表紙 目次 | 「我的漢語」 2018年7月2日 "ヒト"文字一瞥小生は、"文"の由来は白川説が正しいと思う。それが一番確かそうだという比較論で考えた訳ではない。文字とか文化という、極めて重要な熟語に用いられているのだから、社会の根源的な慣習から生まれている文字に違いなく、唯一、そのような主張を感じさせる論調だからである。 昔のことだが、"文"字の美しさの講演を聴いたことがある。聴衆は感じ入ったらしく大拍手。えらく違和感を覚えた。 なんと、文とは、女性の襟足の美しさを描いた象形だというのである。 時に、説明しにくくなると、誤字とするのも同じようなもの。そんなことが考えられるのは版木職人が作る時代であって、古代の亀甲獣骨文字や鐘鼎文字を間違えて彫るなどおよそ考えられぬこと。それは意図的な間違いと見るべきものだろう。 この"仁"字の見方など典型。文字の意味を換骨奪胎する動きは珍しいものではない。特に、殷(=商)代まで営々と引き継がれてきた文字の意味を消し去る動きは相当なモノ。 極東の文化の吹き溜まりである日本の古代書を糧にして文字を見詰めて初めてソレがわかるのである。 どのように変わるかは、"衆"字の例が分かり易い。 (日と囗を間違える筈はないし、それと目は全く別の部首。目がミスで血に替わってしまうなどおよそ考えられぬ。) 众 㐺[人x3] _[日(太陽)+人x3]⇒ _[囗(城壁)+人x3]⇒ 𥅫[目(監視)+人x3]⇒ 眾[目+乑(組織)](人x3⇒乑)⇒ 衆[血(兵役)+乑] 聚[耳+又(手)+乑]…敵兵の耳収集(聝〜馘) 衆の文字は、"人人人"が原義だが、どう見ても「説文解字」の"天地之性最貴者也。"にあっているとは思えない。ここでの人とは大衆そのものであって、自由人としてのヒトではなかろう。 "文"における入墨したヒトの概念とは違う。奴隷、農奴、兵士といった境遇の人々を指していると思われる。 自由人は"大"。 "大"については、「説文解字」は"天大,地大,人亦大。"としているが、天地人というコンセプトは文字の生まれる時間軸を無視した記載であろう。 小生は、先ず最初に生まれた文字とは入墨マークと見るから。そこに部族信仰がのって"文"字が生まれたと見る。 "大"はそのかなり後だろう。国家が生まれて、"人"文字が登場し本格的な文字の時代が始まったのではなかろうか。 そこに帝国意識が持ち込まれて生まれたのが"天"であって、"地"という文字など存在していなかった可能性もあろう。 「説文解字」は儒教国家観を補強するために、どうしても天地人でいかなければならないだけのこと。 "人"字は線書きでのヒトの横向きの姿の表象化に成功しており、極めて優れたデザインであり、最初の部首だと思われる。 ただ、それ以外の様々なヒトの姿の表象化も行っており、現代にまで伝わっている文字は少なくない。・・・ 人…横向きヒト(従属的) 𠆤=丁…賦役被徴用者 从…從/従 比…从の逆向き 北…背面合わせ 𠤎(≠匕)…逆向き死体(變) 化[亻(正常体)] 齔[歯]…乳歯が永久歯に生え変わる. 勹…屈曲した横向きヒト(屈葬の遺体) 匈{凶(入墨)}⇒胸 勽[人]…覆い被さる(抱く) 勻[二]=[冫]…均一的 耂…長髪が垂れているヒト (者は枝や土を祭器に被せる象形) 老[𠤎]…死と隣り合わせ 尸=𡰣…立っている姿 or 横たわった死体(→形代化) 屍 屈 屌(外性器) 𡱖(♀性器) 尻 尿 屁 屎 (屋根系は別) (動物系[尾,屑,屠]は別) 巴…腹這いのヒト or 蛇 爬…爬虫類 邑/阝[囗(城壁)]…王城 儿…歩いているヒト 兄[口] 兒[臼]=児 先[⺧/牛] 兂[n.a.]…笄(簪類) 元[二] 𡗕[八]=㕥…腋の下 㕦[口]…大声 兇{凶} 充[𠫓] 𣬜[毛] 禿[禾] 灮[火]=光 兠[北+白]=兜 なんといっても肝心なのはコレ。 文…正面向きヒト-胸の強調(入墨印) 入墨超人の部族はマナ信仰だった可能性は高く、視線をぶつけることは禁忌だったかも。その人達が文字をつくり、文化を生み出したのは間違いなかろう。東アジアの海彦である。 ともあれ、正面の姿とは、自由人そのもの。かなり思弁的様相を感じるから、こちらは山彦がそれに倣って生み出した新しい文字では。 そこから天という概念が生まれたのだと思われる。 大…正面向きヒト 天[一(頭の強調)] 𡙎 𡚌…膨大な空 夫[一(長髪の髷を留める簪)] 𡗓[_(地面)]=立 𠀤=竝=並 㚐[大] 夶[大]=比 𡗛[勹] 夷/𡗝[弓]…東夷 旲天上帝 美[羊]…優 羍[羊]…子羊 爽[㸚]…清々 (≠大:犬の点省略)臭[自]⇒臭 (≠大:犬の点省略)哭[口x2]⇒𡘜 "大"は性別的には♂であると見てよかろう。しかし、"人"は♂とは限るまい。男は、"人"の一種とされているからだ。 侽=男[田+力(農具の鋤)] 㚢=婢,侮 奴…♂(♀の婢に対応) 言うまでもないが、"女"とはその姿の象形。いかにも神霊祈祷師的な様相を呈しているデザインだ。巫女の地位が高く、女系だった時代の古い文字だろう。 女…跪く姿 婦[女+帚(ははき/ほうき)]…"ははき"は祭具でもあろう。 この辺りの基本概念が出来上がって、初めて部首の組み合わせで文字を作ることができるようになったと思われる。 頁系の一連の文字など、素晴らしいの一語に尽きる。 首が古い文字で、頁はその発展形だろうが、首系の文字が消されずに残ったのは奇跡に近いかも。 なかでも、"道"という文字が圧巻。現代とは全く違う死生観が支配していた古代部族社会の文化を物語っている文字と言うべきだ。老子はそこらを理解していたに違いないし、唐代のインテリも薄々わかっていた筈である。口外するような馬鹿はいない訳で。 尤も、文字だけ残って、文化が消えたのは大陸であって、そこから外れれば、残滓が"切腹"として残っている社会もある訳だ。 大陸では部族社会から、国家創出に移行する過程で、一にも二にも戦争最優先社会になってしまった訳で、それを嫌う人々は海のかなたの"雑種文化の地"へと去ったのであろう。従って、、そこは、自由人にとっての憧れの地だった可能性は高い。 首[丷+𦣻]=𩠐…毛髪がついた切断したヒトの頭部 道[辶]…首を掲げて道を切り拓いたことになる. 馘[或[戈(矛)+一+口(領地)]]…馘首/斬首 頁[𦣻+八]…ヒトの頭部強調 頭 頂 頸 頬/頰 額 顎 顏/顔 頽 (C) 2018 RandDManagement.com |