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2003.6.3
 
 


洋上風車が動き始める…

 風車発電の話をよく耳にするようになった。最近の話題はもっぱら洋上風車だ。資本効率が素晴らしいそうで、有望視されているらしい。

 実際どのようなものか、国内初と言われる瀬棚町のプロジェクトを見てみよう。

 Vestas製風車を川崎重工と海洋工事のリーダー五洋建設がフルターンキーで構築しており、2004年2月に完成予定だ。(http://www.penta-ocean.co.jp/news_re1/kaiyo_hatsuden/windpower.html)

 ところが、この電力をなにに使うつもりなのかは、よくわからない。

 深層海水の汲み上げ用エネルギーにするらしいが、今もって曖昧模糊とした記載しかない。次ぎが港湾内の海水・河川水循環混合だ。おそらく、ホタテやアワビの養殖効率向上を狙うのだろう。他に特段のものはない。小さな町のエネルギー供給源としては大型すぎる施設である。(http://www.town.setana.hokkaido.jp/k13b.htm)

 瀬棚町は、北海道の渡島半島の根元に位置しており、とりたてて特徴の無い地域である。町の計画を見ても、真っ先に農林水産業の振興があげられている。農道/林道/漁港の整備を進めるのだろう。それに次いで、観光振興(公園整備事業)と来る。どこでも良く見かける計画だ。(http://www.town.setana.hokkaido.jp/k1355.htm)
 このような状態で、地元に電力の新しい使い道が見つかるとは思えない。(そもそも騒音源の風車と観光が両立するものだろうか。)
 そんな町が、高額な発電事業を進めているのだ。

 なんのことはない、電力を売って町の財政を豊かにする方針だ。これで数千万円が「儲かる」ことがわかれば、多くの町が洋上風車に取り組み始めるだろう。
 沈滞一途の地方経済を支えるため、電力会社を通じて電力代金から補助金を回してもらう訳である。農道/林道/漁港の整備事業に回せる予算は先細りだから、環境をスローガンに、電力会社にぶる下がるのだ。

 ・・・といった批判をすると、風力発電の意義を理解していない、と見なされるらしい。

 確かに、独、西、デンマークを中心に市場が急速に広がっている。日本も遅れるな、との気持ちもわからぬではない。(http://www.btm.dk/Documents/Press%20release%20WMU02.pdf)
 しかし、この流れの底流は思想・社会運動であり、実践的見地から普及が進んでいるとは言い難い。(例えば、2003年5月のGreenpeace「Wind Force 12」によれば、2020年までに風力発電のシェアターゲットは12%だ。 http://www.ewea.org/doc/0527-Wind%20Force%2012%20launch.pdf)

 日本はGreenpeaceが活躍している国とは違うし、ガスパイプラインも無い。抱える問題は全く違う。
 にもかかわらず、風力発電促進論者は、デンマークの成功を真似ようとする。電力会社への売電システムが成功の鍵だったため、日本でも同じことをして風力発電を浸透させようというのだ。(http://www.windpower.org/news/index.htm)

 これこそ日本政治の特徴だ。一見、方針があるように見えるが、「新エネルギーに進め」というだけで、進め方に関する理屈は何もない。一方で、潤沢な資金源だけは準備する。その結果がどうなるかは、わかりきった話しだ。この仕組みを変えない限り、まともな政策が登場することはない。

 そもそも、デンマークをモデルにしたところで、意味があるとは思えない。
 デンマークは人口537万人で九州程度の広さだ。酪農畜産業中心で、GDPが1,614億ドルの小国である。この状況なら、戦略的に風力を志向してもおかしくはない。ニッチ分野を狙えば、世界のリーダーになれるかもしれないのである。(実際、世界で競争力を持つ装置メーカー育成に成功している。Vestas, NEG Micon, Bonus, Nordexといった企業である。 http://www.afm.dtu.dk/wind/manufact.html)

 日本は、農業国とは程遠い上、人口過多の、エネルギー消費大国なのだ。
 しかも、風力発電は、送電コストが不要になる訳でもなければ、消費ピーク時の需要にも対応できない。技術革新でコスト大幅低下があり得る分野でもない。
 小規模発電による、地元需要対応なら理解できるが、洋上風車のような大型発電は極めて筋が悪い。しかし、今のままなら、企業は大挙してそちらに進まざるを得まい。


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