↑ トップ頁へ

2004.2.9
 
 


原油50ドル時代到来か…

 2004年1月に行われた、BPの技術担当Group Vice President Tony Meggs氏の講演は、エネルギー問題に対する巨大企業の姿勢をはっきりと示したものと言えそうだ。(1)

 石油の世界は、巨大企業の寡占化が進んでおり、競争による切磋琢磨が損なわれとの懸念を示す人達が多い。
 確かに、カルテル化による不当な利益を生む可能性は否定できない。

 しかし、米国の電力規制撤廃と民営化による競争は、省エネ投資削減や、技術開発カットに繋がった。全体としては、悪い方向に向かってしまった。ドグマは機能しないのである。

 Tony Meggs氏の主張の通りなら、メジャーの統合はプラスに働く。
 資源開発を進めるためには、膨大な資金と優秀な頭脳が必要である。企業統合で重複投資が減り、より効率的で大規模投入が可能になったという。・・・正論である。

 石油といえば、コモディティ商品だから、ローテク産業に見えるが、その内実はハイテクそのものだ。しかも、事業構造は極めて複雑である。

 上流側から、油田探査、油井掘削、原油輸送、精製、1次流通、石油製品製造、2次流通、販売、と流れは長い。どの機能も、資金がかかる上、専門知識が不可欠である。従って、高度なマネジメント力が要求される事業なのは間違いない。

 探査機能1つとっても、必要となる技術はハイテクばかりである。この業界では、人工地震による3次元地質探査手法は一般化しているが、この技術を駆使するには、高度なコンピュータ・ソフト開発力と活用のスキルや、地球科学の最新知識が不可欠である。
 油田掘削はさらに複雑な技術体系からなる。数1000m深度の掘削自体が大変な仕事だ。それに加えて、最近は掘削しながら状況を時々刻々モニターする手法が使われている。この手法に使われる技術は、放射線による測定技術や、掘削潤滑剤としての泥水調整だ。簡単に真似できない極めて高度な技術だ。
 しかも、油田が枯渇してきたから、寿命を延ばす技術が次々と投入されている。すでに、天然ガス/水蒸気/液化二酸化炭素等の注入技法が広く普及しているが、さらに高度な傾斜掘削法も使われるようになった。
 原油の輸送にしても、パイプラインを敷設すれば、済むものではない。水を送るのとは訳が違う。しかも、どこに運ぶかも簡単に決めることはできない。井戸毎に成分が異なるからである。成分に適した精製所を手当てする必要がある。間違えば、設備寿命を短くしてしまうから、極めて重要な決断である。

 このような、技術の塊のような産業であることを忘れるべきでない。
 そして、さらなる技術進歩が求められている。米国の電力産業のように、開発投資を削減されたら世界がこまるのである。

 特に、上流側のハイテク技術開発が上手く進まなければ、エネルギー不足で世界経済は奈落の底に落ち込む可能性さえある。
 世界のエネルギーは事実上石油に依存しており、天然ガスにウエイト変更したところで、大した違いはないし、ガソリンを水素に変えても、この状況が変わる訳ではない。
 代替エネルギー源が確保できるまで、石油生産増強は経済成長の大前提なのである。この前提を支えるのがメジャーの技術である。

 イラクの状況が明かになるに従い、素人にも、この技術進歩の重要性が明白になったと言える。

 というのは、膨大な埋蔵量を有するイラクで、原油生産を拡大するのに、膨大な資金が必要なことがわかってきたからだ。簡単に増産はできないのである。
-- 中東発原油高 --
73年10月〜74年3月 第1次石油危機
78年12月〜79年3月 第2次石油危機
80年9月〜81年2月 イラン・イラク戦争
90年8月〜91年2月 湾岸戦争
 一番安価に増産可能な地域でさえ、かなりの労力がかかるのだ。
 ということは、現在の技術対応力では、増産スピードが需要に追いつかない可能性が高い、ということだろう。

 今までの、需給ギャップは戦争やOPEC減産のように、人為的に引き起こされてきた。ところが、これからは実需要と実供給で決まることになりそうである。石油の世紀に、一大転機が訪れたようだ。

 中国やインド経済が伸張し、コンピュータが普及するから、エネルギー需要は確実に伸びる。供給切迫は思ったより早いかもしれない。
 原油生産は2003〜2009年にピークアウトする、とのアカデミズムの主張も無視できなくなってきた。
  (元シェルの専門家 Kenneth S. Deffeyes著「Hubbert's Peak: The Impending World Oil Shortage」2001年 )(2)

 技術進歩が実現しなければ、2010年までに原油50ドルが始まるかもしれない。

 メジャーの資源開発に頼る以外に、この事態を避ける道はなさそうである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=98&contentId=2016213
(2) http://pup.princeton.edu/titles/7121.html


 エネルギーの将来の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com