■■■ 「說文解字」 卷十三を眺める[6]  ■■■
「說文解字」にはに文字熟語が多く、A=AB B=ABと続けて記載してあるので、同じ文字がゴチャゴチャ並んでしまい、読みずらい。"虫"部でも少なくない。(この部を選んだのは、その理由推定にベストと考えたから。)
ただ、実用的には熟語使用が多いとはいえ、どちらか1文字でも通用するのだから、この記載方法は正しい。つまり、字義は同じだが、造字時の元義は違うということになる。漢字の鉄則。
それでは、何故に2文字あるかといえば、ほぼ自明。
・・・生物であればどうしてもそうならざるを得ないからだ。犬猫を見慣れていると忘れてしまうが、一般に♂♀には顕著な違いがあり、体躯が雌大雄小だけであることが多いが、全く違う種に見える例にも事欠かない。従って、両者の名前は異なりがち。

螻蛄[婁古]
𧒾蠰[當襄]不過
𧑐蟥[矞黃]
蛺蜨[夾疌]
蜻蛚[列青]
𧍘蟉[幽翏]
蝦蟆[叚莫]
蛧蜽[网兩]山川之精物 淮南王說…蛧蜽 狀如三歲小兒 赤K色 赤目 長耳 美髮
蝙蝠[扁畐]服翼
(:螮蝀[工]狀似蟲)
螮蝀:虹[帶東]
虴蜢[乇孟]艸上蟲

小生など、こんな面倒な文字を科挙受験生に完全暗記させて何の意味があるのか、噴飯モノと見てしまうが、これができることこそが帝国を支えるエリート階層としては嬉しいのである。現代であれば、"鉄ちゃん"がモハ9010とかの数字をすべて覚えるようなものだろう。(小生など、ハリポタ演劇を見ても、読んだことが無いのでさっぱりわからなかった。読んでいても、ギリシア語版叙事詩演劇はどの場面かさえわからなかった。)
虫偏では無いが、現代でも、魑魅魍魎はよく使われており、漢字好みの社会体質を示していると言ってよいだろう。漢王朝代では、こうした熟語文字は、宗教的感性で読まれていた可能性も高いし、こうした文字を使うことがある種のエンタテインメントでもあったと見てもよさそう。

上記熟語でも、いかにもと思える用例がある。 
武帝を歓ばすために創作された文章には、虫文字が躍っているから、わかるのだが。
  駕應龍象輿之蠖略逶麗兮 驂赤螭青蚪之𧍘蟉蜿蜒
  @司馬相如:「大人賦」(中原から出発して游仙界にという賦)
参考
蜿蜒は知られた熟語だが、非収載。蛇的"延々"表現を飾った遊びの造字だろうから、字義解明無用として無視したのだろう。
そもそも、𧍘蟉にしても、異界に棲むモノの名称であり、文字情報が残っている可能性はほとんど無いから、元義が想像できる訳がなかろう。世に知られる様になって、王朝官僚がそれを耳にするようになれば文字化せざるを得なくなり、そこで初めて、官僚解釈の原義が生まれる。そんな文字が象形・会意か等か検討してもほとんど意味はなかろう。「說文解字」はそこらをそれなりに勘案していそう。
太安万侶クラスだと、そこらの編纂上の迷いが見えるから、大いに楽しんで読めた筈。
  

糸素絲率虫䖵蟲風它龜黽卵二土垚堇里田畕黃男力 

│ 巻十二

├┬┐
⑫⑫⑫
弓甾曲
├┐
⑬⑬
弜弦
┌┘

│ 巻十三

├┬┐
②②②
素絲率
┌─┘

├┬┬┐
④④④④
䖵蟲風它
┌──┘
├┐
⑤⑤
龜黽



-----

  巻一

│   巻十三

├─────── ⇒巻十四

├┬┬───── ⇒巻十四
③③③
垚堇里
┌─┘

├┬┐
⑤⑤⑤
畕黃男
     

 (C) 2024 RandDManagement.com  →HOME