊虫》
【螫】…刺噛タイプ
はち
 じがばち(似我蜂)
虻=あぶ
 蚋ぶゆ(蟆子)

or あり
 おおあり
 []はんみょう(斑猫)
【糸虫】
蚕=蠶かいこ
蜘蛛くも
  ---以下は当てにならぬ。タコを蛸とするのは多分お遊び。---
  あしだかくも(脚高蜘蛛)(肖峭:あしながぐも)
   鮹たこ(鱆)

呪術的あるいは霊的存在とみなしたのは、南方の人々だった可能性が高い。もともとは北側とは無縁の民族集団だったと思われるが、漢字を用いることをアイデンティティとする中華帝国化が進み、強引に一体化が図られたようだ。従って、南方の抵抗勢力は虫的人々とされ迫害されたのである。
【敵対部族】
 蚩わらう…中華支配層は南方諸族の振舞いを嫌悪。
 蛮=蠻バン…南蛮
 ビン@福建
 蜑タン@海上生活者
 蜀ショク@四川盆地(蚕蜂飼育産業域)
  燭…
中華帝国のシンボルは龍だが、いかにも各地のトーテムを寄せ集めた感ありだが、その土台は蛇鰐等からうまれた南方トーテムにありそうだ。それこそが虫の世界である。
【仮想】
 蛟 or みずち
 蜃気楼おおはまぐり@渤海
 虹にじ
【竜生九子】
 
 𧈢𧏡

貝部の漢字の多さでわかる通り、南の海産貝殻が貨幣となって大陸全土を被ったことで、無意識的な帝国化が始まったようなもの。生物学的な貝類が虫部の漢字で表記されるのは当然のこと。(大陸における魚の基本は淡水棲である。)
《軟体動物》
【介(貝)】
はまぐり(浜栗)
 →おおはまぐり
しじみ(縮身)
 蜊あさり(浅鯏)
 蚌どぶがい(溝貝)
 蚶あかがい(赤貝)
 蚫あわび(鮑, 鰒)
つぶ
   田螺たにし
   栄螺さざえ
  蜷にな
   川蜷かわにな(河貝子)
  ばい
 蟶まて
 牡蠣[蛎]かき
蝸牛かたつむり
【無殻】
蛞蝓なめくじ

ただ、海産物では食生活は維持できない訳で、穀物ありきの生活。豊作もあれば、凶作もあるという生活であるとはいえ、膨大な食糧生産が可能となり人口は爆発的に伸びた筈である。それを象徴するかのように、蚤虱の類がヒトの祖であるといった話まで持ち上がったほど。現代であれば嫌われ者の衛生害虫が入るが、ヒトと同列の生物として位置付けることになんの違和感もなかったのである。
ヒトも虫だから当然の考え方とはいえ、そこには創造者と膨大な大衆という帝国統治観があらわれている。
《原始集団》
【大量発生虫】
のみ
 水蚤みじんこ(微塵子)
虱=蝨 orしらみ
 蠹魚しみ(紙魚 or 衣魚)
壁蝨だに
ひる
 あぶらむし/ありまき

現代の人々は、中国の妖怪話の多さに驚くようで、その内容を異常なフィクションとか、完璧な空想の産物と考えるむきもあるが、上記のような虫信仰基盤があったことを考えれば当たり前のこと。凡庸な人ならいずしらず、脱皮族の異常性はただならぬもの。「虫」の本質はソコと言ってもよいのではないか。
代表的な変態については皆よく知っていたのは間違いない。
《化わる虫》
【変態】
 蛋たまご(卵)
 蝌蚪おたまじゃくし(お玉杓子)…蛙幼体
  or ぼうふら(孑孑, 棒振)…蚊幼虫
 蛆うじ…蝿幼虫
 あおむし(青虫)…蝶幼虫
 蠧きくいむし(木喰虫)…紙切幼虫
 螟ずいむし(蕊虫)…螟蛾幼虫
 蛹さなぎ
 蛻ぬけがら(抜け殻)
 繭まゆ

変態する場合、その生物種の命名はそう簡単ではなかろう。おそらく、生物種としてとらえる前に、ライフサイクルのある断面における特徴を表した名称があったのだと思われる。あくまでも、霊的センスでの特徴ということだと思われる。現代の生物分類とは違う可能性が高い。
《特別な脚の虫》
【蠕虫】…無足
蚯蚓みみず
 沙蚕ごかい
 蛔かいちゅう(回虫)
 蟯ぎょうちゅう
 ゆむし…腸虫
【陸棲多足】
or 蜈蚣むかで(百足)
蚰蜒げじ
  or やすで(連手)
 わらじむし(草鞋虫)
【水棲多足】
orえび(海老)
 蝦蛄しゃこ
orかに

《空中移動する虫》
【樹中盛夏鳴虫】
蝉=せみ
ひぐらし(日暮)
   or なつぜみ(夏蝉)
  みんみんぜみ
  つくつくぼうし
【草中秋鳴虫】
 螽 orきりぎりす
蟋蟀, 蛬 orこおろぎ
【翅】
ちょう
  蝴蝶

蜉蝣かげろう
 白蝋虫うんか(浮塵子)
蜻蛉とんぼ
蝿/蠅はえ
【飛】
いなご
ごきぶり(御器噛)
【灯】
蛍=螢ほたる

《特殊な虫》
【武器手】
蟷螂 orかまきり(鎌切)
螻蛄けら
 螯はさみむし(挟虫)
【他】
 蠖しゃくとりむし(尺取虫)
 蠡ちゃたてむし(茶立虫)
 くそむし(糞虫)

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