↑ トップ頁へ

2008.6.30
 
 


エネルギーの脱炭素化に本気になれるか…

 2008年6月、ようやく、Economist誌が原子力発電についての将来についての記事を掲載した。(1)
 「ようやく」と書いた理由は、“nuclear batteries”(factory-made sealed units with an output of 10 megawatts and a lifetime of 15-30 years)を取り上げたからである。テロがはびこる世界にしてしまった以上、世界に広げるにはこうしたコンセプトしかないのはわかりきったことだと思うが、どういう訳か、ジャーナリストは知らん顔を決め込んできたからだ。
   → 「4S炉認可か」(2005年2月18日) + (2005年3月7日)

 もっとも、日本では、ドグマ的な反原発論者が多いから、こうした技術についてオープンな議論はできない。どう実現すべきか、などと言おうものなら、大騒ぎになるからである。
 しかも、エコ運動までが精神論に陥りつつあり、冷静にエネルギー問題を考えることができなくなっているのが実情である。
 それを表す、よく知られた話がある。・・・エネルギー節約運動者の会合に呼ばれた方が、「東京に住んでいますが、自宅にエアコンは無いですし、持っているのは古い扇風機だけ。それで、十分快適です。皆さんも、この機会に、先ずエアコンを外しましょう。」と語ったそうだ。拍手どころか、場内がし〜んと静まりかえったそうである。エアコン無しの家に住もうなどと考える人はいなかったらしい。
 まさか、コンピュータを増やすなと主張することはないと思うが、現実を直視し、増える電力量にどう対応するか、という議論はしたくないことがよくわかる。

 炭素燃料使用量を減らしたいなら、現実には、原子力発電を増やし、ピーク需要対応に太陽電池設置を進めるしか無いと思うが、そんなことはさせたくないのだ。
 ともかく、原子力発電を止めよという人が少なくない。
 それなら、どうするということは考えない主張だから、議論はできない。そのため、現行計画でさえ、その通り実現できるかは、なんともいえない。

 一方、米国は、Bush政権が原子力発電を解禁。すでに、Westinghouseが14基、GEが7+2基、Arevaが7基、と一気に計画が立ち上がっているという。動きは早い。
 もともと、米国が原子力発電を凍結していたのは、安全性の問題が生じたこともあるが、下手にこの技術を世界に拡散させると、核兵器製造が始まる可能性があったからだと思われる。しかし、そんな問題を回避できる技術はほとんど揃っている。あとは、政治的決断だけの問題だろう。
 そんな動きの前に、世界中で建築計画が続々生まれているようだ。石炭を使うなと要求する人が増え、石油価格が高騰しているのだから、当然の流れである。今のままなら、早晩、安全保障は担保できなくなろう。

 熱媒体は水とし、安全性を向上させた新世代型を建設することが常識化しているようだが、高温ガス小型炉の商業化努力も続いている。
 よく知られているように、この炉は、水を使わなから空焚きリスクを無くせるので、恐怖の炉心溶融が無いということでどの国も開発を行ってきた。
 と言っても、核種を外部放出させかねない、高温ガス媒体漏洩防止は厄介だろうし、燃料やタービン等の破損事故も考える必要があろうから、直接水素製造をするのでなければ、そう魅力的な仕組みとも思えないが。
 ただ、南アフリカでは、2025年までに原子力依存を5%から30%にあげ、石炭86%依存から脱する計画だそうで、(2)建設費用が小さい“Pebble Bed Modular Reactor(PBMR)”の建設を始めそうな雰囲気があるようだ。(3)

 日本の実証炉では、すでに冷却材流量低下模擬試験(4)まで行われており、この分野では先頭を走っていそうだ。だが、この技術を活かせるかは、社会が後押しするかにかかっている。
 と言うのは、これこそが、水素生産技術の本命に間違いないと思うからだ。
 本来なら、政治家がリーダーシップを発揮し、「日本は、原子力による水素生産最大国になる」といった位の発言をすべきところだが、残念ながら、期待はできない。
 セクター別のチマチマした議論でエネルギー節約を目指す仕組み作りや、下手をすればゼロサムの金融ゲームになりかねない排出権取引ばかりで、抜本的に技術で状況を変えることは嫌いに政治家が多いということか。

 --- 参照 ---
(1) “THE FUTURE OF ENERGY Life after death ” Economist [2008.6.19]
  http://www.economist.com/specialreports/displaystory.cfm?story_id=11565609
(2) 第41回 原産年次大会の概要 pp10 [2008.5.20]
  http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2008/siryo23/siryo1.pdf
(3) “PBMR enters into technology development agreement with Stellenbosch University” PBMR Communications [2008.3.18]
  http://www.pbmr.co.za/index.asp?Content=218&Article=99&Year=2008
  南ア原子力産業協会のツェラ理事、大洗の高温ガス炉見学 [2008.5.1]
  http://www.jaif.or.jp/ja/kokusai/niasa-director_httr-visit.html
(4) 「7-7 高温ガス炉の優れた安全特性を実証 −HTTRを用いた冷却材流量低下模擬試験−」
  未来を拓く原子力 第2号 2007年 −原子力機構の研究開発成果−
   http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/mirai/2007/7_7.html
(加圧水型原子炉の図) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/
  %E7%94%BB%E5%83%8F:%E5%8A%A0%E5%9C%A7%E6%B0%B4%E5%9E%8B%E5%8E%9F%E5%AD%90%E7%82%89.JPG


 エネルギーの将来の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com