■■■ 「說文解字」 卷十四を眺める[8]  ■■■

最終巻では、数字の順列表記がなされるが、派生文字が挿入されていて、いたって、煩わしい。
  四宁叕亞五六七九
配置からすれば、四から字体的に繋がっている筈だが、それを読み取れる人などいそうもない位の異形。

冗談半分に書き入れた様にも思えるが、どこが面白いのかさっぱり分からない。部首所属文字も並んでいるから、気分で挿入してみたという訳でもなさそう。

えらく難しいが、3字共に数字4の本義を示したかったので書き入れたと解釈することにして、この意味を探ってみた。

先ずは【宁 】(=寧[寍+丁]らしいが。)。辨積物とされているがなんのことやら。
非楷書の字体は、確かに上隆四周之形[「康煕字典」≪設問≫]に見えるものの、それが何かは想像がつかない。ただ、この文字が使わて来た意味としては、2系統あり、"たくはえる(貯)"と"たたずむ(竚)"。後者は困難だが、前者は字形は容器との説明がピッタリである。
さらに、容器の蓋と門扉のアナロジー関係を想定すれば、底流に同一概念ありと云えないでもないが、かなり無理がある説明になってしまう。
しかし、そうかも知れない感が無いでもない。
  天子當依 而 立 諸侯北面 而 見天子曰覲
  天子當
而 立 諸公東面 諸侯西面 曰朝[「禮記」曲禮下]
これからすると、屋外で王権屏風を背にした皇帝と向かい合って総員<観>の拝礼の後、室内に入って、皇帝の前に左右に分かれて拝謁を賜る<朝>礼の儀が行われたことになる。つまり、四方を意識した構造の部屋内で王権を示すことが宁。
これが4の原点か。

続いて、【叕】だが、系譜からすれば、又に繋げるべき文字。しかし、四又をどうしても入れたかったのだろう。字義は綴聯でしかないが、お好みの言葉があったからでは。
  聖人之思修 愚人之思[「淮南子」人闌P]
   (聖人は思慮遠望だが、愚人は目先だけで短慮。)

最後が【亞】。
「說文解字」の字義は醜。惡系の文字があるし、字形が人局背之形と見なすのだから、曲脊との意が含まれているのだろう。
一般に、字義は、誇れる2番というイメージではなく、トップに抑圧されたかの様な準位置。4の入り込む余地はない。・・・
  大師摯適齊 飯干適楚 三飯繚適蔡 四飯缺適秦
   [「論語」微子第十八]
    (大樂師は齊國に去ってしまった。次席の樂師は楚国に去ってしまった。)
  我友邦冢君 御事 司徒 司馬 司空 旅 師氏 千夫長 百夫長・・・
   [「尚書」牧誓rewrite@「史記」周本紀]
   (亞=次 旅=衆 ・・・衆大夫。)

これではお手上げ。

視点を変えて、字音。アとされるが、「古事記」音t仮名は基本"阿"を採択。転用は可能なようだが、倭語上では若干の音の違いを示していると考えた方がよさそう。唖/啞という発声性情文字が存在しているからで、促音ではないが、"アッ"タイプの詰まる音の可能性がありそう。(日本語のアは母音型一拍音だが、漢字発声の原則は子音型音節音でそれに韻音で差別化が図られており、片仮名記載音では同一文字でも実際の"音"では異なっていておかしくない。)倭語的にはイの一番の音だから"醜"か。・・・イメージが悪い文字として伝わって来たと示そうと試みただけ。

ここは、白川漢字論に頼るしかなさそう。甲骨はほぼ"単なる"十字形の枠。墓壙玄室の平面図と推定されている。論拠は、死霊祭祀官名が亞ということのようだが、宗族信仰の国だから、族長に繼ぐ地位という論理なのだろうか。ここらの情報は見つからないのでなんとも言い難し。
十字形と呼ぶ訳にもいかないので、玄室の四隅を落としたとでも記載することになるが、理解し難き観念である。

しかし、この文字は、派生文字からすると俯瞰的図絵であるとみるのが自然。埡は山峡の細い道がある地域を意味するというのだから。このセンスは、玄室感覚と同じようなもの。
要するに、普通に字体を眺めれば、上部から俯瞰した建築家屋俯瞰図にしか思えないという原点に引き戻されるから。そう、これはまさしく中華帝国使用の玄室ということに改めて気付かされる。

倭国式は「古事記」型。山道の坂の先にある横穴型黄泉の異界の世界。
これは、始皇帝陵の構造とは全く異なる。巨大さに目を奪われるが、極めて深い竪穴に死後の部屋を構築しており、全く異なる様式。(史書が指摘するように、倭では、こうした槨が無かった。)
しかし、中華帝国にはもう一つの横穴式が併存していた。
その基本デザインは、十字形に配置された連結4室(長方形の棺安置部屋をメインに左右側室と玄関部屋)で、必須の付属構造が門扉と羨道。
意味はわからないものの、死後世界は4室なのである。
  


金幵勺几且斤斗矛車𠂤𨸏𨺅厽四宁叕亞五六七九禸嘼甲乙丙丁戊己巴庚辛辡壬癸子了孨𠫓丑寅卯辰巳午未申酉酋戌亥 
  巻一

│   巻十三


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③③③ │
垚堇里 │
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││  巻十四
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①①
金幵
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②②②②②②
勺几斤斗矛車
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│   𠂤𨸏𨺅


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𠫓

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