■■■ 「說文解字」巻十一を眺める[9]  ■■■
巻十一の「詩経」引用は、ほとんどが水部所属文字で、<氵>だらけ。
水部は468[464]字もあるから当然とはいえ。(重文22[25]と新附23を合わせ513字。)

後世、南船北馬の国と云うに、五行での規定に沿って北方之行とあり、揚子江域でなく、黄河九曲(蛇 or 龍)こそが帝国の土台(亀)を形成しているということだろう。
易的な見方で、中有微陽之气也になるとされていて、これではなんのことやらだが、土(元气初分)・云/雲(山川の气)から生まれる微陽之气。

一方、水≒準との見方は極めてすぐれている。現代感覚だと、water stream的に感じてしまうが、字体は川と違い、𡿭に近いのだから、自然の情景ではあるものの、liquidに近いイメージでの造字と考える方がよさそう。要するに、流れているもののそれはほとんど意識できず、風が吹けば漣が立つ風景を思い浮かばせる文字ということ。

ともあれ、水部は異体字だらけの印象。

これはある意味当たり前。・・・
酈道元@北魏:「水經注」40巻@515年(元書は桑欽@前漢 or 郭璞@晋:「水經」らしいが、この注は多くの亡失部分が後代の復元で、内容混在もあって、古代のママ伝承と見なす訳にはいかない。そのため、三国代成立との見方もある。)には、1,252大小河流が掲載されており、約90ヶ所の津渡が存在していることがわかる。これに、200ほどの泉水、井水、地下水と30余の伏流水、約60の瀑布、31の温泉が加わる。
さらに、類型として湖、澤、海、浦、淵、潭、池、渚、淀、沼、等の記述。
言うまでもないが、付随情報も豊富であり、網羅的で系統だった地誌書である。
そして、なによりも最大の特徴は、その名称が歷史遺蹟、人物掌故、神話傳說に基づいている点。
巻名だけでも多数の氵文字で溢れており、全巻を通せば、どの程度に上るのか想像もつかない。

これらは、国名の漢が象徴するように、大陸ではほぼ地名に近い。
膨大な数にのぼる地名を文字表記化するのだから、氵に音符での造字が基本とならざるを得まい。地名発音とは、一番純粋な方言でもあり、対応する類似音文字は何種類もあっておかしくない。単語とは1文字を意味し、1文字1発音を原則とすると規定していても、こればかりはどうにもなるまい。
これこそ、異体字発生の原点ともいえよう。


潧與洧 方渙渙 ⇒溱
江有洍 ⇒汜
風雨湝湝 ⇒瀟瀟
DD沱北流 ⇒滮池
瀏其清矣
𤃴施罟𤃴𤃴 ⇒施罛濊濊

河水清且淪漪 ⇒漣猗
𧥑沸濫泉 ⇒觱沸檻泉
GGG其止 ⇒沚
有漼者淵
敦彼淮濆 ⇒鋪敦淮濆 or 截彼淮浦
ゥ河之漘 ⇒ゥ之河之漘

鳧鷖在潨 ⇒渚
江有
𤅩𤅩其乾矣 ⇒暵
蒸然汕汕 ⇒烝
深則砅 ⇒
有渰淒淒 ⇒萋萋
終風且瀑 ⇒暴
𣹢僭始旣𣹢
瀀瀀
零露濃濃
汽可小康 ⇒汔
河水浼浼
有酒我 // 零露
潸焉出涕 ⇒澘
在河之州 ⇒滸 涘 or 漘
江之永矣
江之羕矣 ⇒↑
𠗲納于𠗲陰 ⇒凌
霝雨其濛 ⇒零
終風且霾

     


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