■■■ 「說文解字」[古事記] ■■■ 「說文解字」と当時の辞書(韻引き的文字表)を目にしていたと見て。 さらに、この字体展開から、必然的に3種類の分裂が発生しており、それに対応して唐朝が対応施策を展開したことも、よくご存じだった筈。…公式文書用、メモ用(私的通信 複写 記録)、簡易化表記用のこと。 この3種は対立的ではなく、線引き文字(篆)の誕生と共に生まれ、以後、常に併存しており、王朝制定漢字成立と共に生まれた一大特徴。(唐代、それぞれ、正体、通体、異体と読まれたようだ。) 新王朝官僚によって公式文字の新陳代謝が行われる仕組みとも言える。 始皇帝が焚書迄して、公定漢字社会を強制的に作り上げたのは間違いないが、もともと<大篆⇒小篆⇒隷書⇒楷書>と進展するのは必然でもあるということ。 太安万侶は、これが解かったので、漢字のみで倭語を表記できると確信したと見る。 この見方こそが「古事記」成立を解く鍵ではなかろうか。 倭語は、文章構造的に、漢文との類似性は皆無。対立的と云っても過言ではなかろう。にもかかわらず、漢文的表記を使って倭文表記に挑んだのだのである。漢文を学ぶのだから、平気だとみなした訳だ。 何といっても、倭語の単語レベルで漢字表記を行ったのだから、ほとんど暴挙に近い。 漢語とは、 ○発声の最小単位は1音節。 母音を子音が挟む。(子音語彙) ○単語は原則1音節。 これを漢字の1文字に当てている。(単音節単語) ○単語表音は固定。品詞を知る手掛かり無し。 品詞は単語の順列で読み取る。(全単語無変化) ○文の主たる単語提示は不可欠。(構造言語) 一方、倭語は、 ○発声の最小単位は1拍。 必ず母音で終わる。子音は装飾。(母音語彙) ○単語は普通は複数拍。(拍音単語) ○単語の発音語尾変化の様子と、 後置助詞から品詞がわかる。(単語語尾変化) 単語の順列には自由度がある。 ○主題さえ伝わるなら、主語不要。(述語言語) 文章構造に制限は無い。 漢語では、単語が1音節なので、それを1文字化すれば、表記完成。しかし、発音での品詞上の区別がないから、これだけでは不完全。1語彙だけではコミュニケーションが成り立たない。複数単語を順序建てて並べて、初めて各語彙の品詞がわかり、単語の語意が確定する。 漢字に品詞の概念を組み込めないのだから、字義は漠然としたものであって、その意味は文字順列で文脈を読み取って初めて定まることになる。 相対話語の倭語は、話題が自明なら、品詞がわかるような1語だけでもコミュニケーション可能。と云うより、その方が互いの親密性を確認できる言語である。単語配列や省略は自由自在といってよく、その表現の仕方で、漢字字体の正⇔通⇔俗の様な社会的関連性をも示すことができるとも言える。 こんなことを考えていれば、少し無理するだけで、倭語の漢字表記が可能と気付いておかしくない。 その切っ掛けは漢語翻訳仏典に触れたこと。帰朝僧を通じて天竺原典との発音の違いを知れば、考えさせられることは多い訳で。非公認文字使用のサンスクリット原典はすべて翻訳後焚書という中華帝国の姿勢もわかっただろうから。 意訳文は別だが、音素を明確にしている単音(真言)を、同一音素で形成されている文字が無いにもかかわらず、類似として1音節文字で対応させたのだから、強引そのもの。 これが可能なら、1拍音表記に何の問題も無いと判断して当然。 そうなれば、後は、一気呵成。 漢字は品詞指示なき1文字単語なので、字義が曖昧だから、倭語として使うならその字義イメージで自由に読めばよいだけ。しかも倭語は構造文ではなく話題文だから、文脈から字義を読むのは、もともとお茶の子さいさい。 ただ、文字表記化すると、相対話語の様に文章の話題は自明でないから、そう簡単にはいかないだけ。しかし、それがわかるように、助詞文字を駆使すればなんとかなる。後は、文の切れ目さえわかればどうということはない。・・・そんな結論に往き付くのは自然。 つまり、「古事記」文は疑似漢文とか変態漢文の類ではない。全く類似性無き言語体系にもかかわらず、漢文に似ていると感じるのは、単に、語順で述語を見分ける方法を利用したからに過ぎない。 とはいえ、倭語の文字化は、漢字を使用した以上、漢文模倣であることは間違いない。従って、数周遅れのトップランナー化を実現したとの評価が一番まとも。 その見方からすれば、「古事記」後の字体の正⇔通⇔俗とは、漢字⇔片仮名⇔平仮名に当たる。 思うに、日本国は国史を中華帝国漢文で記載した以上、"正"文字は漢文の漢字。常識的には、全面漢語化の道しか無かろう。 ところが、そんなことは無いと太安万侶が一石を投じたのである。 ・・・「古事記」なかりせば、日本語は失われていた可能性が高い。その「古事記」文章を実現する上での、最大の貢献者は「說文解字」ではなかろうか。 (C) 2024 RandDManagement.com →HOME |